短期リース及び少額リースについての例外処理

ここまで解説を続けてきた企業会計基準委員会より公表された企業会計基準公開草案第 73 号「リースに関する会計基準(案)」等(リース基準(案))及び企業会計基準適用指針公開草案第 73 号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」(リース適用指針(案))の新たなリース基準の基本的な会計処理としては、使用権モデルを前提とした使用権資産とリース負債のオンバランスというものでした。

新リース基準はIFRS第16号にならい原則的にはオペレーティング・リース取引も含めてオンバランスしていくという方針ですが、一方で文字通りすべてのリースに対してオンバランス処理を強制するのは実務上現実的なのかという論点があります。

現行のリース基準(企業会計基準適用指針第16号)においても、『短期リース』および『少額リース』についてついては、重要性が乏しいことから例外的にオフバランス処理が可能となっています。

今回のリース基準と適用指針においてもこれが引き継がれていますが、適用範囲が全く同一ではないなどいくつか注意すべき点もあります。

ということで早速、短期リースのオフバランス処理について見ていくことにしましょう。

2.短期リースのオフバランス処理

リース適用指針(案)によれば『短期リース』とは、「リース開始日において、借手のリース期間が 12 か月以内であるリース」取引をいいます。

短期リースの定義自体は企業会計基準適用指針第16号の現行基準から変わりはないのですが、新しい公開草案では借手のリース期間の決定方法が変化したので結果として現行基準の定義するリース期間よりも公開草案のリース期間の方が長くなる可能性があります。

これにより、現行基準と比べて公開草案が適用された場合、短期リースの対象が少なくなる可能性がある点に留意が必要です。

具体的な会計処理ですが、リース適用指針(案)には、

短期リースについては、重要性が乏しい場合が多いため、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができる

とあります。

これは一言で言えばオフバランス処理で、本来はオンバランスすべき使用権資産とリース負債をオフバランスすることが可能ということを意味します。

一つ注意点として、この短期リースの定めを適用するかどうかの選択は、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごとに行うという点です。

原資産ごとではないため、ある科目について短期リースの方針を定めた場合、その方針を一貫して適用しないといけないので注意が必要です。

また、実はこの部分はIFRS第16号では、使用権が関連する原資産のクラスごとに短期リースに関する選択ができるとなっているため、公開草案での相違点の一つでもあります。

IFRS第16号と公開草案で違う理由は単純で、日本の会計基準には『原資産のクラス』という概念がないため、もっともIFRS第16号の趣旨に近い『対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目』としたというものです。

3.少額リースのオフバランス処理

少額リースの処理は、一定金額に満たないリースについて簡便的な処理としてオフバランス処理を認めています。

趣旨としては、実務上もリースは多種多様な使い方をされており、事務機器等の比較的少額かつ大量の資産がリースの対象となること多く、これを全て原則的に処理させることは非現実的であることから一定の金額以下のリースについては、オフバランス処理を認めようというものです。

会計処理の内容としては短期リースと同様で、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができます。

この少額リースの基準ですが、以下の2つの指標があり、どちらかに該当する場合は少額リースの処理が可能です。

⑴企業が採用する重要性の乏しい減価償却資産の費用処理基準

⑵金額基準

それぞれの詳細について下記、説明をしたいと思います。

【企業が採用する重要性の乏しい減価償却資産の費用処理基準】

減価償却資産について、税法では、①使用可能期間が1年以上かつ取得価額が10万円以上の備品等を購入した場合には固定資産として計上できる規定、②中小企業者等が30万円未満の什器、備品などを購入した場合には、年間300万円を限度に取得価額の全額を即時償却できる特例が設けられており、これらにそった形で、税法で費用処理が認められる減価償却資産については重要性の乏しい資産として、会計上も費用処理を行うのが普通です。

リース資産についても、これは同様と考えられるため⑴のような規定が設けられています。

なお、この基準額は、借手のリース料に原資産の取得価額のほかに利息相当額が含まれていることから、企業が減価償却資産の処理について採用している基準額より利息相当額だけ高めに設定することができます。

また、この基準額は、税法と同様取引される単位ごとに適用され、リース契約に複数の単位の原資産が含まれる場合には、契約に含まれる原資産の単位ごとに適用することができます。

【金額基準】

少額リースの金額基準は、現行基準である企業会計基準適用指針第16号にも定めがありました。

具体的には、リース契約1件当たりのリース料が300万円未満というものです。

新しい公開草案においてもこれは踏襲され、

企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースで、リース契約 1 件当たりの借手のリース料が 300 万円以下のリース

については少額リースの対象となっています。

今回の公開草案では、この現行規定に加え、

原資産の価値が新品時におよそ 5 千米ドル以下のリース

についても少額リースの対象とできるよう改正がされました。

つまり、金額基準として企業は

ⅰ)企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースで、リース契約 1 件当たりの借手のリース料が 300 万円以下のリース

ⅱ)原資産の価値が新品時におよそ 5 千米ドル以下のリース

のどちらかを選択し、選択した方法を首尾一貫して適用するとされています。

4.金額基準に『5千米ドル』要件が加わった理由

この5千米ドルという基準は、IFRS第16号におけるリース1件ごとの簡便的な取扱いの選択適用の基準です。

IFRS 任意適用企業は、IFRS第16号の定めを個別財務諸表に用いても、基本的に修正が不要となるよう会計処理を行うのが通常なので、このIFRS第16号の簡便的な取扱いを認めることで上記方針がスムーズに適用できます。

一方で日本基準で会計処理していた会社については、企業会計基準適用指針第16号における300万円以下のリースに関する簡便的な取扱い継続することで、追加的な負担を減らすことができます。

以上の理由で、5千米ドルと300万のどちらかを選択適用できるという形になりました。

日本基準でもIFRSでも、金額基準に絶対的な正解はなく、どちらの簡便的な取扱いについても優劣がつくものではありません。

したがって、いずれかを会計方針の選択として認めることについては原則、例外といった建付けではなく純粋な選択肢と考えるのが正しいです。