暗号資産交換業者の内部管理体制について③

暗号資産交換業者は、年に1回以上、①履行保証暗号資産、②利用者の金銭の分別管理、③暗号資産の分別管理といった点に関し、管理状況などについて公認会計士または監査法人の監査を受ける必要があります。

 

さらには、こうした法定監査に止まらず、社内にリスク管理部門を設置し、適時にシステム評価を行う体制を整えると共に、内部監査部門を設置している場合は内部監査部門と連携して、リスクの事前防止や不備の発見を行うう必要があります。

 

また、必要に応じて外部機関によるシステム監査やセキュリティ診断等の結果を活用して、運用基準や運用方法が適切なものであるかを検証してくことが望ましいです。

 

今回は特に、法定監査で要求される3つの義務について解説していきたいと思います。

 

1.利用者財産の保全について

暗号資産交換業者が破綻した場合の利用者保護は、改正資金決済法で特に重点的に強化された項目の一つです。

 

利用者が暗号資産の管理を暗号資産交換業者に委ねた場合に、暗号資産交換業者が仮に破綻しても、利用者は、暗号資産交換業者によって分別管理された暗号資産について、他の債権者(※)に優先して弁済を受けることができます。

 

(※)ここでいう『他の債権者』とは、金融機関や、暗号資産交換業者との取引先をイメージすると分かりやすいと思います。倒産等によって事業継続が立ちいかなくなった場合、破綻した業者が十分な資力を有する場合は稀で、特に分別管理された資産は貴重な返済原資です。利用者に対する優先弁済が義務付けられることで、利用者は暗号資産交換業者の破綻リスクを最小限に抑えた上で取引を行う事ができるので、利用者保護の観点だけでなく、資本市場の安定という観点からも非常に重要なルールです。

 

また、暗号資産交換業者から管理の委託を受けた事業者は、優先弁済時には利用者の権利行使に協力すべき努力義務が課されておりますから、弁済を受ける場合はこうした委託事業者へ連絡をすれば多くの場合適切な権利行使ができると思われます。

 

このように暗号資産交換業者は、上記の優先弁済の原資を確保するため利用者から預かった暗号資産と同種・同量の暗号資産を自ら保有しなければならないとされています。これを履行保証暗号資産といいます。

 

暗号資産交換業者は、履行保証暗号資産を適切に確保するための統制を保持している必要があります。

 

2.利用者の金銭の分別管理

改正資金決済法では、利用者の金銭の分別管理と利用者の暗号資産の分別管理のそれぞれについて、別途定められています。

 

まず、利用者の金銭に関する分別管理についてですが、これは利用者に対する優先弁済権を確保するため、利用者の金銭と暗号資産交換業者自身の金銭が混同しないよう、分別管理を行う事を義務付けています。

 

利用者の金銭の分別管理については、以前は銀行の預金口座による分別管理も認められていましたが、資金決済法の改正により、利用者の金銭を信託銀行等へ信託する方法により管理しなければならなくなりました。

 

なお、利用者の金銭の分別管理に関しては、

 

・暗号資産交換業者の破綻、登録取消等の事態が起こったときは、弁護士等を利用者の代理人として権限行使させること

 

・元本を補填すること

 

が求められますので、上記を担保するような統制を整備する必要があります。

 

3.利用者の暗号資産の分別管理

利用者の金銭の分別管理と同様、利用者の暗号資産についても資金決済法で分別管理が義務付けられています。

 

暗号資産交換業者は、利用者の暗号資産と自己の暗号資産が混同しないよう分別管理の内部統制を構築する必要があります。

 

分別管理の方法には、暗号資産交換業者自身が管理する方法と、第三者に管理をさせる方法があります。

 

また、上記のそれぞれの方法に対して、利用者の暗号資産と暗号資産交換業者の固有財産である暗号資産を明確に区分でき、かつ、どの利用者の暗号資産であるかが直ちに判別できる(※)内部統制を構築する必要があります。

(※)これには、帳簿上で利用者勘定と自己勘定の区別を行うことで直ちに判別できる内部統制も含みます。

 

加えて、他のコラムでも何度か言及した論点ですが、暗号資産交換業者は、不正アクセスによる暗号資産の流出等を適切に防止するため、利用者の暗号資産や履行保証暗号資産を、コールドウォレットを中心とした利用者保護に欠ける恐れのない方法で管理しなければなりません。

 

最後に、利用者は優先弁済にここまで見てきたような強力な保護下にありますが、暗号資産交換業者が分別管理する金銭又は暗号資産を第三者に移転してしまった場合には、保護がなされない、つまり優先弁済はなされないので注意が必要です。

 

これは、利用者保護を図らなければならないとはいえ、法律上の善意の第三者が適法に取得した金銭又は暗号資産を利用者保護の観点から優先弁済の原資としてしまっては、善意の取得者にとっては酷な結果となり、かえって取引の安全性を損なってしまうからです。