暗号資産交換業者が行う業務の内容について②

今回は前回に引き続き、資金決済法に基づく暗号資産交換業者が行う業務についてまとめています。暗号資産交換業者の業務範囲は、暗号資産取引の仲介・媒介だけでなく、暗号資産の管理業務もその範囲に含まれますが、今回は取次が外貨建てで行われる場合や、特に管理業務を中心に見ていきたいと思います。

 

1.暗号資産交換業に該当するか否かの判断基準

前回の記事において、暗号資産交換業の定義について見ていきましたが、そもそも「業」として行っているか否かについても検討が必要な点にも留意する必要があります。

資金決済法第2条第7項によれば「業として行うこと」は、「対公衆性」のある行為で「反復継続性」をもって行うことをいうものとされています。

これは、具体的な行為が「対公衆性」や「反復継続性」を有するものであるか否かについて、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断すべきという事になりますが、「対公衆性」や「反復継続性」については、現実に
「対公衆性」のある行為が反復継続して行われている場合のみならず、「対公衆性」や「反復継続性」が想定されている場合等も含まれる点に留意しなければなりません。

一般の利用者を相手に現に日常的に取引が行われているケースだけでなく、このような状況を意図し、または想定した業務であれば暗号資産交換「業」とみなされる可能性が高いので、法律の文言を形式的にとらえて自己判断により暗号資産交換業者であるかを判定することは非常に危険です。

届出等が必要であるか等の最終判断を行う場合には、必ず専門家の見解などを参照するようにしましょう。

2.外貨建てにより取次・媒介を行う場合など

 

取次ぎ・代理とは、暗号資産交換業者が外部取引所(取次先)の買呼値及び売呼値並びにそれぞれの数量の情報など注文情報を自社の取引システムに表示して、その外部取引所の取引システムに利用者から受けた注文を反映させて約定させる行為をいいました。

では外貨建てにより取引が行われる場合はどうなるでしょうか?

外国通貨建てのみで暗号資産を取引している取次先の取引所の場合、暗号資産交換業者は、利用者から日本円で金銭を預かった時、その日本円を一旦外国通貨に換算して、外国通貨建ての利用者残高を認識します。

そのため、日本円を外国通貨に換算するレートについて、事前に約款にその決定方法等を明示して、利用者と合意しなければなりません。

こうした取次を行う場合、暗号資産交換業者の業務は、自社だけでなく、取次ぎ先の取引所のシステムのセキュリティや、内部統制、評判、流動性等の影響を受けることになることにも留意が必要です。

それに加えて、暗号資産交換業者の中には、OEM契約を結ぶことにより、他の暗号資産交換業者の取引システムやオペレーション等を別のブランド名でそのまま利用して暗号資産取引所を運営している場合があります。

こうしたケースに置いては、受託先からOEM契約において提供を受ける分別管理を含む業務の範囲や利用者情報の内容等保管する重要事項等について両者の責任関係を明確にすることが重要となります。

 

3.暗号資産交換業に関して、利用者の金銭の管理をすること

 

資金決済法第63条の11第2項によれば、「暗号資産交換業者は利用者と自己の暗号資産と分別して管理しなければならない」と定められています。

 

暗号資産交換業者は、通常、利用者ごとに利用者専用の金銭の口座及び暗号資産のアドレスを設定し、利用者の金銭及び暗号資産を預かり、管理しています。

特に、暗号資産のアドレスについては、セキュリティの観点から紐づけによる秘密鍵等により管理しています。

暗号資産交換業者にとって、秘密鍵等に関して厳重な管理体制を構築することは重要な経営課題です。

厳格なアクセス制限をかけて外部者のみならず内部者からも盗用されることのないように秘密鍵等の管理には最大の注意を払わなければなりません。

暗号資産交換業者は、外部からのハッキングによる暗号資産盗用被害の拡大を防止するために、利用者からの暗号資産の引き出し依頼に迅速に応えなければなりませんが、安全性の観点からインターネットに接続された電子機器等にて秘密鍵等を管理する割合は限定されています。

安全のため多くの秘密鍵等は、常時インターネットに接続していない電子機器等に記録して管理しています。

また、暗号資産の管理はインターネットに接続された電子機器等での管理と、そうでない電子機器等での管理の割合を一定の割合に保つために、相互の電子機器等の間で暗号資産の移動を行う等の方法によりその実効性を担保しています。

 

4.他人のために暗号資産の管理をすること(その管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)

 

ここからは、2020年5月1日施行の改正資金決済法で追加された内容となります。

「他人のために暗号資産を管理すること」を「カストディ業務」といいます。

カストディとは他人のために資産を管理することを意味していますが、暗号資産の売買を行わなくても他人のために暗号資産を管理するという意味です。

法律の改正により売買しなくても事業として預かっていれば暗号資産交換業者として事業者登録をしなければならなくなりました。

事業者が秘密鍵の一部しか保有しておらず利用者の関与なく利用者の暗号資産を移転することができない場合や、保有する秘密鍵が暗号化されており、事業者はその暗号化された秘密鍵を使用するための必要な情報を持たず、当該事業者の保有する秘密鍵のみでは利用者の暗号資産を移転することができない場合には、その事業者は、主体的に利用者の暗号資産の移転を行い得る状態にないと考えられ、「他人のために暗号資産の管理をすること」には当たらないと考えられています。

カストディ業務は、所有者に代わってその所有者の暗号資産を管理することを言いますが、換言すればこれは、暗号資産の保管やセキュリティをサービスとして提供する業務といえます。

カストディ業務を主たる業とする暗号資産交換業者の収益はその管理料です。

実は、過去に多額の暗号資産が流出するということがありましたか、他人の暗号資産を管理するのですから、犯罪に巻き込まれないよう、こうした業務形態を採用する場合は、暗号資産のセキュリティ管理には細心の注意が必要になります。

いかがでしたか?

暗号資産交換業の定義やその業務内容は、法律の改正が最近なされたこともあって、十分に周知されていないのが実情です。

多大な法的リスクを負いかねない分野でもあるので、十分な知見のもとに各種の判断を行う必要がある点に必ずご留意ください。