分別管理監査の内部統制のポイント①

暗号資産交換業者が利用者の金銭又は暗号資産の管理を行う場合には、利用者保護の観点から、利用者が預託した金銭・暗号資産と暗号資産交換業者自らの財産との分別管理義務が設けられています。

 

また金融商品取引法において、通貨関連デリバティブ取引等を顧客が行った場合の顧客預託の金銭その他の保証金を金融商品取引業者が区分管理をする際の方法は、投資者への返還を確実なものとするために、信託会社又は信託銀行への金銭信託とすることが義務付けられています。

そして、この義務は暗号資産についても適用されるため、暗号資産デリバティブ取引の場合の預託金の区分管理方法についても、通貨関連デリバティブ取引と同様の規制の適用対象とされます。

 

今回は、上記のような分別管理の義務について、一連の具体的に必要な内部統制の解説をしていきたいと思います。

 

1.内部統制全般について

まず第一に、内部統制の基礎となる『企業及び企業環境』という構成要素のうち、経営者の誠実性や社風といった面で分別管理に対する体制ができているか否かが重要となります。

暗号資産交換業者の代表取締役は、分別管理に関する法令遵守を所管する立場にあるので、利⽤者財産等の分別管理の重要性を認識し、利⽤者財産の分別管理に関する法令・諸規則等(資⾦決済法、内閣府令、各種のガイドライン等)について、理解している必要があります。

 

また、こうした法令・諸規則等の内容については取締役会の構成員はもとより、従業員も含め伝達周知が徹底されていなければなりません。

 

2.内部統制の全般的事項について具体的にチェックすべきポイント

【分別管理に関する法令理解の観点】

法令理解の観点からは、特に下記のような点が重要となります。

 

①代表取締役及び該当の内部統制を所管する取締役は、利⽤者財産の分別管理が利⽤者保護に資するものであることを理解した上で、利⽤者財産等の分別管理の重要性を認識しているか。

 

②利⽤者財産等の分別管理の状況については、所管の役員など適切な権限者が定期的あるいは随時に報告を受けているか。

 

③上記の報告は、利⽤者財産等の分別管理の内部統制が適切に運用されるため、また内部牽制機能の確保など内部管理体制の適切な強化のために活⽤しているか。

 

【分別管理に関する法令遵守の観点】

法令遵守を行うための内部統制については下記のような点が重要となります。

 

①分別管理に関する法令遵守を所管する取締役(通常は代表取締役)は、関連法令・諸規則等の内容について理解し、遵守する体制を整備しているか。

 

②分別管理に関する法令遵守を所管する代表取締役は、関連法令の内容等をその改正も含めて社内へ周知徹底させているか。

③分別管理の社内規程や⼿続が明確化されており、適切に運⽤されているか。

 

④分別管理の社内規程等が整備されているか。

 

⑤ 社内規程等において、⾦銭・暗号資産それぞれについて、分別管理の⼿続の詳細や職務分掌を含め具体的に定められているか。

 

暗号資産交換業者は、事務部⾨において⼗分にけん制機能が発揮されるような体制整備を含む、事務リスクに係る内部管理態勢を適切に整備することが要請されていますので、上記のような点がきちんと社内で整備されているかどうかは非常に重要となります。

 

2.利⽤者財産の管理に関する具体的なチェックポイント

【管理方法に関するチェックポイント】

利用者財産管理については、下記のようなポイントで内部統制を構築するのが重要です。

 

①⾦銭、暗号資産及び預⾦の預⼊・払出、信託の追加・解約において、それぞれ担当部署において事務マニュアルを整備し、マニュアルに則った運⽤を行う。(マニュアルだけが整備され、運用状況が伴わない会社もあるがそれは避けなければならない。)

 

②⾦銭・暗号資産それぞれについて、分別管理の執⾏⽅法が利⽤者との契約に反映する。

 

③国内外を問わず、第三者が管理を行う場合は、契約に明記し、利⽤者からの同意を得る。

 

【監査と報告事項に関するチェックポイント】

監査対応や内部監査、内部管理の結果報告についての統制では、下記のようなポイントが重要となります。

 

①社内監査・検査の対象や方法等が明確に定義されており、定期的に実施されているか。

②社内監査・検査マニュアルが作成されており、社内監査・検査が実施されているか。また、それに伴う社内監査・検査報告記録が残されているか。

 

③分別管理に関する報告体制は整備されているか。またそれらは社内規程等において明確にされているか。

 

④利⽤者区分管理信託の不⾜、区分管理預⾦の残⾼不⾜・不適切な解約、暗号資産の管理の相違等の異例の事態があった場合に対する適切な措置が講じられる体制ができているか。

 

⑤分別管理に関する法令違反が発⾒された場合の対応⽅針について規定されているか。また、実際に法令違反が発⾒された場合に、その対応措置を講じているか。

 

⑥⾦融庁の検査、⽇本仮想通貨交換業協会の検査、公認会計⼠⼜は監査法⼈の監査等において指摘された事項について、適切な措置が講じられる体制になっているか。また、対応について関係者へ周知徹底が図ることのできる体制になっているか。