PPAで認識される無形資産の例示②

前回に引き続き、PPAに関連する無形資産の論点について解説していきたいと思います。

前回のコラムでは、企業結合基準の改正により無形資産の識別要件が『分離して譲渡可能』という1点に絞られたことにより、それまでなされていた例示が削除された経緯などをお話ししましたが、一方でIFRSにおいては例示がなされています。

今回は、IFRSの無形資産の例示をヒントに、PPAで識別される無形資産の具体例について解説していきたいと思います。

1.IFRSと日本基準

IFRSの無形資産の例示が日本基準にどこまで適用できるのか疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかしながら、前回のコラムで解説したように現行の日本基準とIFRSで無形資産の定義や識別要件に本質的な違いはほとんどないと考えられ、これを100%適用できることはないとしても、概ね一致すると考えても良いでしょう。

2.マーケティング関連


【商標や商号】

商標や商号は、無形資産として認識し得る可能性があります。具体的には、

  • 製品を個別認識しうる名称、ロゴ、シンボル等の使用権
  • ビジネスを個別認識しうる名称、ロゴ、シンボル等の使用権

といったものがあります。

たとえばスターバックスのように知名度やブランド力が高いとされる会社や、ウマ娘のような認知度の高い商品を持つ会社においてのみ認識されます。


業種に関係なく認識されるのが特徴で、強い自社ブランドや商品を持つ企業をM&Aした場合には注意が必要です。

【サービスマーク、団体商標、証明マーク】

  • サービスを個別認識しうる名称あるいはシンボル等の使用権
  • 組織のメンバーであることを表示する権利
  • 特定の品質基準・由来に基づく製品・サービスであることを表示する権利

いわゆるPマークのようなものが想定されると思われますが、民間企業がこういった資産価値を有するシンボル等の使用権を有することはあまりなく、認識されるケースは稀であると考えられます。

【商業上の飾り】

具体的には、下記のようなものが想定されています。

  • 製品における独特の表示方法(独自の色、形状、包装デザイン)

無印良品の商品などがこれに該当すると思われますが、買収対象企業がこれらを保持していることはレアケースで、認識されるのは稀であると考えられます。

【新聞のマストヘッド】

具体的には、下記のようなものが想定されます。

  • 新聞紙面の1面トップに情報を記載する権利


IFRSには言及があるものの、民間企業でこれを現実に想定できるケースはほとんどなく、認識されるのは稀であると考えられます。

【インターネットのドメイン名】

具体的には、下記のようなものが想定されています。

  • 特定のインターネットアドレスを表示するアルファベット文字列の使用許可

ドメイン名自体が売買対象ですので一応資産価値はあると言えますが、数億単位が普通である企業のM&Aにおいて有意な水準の金額でドメイン名そのものが評価されるほど価値のあるドメインは希少であると考えられ、認識されるケースは稀であると考えられます。

【競業避止契約】

具体的には、下記のようなものが想定されます。

  • 特定の期間、類似事業を行うことが規制される保証、権利

一般に競業避止契約の類は強力であるため、買収時点で有効ならば相応の資産価値を有する可能性もありますが、契約上これを引き継ぐことができる場合が少なく、またそもそも有効な競業避止契約があり、それが機能しているにもかかわらず企業が売りに出されるケースはケースは稀であると考えられますから、現実にこれを認識するのは稀であると考えられます。
 

3.顧客関連

【顧客リスト】

具体的には、下記のようなものが想定されます。

  • 競合企業またはテレマーケティング会社がビジネスとして活用することが可能な企業の顧客に関する情報(名前、連絡先、契約内容、取引履歴等)


個人会員を集めているような業種であり、かつ個人名や住所だけでなく、属性等を把握していてマーケティング等に活かせる会員情報を収集している必要がありますが、特に昨今増加しているD2C関連のビジネスなどを営む企業を買収した場合には検討対象となることも多いと思われます。

【受注残】

具体的には、下記のようなものが想定されます。

  • 営業活動を行わずに将来収益を生み出す能力を有する確定受注残高

これが認識される業種としては受注生産の業種で、受注から納品までの期間が長い業種で製造業などが典型的と思わます。


また、半導体製造装置など、製造業の中でも製品単価が高額な業種は一般に製品のリードタイムも長く、受注残高も高額になるためPPAの対象となりやすいと考えられます。

【顧客との契約・関連する顧客との関係】

具体的には、下記のようなものが想定されます。

  • 契約に起因する顧客関係

顧客関係の価値には、既存契約・契約条件の承継、及び将来の発注見込の両面を含むと考えられます。

たとえば、防衛産業などが典型的ですが、競合他社から見て、取引関係を構築することが難しい顧客と取引関係のある会社などはPPAにおける無形資産の認識がなされると思われます。


業種に関係なく認識されるものではありますが、上記の防衛産業やエネルギー関連(石油やレアメタルなど)等の政治と深いかかわりのある企業などでより認識されやすいという面はあるように思います。


【契約外の顧客関係】

具体的には、下記のようなものが想定されます。

  • 契約以外に起因する顧客関係 (顧客との継続的な取引関係、実績等)

顧客関係の価値は、将来における発注見込から導かれ、顧客との契約はないが、顧客と反復継続して取引関係をもつ場合などは無形資産として認識されます。