暗号資産交換業者の守るべき法制について
暗号資産交換の売買、交換、管理を行う事業者のことを暗号資産交換業者といいます。
暗号資産交換業者に関連する法律としては、暗号資産の定義などを定めた資金決済法がありますが、その他にも様々な法律が関係してきます。
今回は中でも、テロ資金等の規制を定めたいわゆる犯収法について解説をしていきたいと思います。
1.犯罪収益移転防止法の概要
犯罪によって得られた収益について、他人名義の金融機関口座等を転々とさせたり、資産の形態を変えたりして、出所不明にするマネーロンダリングは、大きな社会問題となっており、国際的な協調のもとに対応がなされています。
日本では、このような動きを受けて、犯罪により収益の移転防止に関する法律(「犯罪収益移転防止法」)によって、マネーロンダリングやテロリズムへの資金提供に関する対策が行われています。
犯罪収益移転防止法では、金融機関、リース業者、宅地建物取引業者、宝石貴金属頭取扱業者等の「特定事業者」に対して、取引の際の本人確認等を義務づけています。
暗号資産はマネーロンダリングやテロへの資金供与に利用される可能性があるため、金融活動作業部会のガイダンスにおいて、国際的に暗号資産をその規制対象に加えるべきとされました。
これを受けて日本でも、犯罪収益移転防止法の規制対象となる「特定事業者」に、暗号資産交換業者が追加され、金融機関等と同等の規制を受けることになりました。
なお前払式支払手段発行者は、犯罪収益移転防止法における特定事業者には該当しませんが、クレジットカード利用事業者は、特定事業者に該当します。
2.特定事業者の義務
暗号資産交換業者は、犯罪収益移転防止法の「特定事業者」ですので下記のような義務を負います。
- 取引時確認義務
- 取引時確認記録、取引記録等の作成および保存義務
- 疑わしい取引の届出の義務
- 社内管理体制の整備義務
⑴取引時確認義務
テロ組織などへの資金の流れを防止するため、暗号資産交換業者には本人確認義務が課されています。
とはいえ、全ての取引について本人確認を求めるのは暗号資産交換業者に過度な負担を強いることになるため、取引時確認が必要な要件が定められています。
要件は下記の通りとなります。
- 暗号資産取引を継続・反復して行うことを内容とする契約の締結
- 200万円を超える売買・交換などハイリスクの取引
- 10万円を超える暗号資産の移転
取引時確認の際には、以下のような内容を確認することになります。
- 本人特定事項
- 取引を行う目的
- 職業/事業の内容
- 実質的支配者
- 資産・収入の内容
⑵取引時確認記録、取引記録等の作成および保存義務
取引時確認や取引を終了した後、暗号資産交換業者はただちにこれらの記録を作成しなければなりません。また、これらの記録は取引に関する契約が終了した日から7年間保管しなければなりません。
それぞれの記録への記載事項は以下のとおりです。
- 本人特定事項や取引の目的、資産および収入の状況などの取引時確認事項
- 顧客が自己の氏名および名称と違う名義を取引に用いる場合、その名義および異なる名義を使用する理由
- 取引記録を検索するための口座番号その他の事項
- 本人確認書類の名称、記号番号その他本人確認書類を特定するに足りる事項
- 本人特定事項の確認を行った方法
- 取引時確認を行った取引の種類
- 取引時確認を行った者の氏名その他当該者を特定するに足りる事項
- 口座番号その他の顧客の取引時確認記録を検索するための事項
- 取引または特定受任行為の代理等の日付、種類、財産の価額
- 財産の移転を伴う取引または特定受任行為の代理等については、当該取引および当該財産の移転元または移転先の名義その他の当該移転元または移転先を特定するに足りる事項
ただし、残高照会などの財産の移転を伴わない取引や1万円以下の財産の移転に関する取引については、取引記録の作成・保存の必要はありまん。
⑶疑わしい取引の届出の義務
顧客がマネーロンダリング等を行っていることが疑われる場合、暗号資産交換業者は国へ届け出ないといけないとされています。
疑わしい取引の判断は難しいですが、事業者がその業界における一般的な知識と経験を前提とした場合に、取引の中でやり取りした財産が犯罪によって得られたものであるとの疑いがあったり、犯罪行為の隠匿にあたる疑いがあることが一つの基準となります。
⑷社内管理体制整備
取引時確認等の実施は、適切な内部統制がないと行うことができません。
したがって、そのための社内管理体制を整える必要があります。
具体的には、下記のような統制を整備します。
- 取引時確認事項の情報を最新に保つ措置
- 取引時確認などの措置の実施規定
- 統括管理者の選任
- 調査書の内容を勘案して講ずべきものとして法律などで定める措置
これらのうち『1.取引時確認事項の情報を最新に保つ措置』だけが必須の義務であり、他は努力義務とされています。
1.については、疑わしい取引を的確に判断するためには顧客に関する情報を常に最新のものにしておく必要があることから、努力義務ではなく必ず守らなければならない規定となっています。