実務対応報告38号の概況について①

企業会計基準委員会により平成30年3月14日に公表された実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」(以下、「実務対応報告38号」)は、暗号資産の会計処理を検討する上で必須の会計基準です。

今回の一連のコラムにおいては、これを概観し、注目すべき論点についてまとめていきたいと思います。

1.会計方針の変更

会計方針は、財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続をいいます。そして「会計方針の変更」は、従来採用していた一般に公正妥当と認められた会計方針から他の一般に公正妥当と認められた会計方針に変更することをいいます。
会計方針ついては代替的な複数の会計基準が認められているため、どの方法を採用するかによって利益額が異なります。

したがって会社はどの基準を採用したかが簡潔にわかるよう、財務諸表には重要な会計方針を注記しなければなりません。また、会計方針を変更する場合には、原則としてその旨と影響額の注記を行わなくてはなりません。

実務対応報告38号を新たに適用する場合、新たな会計基準の適用となるため、適用対象となる会計年度における有価証券報告書もしくは四半期報告書の会計方針の変更として、その内容を記載することになる点には留意が必要です。(1部の会社では追加情報を記載している事例もあるようです。)


実務対応報告38号の適用は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われることになりますが、適用初年度における経過的な取り扱いが定められていないことから、新たな会計方針を過去の全ての期間に遡及適用することになります。

そのため会計方針の変更により遡及適用がなされたことによる影響は、四半期を含めた適用対象の比較年度の期首に反映され、その影響については、会計方針の変更の影響額として注記することを検討することになります。


実務においてはこの遡及修正の影響が非常に大きいと言われています。

最近導入された『収益認識に関する会計基準』のように多くの会社が適用の対象となる会計基準には経過措置が設けられ、過年度への影響は適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新しい会計基準を適用すれば足りることがほとんどですが、今回の実務対応報告38号は、暗号資産を取り扱う会社が少ないこともあって、上記の経過措置が設けられていません。

そうなると原則通り完全遡及となり、特に有価証券報告書においては冒頭に5期分の指標等の推移が掲載されるため、最大5期まで遡った検討が必要となります。

2.実務対応報告38号の適用範囲について


実務対応報告38号は、資金決済法第2条第5項に規定する暗号資産を対象としています。これは、暗号資産交換業者に対する財務諸表監査の円滑な運用や、適用範囲を明確にすることによる会計処理の統一性といった趣旨によるものと思われます。

また資金決済法では、前払式支払手段発行者が発行するポイントサービスにおけるポイントは、資金決済法定の暗号資産には該当しないとした上で、暗号資産が資金決済法上の暗号資産に該当するか否かについては個別事例ごとに取引の実態に則して実質的に判断されるとしています。


金融活動作業部会が公表したガイダンスにおいて、いわゆる暗号資産は「電子的に取引可能であり、かつ、交換手段、軽量単位、または価値の蓄積のとして機能する電子的な価値の表彰であるが、いかなる領域においても法定通貨(すなわち、債権者に供された場合に、法的有効な支払いの提供となるもの)としての地位を有さないもの」であるとされています。

そして法定通貨や電子マネーとの比較では以下のような特徴を有する点で異なるとされています。

⑴暗号資産は、硬貨や紙幣に代表される法定通貨とは異なります。法定通貨は法的に通貨として指定されて流通しています。

⑵暗号資産は、電子的価値として移転され、法定通貨の単位で表示された電子マネーとは異なります。電子マネーは、電子的な価値移転の仕組みであり、法定通貨としての価値を電子的に移転するだけのものです。

3.実務対応報告第38号における留意点

暗号資産に関するビジネスが初期段階にあり、現時点では今後の進展を予測する事は難しいこと、暗号資産の私法上の位置づけが明らかでないことなどから、実務対応報告38号では、当面必要と考えられる最小限の項目に関する会計上の取り扱いのみを定めている旨が述べられています。

そして、実務対応報告38号において定めのない事項については、「今後の暗号資産のビジネスの発展や会計に関連する実務の状況により、市場関係者の要望に基づき、別途の対応を図ることの要否を判断することになると考えられる」としています。


基本的にすべての取引は、なにその取引経済的実態を的確に捉え、会計処理に落とし込んでいくと言う本質に変わりはなく、不明瞭な点があれば中期などで開示していくことで、財務諸表利用者保護すると言う視点が重要で。