暗号資産で生計を立てる個人事業主の課税関係①

暗号資産は価格変動が大きく、昨今においては、株式のデイトレーダーのようにこの売買で生計を立てている個人も増えてきているようです。

一方で、暗号資産はまだ歴史も浅いため租税法上の判例も少なく、通達なども出そろっていないのが実情で判断に迷うケースが多いように思います。

今回はまず、個人の含み益(含み損) の取扱いについて解説をしていきたいと思います。

※なお、コラムではあくまで一般論となりますので、実際の確定申告などを行う際には必ず専門家にご相談いただくようお願いいたします。

1.含み益(含み損)の発生するケースについて

個人事業者の所得税の計算期間は毎年1~12月とされており、これはビットコイン売買により生計を立てている個人事業主であっても同様です。

たとえば、この個人事業主が1年間に複数のビットコイン売買を行い、年末には売却前のビットコインの残高があるとします。

当然、ビットコインは価格変動していますので、この年末に保有しているビットコインのストックが購入時より値上りして含み益が生じている場合と値下がりして含み損が生じている場合があると思われます。

その年の所得税の計算においてどのように取り扱われるかですが、有価証券のように含み益(含み損)は認識しないのか(売却時に初めて認識する)、それとも暗号資産の場合は含み益(含み損)の段階であっても認識するのかが今回のコラムのポイントとなります。

2.所得税法上の取り扱いについて

結論からいうと、所得税法上、 未実現の評価損益(売却時の値上りによる含み益や、値下りによる合み損)は認識しないことを原則とします。

すなわち、上記の例のようなケースにおいて年末発生している保有する暗号資産に係る含み益や含み損は、所得税の計算において計上しないものと考えます。

では、なぜそのように考えるのか、以下で解説していきたいと思います。

年末に保有する暗号資産について、実は現行の所得税法には評価差額の取扱いや年末時の換算方法に関する具体的な明文規定はありません。

法人の有する暗号資産については、 令和元年度税制改正により、活発な市場が存在する暗号資産に係る期末時価評価の取扱いが法人税法上明記されましたが、所得税法の改正は取得価額や譲渡原価に関するもののみであり、時価差額(時価評価や低価法の適用の可否)ついての改正はありませんでした。

したがって、所得税の基本となるルールや、暗号資産と同じように合み益や含み損が生じる外貨や株式などの取扱いを参考に、どのように取り扱うかを判断することとなります。

所得税の根幹を成す所得税法第36条・第37条、外貨の年末換算、株式の評価差額の取扱い等から導かれる結論ですが、現行法においては、売却前の評価損益は認識しないと考えられます。

この現行法では評価損益を認識しない論拠として、所得税法の最も重要な規定とされる所得税法第36条・第37条があります。

これはいわゆる『権利確定主義・債務確定主義』に関する条文と解されており、債務確定主義によると評価損益の計上は原則として認めなれないというのが背景にあります。

なお、ここは少し解説が必要と思いますので、補足します。

まず、債務確定主義は「債務が法律的裏付けによって確定した時点に計上を行う」という考え方ですが、『評価損益』というのは何ら法律上の裏付けのない未実現の利益にすぎません。

であるならば、債務確定主義を原則とする税務上利益について、評価損益を所得に含める余地はないということになります。

そして、同様のロジックにおいて、所得税法上、年末に保有する暗号資産に係る評価損益を認識しないという取扱いは、会社員の副業による雑所得の場合も、暗号資産売買を本業とする個人事業者の事業所得であっても、所得の種類による差は生じないものと考えます。

つまり、今回取り上げた事例は生計を立てているため事業所得になると思いますが、この所得分類により評価益(評価損)の取扱いが変わる訳ではないという事です。

なお、計算技術上の問題として、暗号資産の期末評価額が、間接的ですが暗号資産の売上原価や譲渡原価の算定関わる点については注意が必要です。

もう少し詳しく説明すると、売上原価の算定は直接計算のみだけでなく、『期首残高 +当期購入-期末残高』により間接的に算定されるため、今期の期末残高の金額は来期の利益(損失)の金額に影響する可能性があるということです。

暗号資産売却時の売上原価や譲渡原価の算定については、 株式や外貨に係る原価算定を参考にすると、総平均法に準ずる方法、 移動平均法、総平均法による算定方法などが考えられます。

これについてはまず、 2017年12月に「仮想通貨に関する所得の計算方法等について」が国税庁より公表され、移動平均法を原則とし、継続適用を要件として総平均法を認めると掲載されました。

さらにその後、令和元年税制改正により、暗号資産の法定評価方法が総平均法に改正され、令和元年分の計算より、総平均法よる算定を原則(移動平均法の選択には届出が必要)とされました。

(②に続く)