公開草案におけるリースの減価償却について

リースの会計処理をここまで様々な角度が見てきました。

これまでの内容をおさらいすると『使用権モデル』では、原則的に将来に借手が支払うリース料総額を負債計上するとともに、リースする資産の使用権を両建てで資産計上する会計処理を求められます。

これは、会計基準の国際的なコンバージェンスという大きな流れの中で、よりリースの金融取引の面を強調するとともに、リース負債がオフバランスされることによって負債の実態が財務諸表利用者に提供されない事態を防止することを目的として導入されたものです。

さて、今回の公開草案の内容が大筋で変わること無くリース基準として採用された場合には、これまで我が国のリース基準で認められていたオペレーティング・リース取引の会計処理、すなわちリース資産とリース資産をオフバランスして、毎月のリース料を費用計上するような会計処理は原則的には行う事ができなくなります。

使用権モデルにおいてはご存知のように、負債側では、負債計上後は利息費用による負債の増加とリース料支払による負債の減少が相殺されつつリース期間にわたり負債を償却すると同時に、資産側では、リース期間の減少またはリースした資産の耐用年数の減少に伴う使用権価値の減価を減価償却という形で認識することになりますが、そうであればより一層減価償却の重要性は高まることになります。

今回は、このような背景を踏まえた上で、リースの減価償却に特に焦点を当てて説明をしていきたいと思います。

なお今回も、2023年5月2日に企業会計基準委員会より公表された企業会計基準公開草案第 73 号「リースに関する会計基準(案)」等及び企業会計基準適用指針公開草案第 73 号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」を参照し、整理して形でコラムを構成しています。

1.使用権資産の償却

このたびのリース基準の改正において、使用権モデルを取り入れたことから、従来存在したファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の区別は、借手の処理においては事実上消滅しました。(貸手の会計処理においては残存しているので注意が必要です。)

具体的には、①リース資産の使用から得られる便益のほとんど全てを享受し、②顧客側で使用を指図する権利をもっているかどうかでリース使用権の有無を判定してリース資産として計上するか否かが決まり、この使用権モデルによるリース資産の計上が過去のリース基準におけるファイナンス・リース取引に相当するものになります。(つまり、リース取引に該当する時点で借手側はオンバランスすることが前提となります。)

一方で、所有権移転リース取引と所有権移転外リース取引の区分は事実上残存しており、それぞれ「原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース」取引と「原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース以外のリース」取引と公開草案では表現されています。

このような背景を踏まえた上で提案された公開草案の使用権資産の償却の会計処理についての基本的スタンスは、現行基準である企業会計基準第13号と企業会計基準適用指針第16号のリース資産の償却方法を踏襲したうえで、「原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース」取引と「原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース以外のリース」取引のそれぞれについて償却方法を定めるというものでした。

2.原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース取引の償却

企業会計基準公開草案第 73 号「リースに関する会計基準(案)」には、原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース取引の償却方法に関して以下のような記載があります。

契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリースに係る使用権資産の減価償却費は、原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する減価償却方法と同一の方法により算定する。この場合の耐用年数は、経済的使用可能予測期間とし、残存価額は合理的な見積額とする

ここにもあるように新基準の基本的な考え方は、原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース=原資産の取得と考え、その原資産を所有していた場合の減価償却方法によって会計処理を行うというものです。

企業会計基準第13号と企業会計基準適用指針第16号の所有権移転リース取引でも同様の考え方をしていたので違和感はないと思います。

次に、原資産の所有権が借手に移転すると認められるリースに該当するか否かの判定の論点をみていきます。

基本的にはここでも、現行基準の考え方を踏襲しています。具体的には、リース適用指針(案)には下記のような記載があります。

会計基準第 35 項における契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリースとは、次の(1)から(3)のいずれかに該当するものをいう。
(1) 契約上、契約に定められた期間(以下「契約期間」という。)終了後又は契約期間の中途で、原資産の所有権が借手に移転することとされているリース
(2) 契約期間終了後又は契約期間の中途で、借手による購入オプションの行使が合理的に確実であるリース
(3) 原資産が、借手の用途等に合わせて特別の仕様により製作又は建設されたものであって、当該原資産の返還後、貸手が第三者に再びリース又は売却することが困難であるため、その使用可能期間を通じて借手によってのみ使用されることが明らかなリース

3.原資産の所有権が借手に移転すると認められるリースに該当するか否かの判定に関する留意点

基本的には現行基準の所有権移転ファイナンス・リース取引と同じなのですが、何点か留意点があるのでここで解説をしていきます。


まず⑵の購入オプションについて、現行基準から文言の変更がありました。

具体的には、企業会計基準適用指針第16号では、『リース契約上、借手に対して割安購入選択権が与えられており、その行使が確実に予想される場合』とされていた文言が、新しい公開草案の適用指針(案)では、『購入オプションの行使が合理的に確実である場合』に変更されています。

この変更の趣旨は、購入オプションの行使は必ずしも割安かどうかのみではなく他の要因も考慮して行われるため、『合理的に確実な場合』として他の可能性も包含した方が借手への所有権移転の可能性を反映したより実態に即した減価償却費の算定が可能となるだろうというものです。

次にIIFRS第16号との違いについてみていきます。


今回の公開草案の⑶では、使用権資産の償却にあたり、原資産が特別仕様であって、その使用可能期間を通じて借手によってのみ使用されるか否かを考慮する定めとなっています。

IFRS第16号ではこのようなルールはなく、企業会計基準適用指針第16号を踏襲した規定となります。

その趣旨としては、原資産が特別仕様であり使用可能期間を通じて借手によってのみ使用されることが明らかであるリースは、原資産を自ら所有する場合と実質的に同じあるため、使用期間や費消形態も同様と考え、原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する減価償却方法と同一の方法とすることが、リースの代わりに購入・自社所有をした場合との会計上の不整合を発生させないやり方になるというものです。

4.原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース以外のリース取引の償却

原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース以外のリースは、原資産の取得とは異なり原資産を使用できる期間がリース期間に限定されるという特徴があります。

これも、旧リース基準における所有権移転外リース取引を想起しておけば良いでしょう。

そのため、原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース取引の場合のような原資産を自ら所有していたと仮定した場合の減価償却方法や減価償却年数といった発想は必要なく、原則として、借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして減価償却を行う事になります。

ただしいくつか留意点があるので以下に解説します。

⑴耐用年数に関する留意点

実態に応じて借手のリース期間より短い使用権資産の耐用年数により減価償却費を算定することができます。リース期間とリースした資産の耐用年数を比べてリース資産の耐用年数の方が短い場合など耐用年数の方を使用すべきケースが存在します。

⑵償却方法に関する留意点
前述したように、企業の実態に応じ、原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する減価償却方法と異なる償却方法を選択することができます。原資産の取得とは異なる性質を有しますから、旧リース基準である企業会計基準第13号の定めを踏襲した形です。

⑶残価保証がある場合の留意点
旧リース適用指針の企業会計基準適用指針第16号では、所有権移転外ファイナンス・リース取引について契約上に残価保証の取決めがある場合、原則として、当該残価保証額を残存価額としていました。

企業会計基準公開草案第 73 号「リースに関する会計基準(案)」では、残価保証額を残存価額とする取扱いは廃止されています。

これは、公開草案では残価保証に係る借手による支払見込額が借手のリース料を構成すると変更されたことと整合性を取るためこのような変更が行われています。