企業が暗号資産で給与を支払った場合の取り扱いについて

本記事では、従業員への給与を毎月末日にビットコインで契約により支給することとした場合に、どのような処理が必要なのかについて会計・税務の観点から考察します。

 

1.現物給与に関する労働協約の締結

まず会社との雇用契約に置いて給与をビットコインで支給する場合、そのビットコインは現物給与として取り扱われることから現物給付に係る労働協約を締結する必要があります。また源泉徴収事務の必要性などから、ビットコインを支給時のBTCレートで円換算することが必要です。

 

2.会計上の取り扱い

2018年11月に国税庁が公表した「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」によれば、給与をビットコインで支給する場合は現金以外の現物給与として取り扱われ、その現物給与については経済的利益を評価する必要があるとされています。

経済的利益を評価するには、契約で決められた給与支給日である末日における価格で円換算を行います。

なお、仕訳は下記の通りです。

 

(会計上の仕訳)

【条件】

給与計算期間:月末締め・当月末払い

購入時レート 1 BTC = 2,000,000円

支給時レート: 1BTC = 2,400,000円

 

【購入時】

暗号資産 2,000,000 現金及び預金 2,000,000

 

【支給時】

給与 2,400,000円*1 暗号資産2,000,000円

暗号資産換算益 400,000円*2

*1 1BTC × 2,400,000円= 2,400,000円

*2 2,400,000円− 2,000,000円= 400,000円

 

3.法人税の取り扱い

所得税基本通達213-1「外貨で表示されている額の邦貨換算」では、支払い金額が外貨の場合、電信買相場(TTB)で円貨換算することが求められています。

ビットコインにはTTB等のレートはありませんが、ビットコイン販売所において売却価格と購入価格で取引額が提示されているため、相対価格によって取引が成立していると考えられます。法人税法上の明確な取り決めはないものの、ビットコイン価格が常時変動していることを考えると、契約において採用する価格、時間帯等を明記して、所得税基本通達213-1等を参考にしつつ採用した換算方法を継続適用することが必要と思われます。

 

また、源泉徴収事務に関しては、円換算後の金額を源泉徴収税額表に当てはめ、源泉徴収税額を計算し、原則として徴収日の翌月10日までに納付することが必要となります。

 

4.消費税の取り扱い

ビットコインの購入時点~支給時点において生じた換算差額は、上で見たように会計上は純額処理されます。しかし、消費税法上は暗号資産の売買取引として総額処理をしなければなりません。

税法上は購入時にビットコインを仕入れ、それを売却したうえで給与支給したと考えます。

つまり、ビットコイン購入時においては支払対価の額が非課税仕入れとなり、給与支給時においては給与支給額相当額が非課税売上となります。

また、消費税法上、給与の役務提供は課税仕入れから除外されているため、従業員に支給する給与に係る消費税は課税対象外となります。

これらを仕訳にすると下記の通りとなります。

 

(消費税法上の仕訳)

【条件】

×3年3月1日 購入時レート: 1BTC= 2,000,000円

×3年3月31日 支給時レート: 1 BTC= 2,400,000円

 

【購入時】

暗号資産原価*1 2,000,000 現金及び預金 2,000,000

*1 暗号資産原価2,000,000は非課税仕入となります。

 

【売却時】

給与*2 2,400,000 暗号資産売上*3 2,400,000

*2 給与2,400,000は課税対象外となります。

*3 暗号資産売上2,400,000は非課税売上となります。

 

なお、暗号資産の譲渡は非課税売上となっていますが、支払い手段となることから、課税売上割合の計算上は分母には含まれことに留意が必要です。結果として、総額で処理することによる影響はなくなります。