投資目的で保有する暗号資産を売買した場合の損益通算
暗号資産は非常にボラティリティが高く、その取引から多額の損失が出る場合があります。事業所得や不動産所得など、他に収入がある場合にはそれらと損益通算して節税できるかどうか、関心のある方も多いと思います。
今回は投資目的で保有する暗号資産を売買した場合に、その所得・損失が他の所得と相殺できるかについて解説していきます。
1.事例と損益通算についての解説
ある会社に勤める会社員が、副収入を得る目的で暗号資産を保有しているとします。暗号資産を売買したところ、損失が出てしまいましたため、この損失が給与所得と相殺することはできるかについて考えていきます。
所得税法では、給与所得、不動産所得、事業所得、配当所得、退職所得、利子所得、譲渡所得、山林所得、一時所得、雑所得という10種類の所得に分類をした上で所得を計算しますが、その際に一部の所得について損益通算という形で、マイナス(損失)となった所得をプラス(利益)となった所得と相殺することができます。
具体的には、各種所得金額の計算上生じた損失のうち、事業所得、不動産所得、譲渡所得、山林所得について、計算時に他の各種所得の金額から控除することができます。
では、この会社員の方は暗号資産によって被った損失を、他の所得と相殺して損益通算できるのでしょうか?
2. 所得税法上の暗号資産の損失についての取扱い
所得税法において、所得は利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得10種類に分類されるのは上記で解説した通りです。
前述したように、所得の計算において損失が生じた場合において、他の所得と損益通算ができる所得は、所得税法第69条第1項の定めにより、不動産所得、事業所得、山林所得及び譲渡所得4つに限られています。
では暗号資産の売買は10種類の所得のうち、どの所得に該当するのでしょうか?
国税庁が公表している情報によると、以下のとおり、原則として雑所得に該当することとなります。
『暗号資産をはじめとする仮想通貨を使用することによる損益は、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、原則として、雑所得に区分されることとしていますが、例えば、事業所得者が、事業用資産として暗号資産を保有し、決済手段として使用している場合、その使用により生じた損益については、事業に付随して生じた所得と考えられますので、その所得区分は事業所得となります。
このほか、例えば、その収入によって生計を立てていることが客観的に明らかであるなど、その仮想通貨取引が事業として行われていると認められる場合にも、その所得区分は事業所得となります。』(平成29年12月1日 個人課税課情報第4号「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」)
暗号資産の売買損益が(一般的には)雑所得となる理由として、暗号資産の売買には(多くの場合)営利目的性や事業継続性がなく事業所得に該当せず、また、それ自体が貨幣的性質を持つことから資産性が否定され、譲渡所得にも該当しないという事のようでした。
今回のケースにおいては、会社員(給与所得者)が副業として暗号資産への投資を行っているということになるので、所得の区分において事業所得等には該当せず、原則的な雑所得に該当することになると思われます。
では、暗号資産の売買による損失が雑所得となる場合には、肝心の損益通算はどうなるのでしょうか?
実は、所得税法においては第69条第1項においては、上述したように、10種類の所得のうち損失が発生した場合に、他の所得と相殺(損益通算)ができる所得を限定しています。
〈所得税法第69条第1項〉
総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する。
したがって、雑所得は所得税法第69条第1項に定める損益通算が可能とされる所得に該当しないことから、他の所得との相殺、つまり損益通算ができないこととなります。
この場合の雑所得となる暗号資産の売買による損失と給与所得との損益通算はできないというのが結論となります。
ただし、紛らわしいのですが、同一所得内での損益の相殺は可能となります。
別の暗号資産による雑所得(売買による利益)や年金等の雑所得がある場合には、暗号資産の売買による損失と相殺(これを内部通算といいます)が可能となります。
なお、今回のケースとは異なりますが、仮に暗号資産の売買損失が雑所得ではなく事業所得となる場合は、所得税法第69条第1項に定める損益通算が可能な所得となるので、その計算において生じた損失と、暗号資産の売買により得られた利益(雑所得)との損益通算を行うことは可能です。
3.消費税における取扱い
次に消費税における取り扱いについても見ていきます。
消費税法において、消費税の課税対象とは原則として、以下の4つの要件について全てを満たすものとされています。
⑴国内における取引であること
⑵事業者が事業として行うものであること
⑶対価を得て行われるものであること
⑷資産の譲渡及び貸付ならびに役務の提供であること
今回のケースにおいては、会社員が副収入を得る目的で暗号資産の売買をしているだけですので、事業者が事業として行うものではありません。
したがって、消費税の課税対象とはならず、確定申告等は不要となります。