投資目的暗号資産を売却した場合の税務上の取扱い
昨今は投資目的で取引所に口座を開設し、暗号資産を保有している個人も多くいると思います。暗号資産の運用によって利益が出て売却を行った場合、税務上はどのように扱われることになるでしょうか?
今回は、暗号資産を個人が売却した場合の会計処理について解説したいと思います。
1.所得税法上の取扱い
暗号資産を売却した場合の利益は、所得税法上の所得となります。
所得税法上の所得は、一定期間において納税者が稼得した経済的利益であるとされており、その所得の性格によって、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得の10種類に分類されます。
そして、この10種類の所得のいずれに該当するかによって確定申告をする際の計算方法が異なりますので、保有する暗号資産を取引所や販売所で売却した場合に10種類の所得のいずれに該当するかということが、非常に重要になります。
これに関して国税庁の見解は、事業所得となる場合と雑所得となる場合があるという事のようです。
以下は、事業所得になる場合についての国税庁の見解です。
『暗号資産をはじめとする暗号資産を使用することによる損益は、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、原則として、所得に区分されることとしていますが、例えば、事業所得者が、事業用資産として暗号資産を保有し、決済手段として使用している場合、その使用により生じた損益については、事業に付随して生じた所得と考えられますので、その所得区分は事業所得となります。このほか、例えば、その収入によって生計を立てていることが客観的に明らかであるなど、その暗号資産取引が事業として行われていると認められる場合にも、その所得区分は事業所得となります。』(<平成29年12月1日 個人課税課情報第4号「暗号資産に関する所得の計算方法等について(情報)」>より抜粋)
続いて、雑所得となる場合です。
『暗号資産取引により生じた利益は、所得税の課税対象になり、原則として雑所得に区分されます。暗号資産取引により生じた損益(邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益)は、
・その暗号資産取引自体が事業と認められる場合(注1)
・その暗号資産取引が事業所得等の基因となる行為に付随したものである場合(注2)
を除き、雑所得に区分されます。』(<国税庁「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」平成30年11月>より抜粋)
(注)1「暗号資産取引自体が事業と認められる場合」の典型例は、上記の暗号資産取引の収入によって生計を立てていることが客観的に明らかである場合などが該当し、この場合は事業所得に区分されます。
(注2)「暗号資産取引が事業所得等の基因となる行為に付随したものである場合」とは、例えば、事業所得者が、事業用資産として暗号資産を保有し、棚卸資産等の購入の際の決済手段として使用した場合が該当します。
例えば、サラリーマン投資家が投資目的で保有する暗号資産を取引所や販売所で売却した場合など、通常個人が売買するようなケースにおいては、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じたものではないことから、事業所得等には該当せず、雑所得となります。
2.暗号資産の売却損益の計算
暗号資産の売却による利益または損失の計算について解説します。
【売却損益の計算式】
暗号資産の売却金額ー暗号資産の取得価額=売却益(マイナスの場合は売却損)
上記の計算式を具体的な事例に当てはめると、以下のとおりとなります。
【事例】
2022年1月に1BTCを購入(1BTC =700,000円)
2022年5月に1BTCを売却(1BTC=800,000円)
【売却損益の計算】
800,000円-700,000円=100,000円(雑所得の金額)
この計算式でいう売却金額は、暗号資産を売却した金額となります。これに対して、暗号資産の取得価額は暗号資産を購入した時の金額となります。
ここで、暗号資産を1度しか購入していなければ計算は単純ですが、仮に暗号資産を複数回にわたって購入した場合に、取得価額どのように計算したらいいのかという問題が生じます。
複数回にわたって購入した場合における取得価額の計算方法については、従前、国税庁個人課税課より2017年12月1日に「暗号資産に関する所得の計算方法等について(情報)」として「同一の暗号資産を2回以上にわたって取得した場合の当該暗号資産の取得価額の算定方法としては、移動平均法を用いるのが相当です(ただし、継続して適用することを要件に、総平均法を用いても差し支えありません。)」と公表されていました。
しかし、令和元年(2019年)度税制改正により、「居住者の暗号資産につき事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額を算定する場合におけるその算定の基礎となるその年12月31日において有する暗号資産の価額は、その者が暗号資産について選定した評価の方法(総平均法又は移動平均法)により評価した金額(評価の方法を選定しなかった場合等には、総平均法により評価した金額)とする」(国税庁「令和元年度 所得税の改正のあらまし」より抜粋)という取扱いとなり、暗号資産の取得価額の計算方法として総平均法が法定評価方法とされました。
結果として、売却により利益が出た場合は雑所得に該当することとなりますが、会社員の方で一か所からのみ給与の支払いを受けており、年末調整が完了している場合には、給与所得及び退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下であれば、確定申告が不要になります。(ただし、住民税においては給与所得及び退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下であれば申告が不要となる制度はありませんので、住民税の申告は原則として必要になります。)
これに対して、暗号資産の売買により損失が出ていた場合には、同一所得内での損益の相殺は可能となりますので、他に年金等の雑所得がある場合には、暗号資産の売買による損失と年金等の雑所得については、相殺(いわゆる内部通算)が可能となります。
なお、給与所得との損益通算を行うことはできません。
3.消費税の取扱い
消費税法において、消費税の課税対象とは原則として、以下の4つの要件について全てを満たすものとされています。
① 国内における取引であること
②事業者が事業として行うものであること
③ 対価を得て行われるものであること
④資産の譲渡及び貸付ならびに役務の提供であること
この場合において、会社員の方が行う暗号資産の売買となりますので、事業者が事業として行うものには該当しないことから、消費税の課税対象とはなりません。