実務対応報告38号の概況について②

前回に引き続き、実務対応報告の概観をしていきます。

今回は、特に会計上の解釈について解説していきます。

一部、過去の記事でも取り扱っておりますが、非常に重要な論点ですので復習の意味も込めて再度取り上げていきます。

1.資産の定義

会計上の資産は、貸借対照表上、借方に計上されます。

企業会計基準委員会による『討議資料 財務会計の概念フレームワーク』の定義によれば、「資産とは、過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源」です。

ここでいう「支配」とは、所有権の有無にかかわらず、報告主体が経済的資源を利用し、そこから生み出される便益を享受できる状態をいいます。

「経済的資源」とは、市場での処分可能性の有無にかかわらず、キャッシュの獲得に貢献する便益の源泉をいい、実物財に限らず、金融資産およびそれらとの同等物を含むものです。

『概念フレームワーク』などから読み取れる資産の本質は、資源から生じると期待される将来の経済的便益ということになるでしょう。

 資産は具体的には、現金や預金、売掛金や受取手形、貸付金などの金銭債権等のような貨幣性資産、商品・製品等の棚卸資産、建物や機械などの有形固定資産、特許権や意匠権などの無形固定資産のような損益計算上費用化される費用性資産に分けられます。

それ以外にも、土地や建設仮勘定、子会社・関連会社株式やその他有価証券等の投資勘定、繰延資産のような換金価値のない資産も存在します。

2.暗号資産の会計上の資産性の有無

暗号資産は現時点において、私法上の位置づけが明確でなく、暗号資産に何らかの法律上の財産権を認め得るか否かについては明らかではないものと考えられます。

ただし資金決済法において暗号資産は、財産価値と定義されています。

わが国における会計基準では、多くの場合、法律上の権利を会計上の資産として取り扱っています。

ただし、必ずしも法律上の権利イコール会計上の資産という訳ではありません。

一例をあげれば、繰延税金資産は法律上の権利ではありませんが、税効果会計を適用した場合の将来減算一時差異について、将来の課税所得から減額される額を資産として計上したもので、これも会計上の資産となります。

一方で暗号資産は、上述のように法律上の権利に該当するかどうか現時点では明確なっていませんが、売買関係を通じて資金の獲得に貢献するという側面を重視し、会計上の資産として取り扱い得るとされています。(端的に言えば、資産計上可能であるということ)

3.既存の会計基準との関係

暗号資産については、現時点では直接的に参照可能な既存の会計基準は存在しておりません。(基準ではありませんが、参照すべきペーパーとしては日本暗号資産取引業協会による『暗号資産取引業における主要な経理処理例示』があります。ただし、フォーマルな基準ではないため、参照する際には必ず監査人と協議するなど、事前の確認をしていただくことを推奨します。)

実務対応報告38号においては、暗号資産に関する会計処理について既存の会計基準を適用せず、暗号資産独自のものとして新たな会計処理を定めるとしています。


ただし、実務対応報告38号の中で資産として取り扱うべき暗号資産は、貸借対照表上どこで表示するかの言及がなされておりません。(それについては次の章で検討します。)

4.各勘定科目の検討

それでは、どのような勘定科目が適当であるかについて考えてみましょう。

【外国通貨】

該当可能性はありません。

なぜなら会計基準における通貨の定めは、国際的な会計基準も含め、一般に法定通貨であることが想定されていますが、暗号資産は中央銀行等の裏付けのある法定通貨ではないことから、暗号資産を外国通貨として処理する事は適当ではないからです。


【現金以外の金融資産】

該当可能性はありません。

日本の会計基準においては、金融資産について「現金、他の企業から現金もしくはその他の金融資産を受け取る契約上の権利、潜在的に有利な条件で他の企業とこれらの金融資産もしくは金融負債を交換する契約上の権利、または他の企業の株式その他の出資証券である。」(「金融商品会計に関する実務指針」第4項)と定めており、国際的な会計基準においても、金融商品とは、一方の企業にとっての金融資産と、他の企業にとっての金融負債または資本性金融商品の双方生じさせる契約と考えられています。

これらの考え方を踏まえれば、暗号資産は現金以外の金融資産にも該当しません。

【棚卸資産】

該当可能性はありません。企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」では棚卸資産は通常の販売目的で保有する棚卸資産とトレーディング目的で保有する棚卸資産の2つに分類され、いずれについても「営業目的を達成するために所有し、かつ、売却を予定する資産」であるとしています。

暗号資産は決済手段として利用されるなど他の棚卸資産と異なる目的としても利用されるため、すべての暗号資産が棚卸し資産の定義を満たすものとする事は適当では無いからです。


【無形固定資産】

該当可能性はありません。暗号資産は、資金決済法において電子的に記録され移転可能な財産的価値とされており、電子的に記録され移転可能な無形の価値を有していると考えられますが、国際的な会計基準も含め、一般にトレーディング目的で保有される無形固定資産という分類は想定されていないことから、暗号資産を無形固定資産として会計して処理することは適切でないと考えられます。

以上より、暗号資産を既存の勘定科目に当てはめることは難しいという結論になります。

したがって、実務対応報告や会計原則の趣旨に立ち返り、その保有する暗号資産の経済的実態、性質を鑑みて、流動資産ないし固定資産のその他の項目で表示する、そして、その内容がわかるような適切な勘定科目名を持って表示すべきであると考えられます。

なお現状においては、法律上の正式な用語である『暗号資産』勘定を用いるのがもっとも無難ではないかと思われます。