PPAで認識される無形資産の例示③

前回に引き続き、PPAに関連する無形資産の論点について解説していきたいと思います。

前々回のコラムでは、企業結合基準の改正により無形資産の識別要件が『分離して譲渡可能』という1点に絞られたことにより、それまでなされていた例示が削除された経緯などをお話ししました。

また前回は、マーケティング関連や顧客関連の無形資産の例示をヒントに、具体例を見てきました。

今回も、引き続きIFRSの無形資産の例示をヒントに、PPAで識別される無形資産の具体例について解説していきたいと思います。

1.契約関連

次に、契約関連の無形資産の例示を見ていきたいと思います。

【ライセンス・ロイヤルティ・スタンドスティル条項】

具体的には、下記のようなものが想定されます。

  • ライセンス契約、ロイヤリティ契約
  • 特定期間、特定の経営活動を規制する契約

重要なライセンス契約を締結しているライセンシーがある場合や、重要な商品を販売するためにロイヤリティを支払っている会社の場合に認識されます。

昨今では、ONE PIECE、ドラゴンクエストといった漫画やゲームとのコラボによるライセンシーなども増えており、重要なライセンス契約による無形資産の認識の機会は多くなっていると考えられます。


【広告・建設・経営・サービス・商品納入契約】
具体的には、下記のようなものが想定されます。

  • 契約に基づき、特定価格、特定サービス、特定製品の供給をうけることのできる顧客としての地位の承継

例えば、イオンなどの大手スーパーは、大量に仕入ができることから仕入業者に対して交渉力が強く、市場価格より割安で購入できる等の価値のある契約が存在する場合があります。

M&Aを行った際に、このような割安購入契約を引き継ぐことができるならば、これを無形資産として認識する必要があります。

【リース契約】
具体的には、下記のようなものが想定されます。

  • 借受人(レッシー)としての地位の承継

リース契約が金額的に重要性を有する場合は、これも認識する必要があります。(PPA以前に、PPA適用前の貸借対照表に反映されているケースも多いと思われます。)

【建設許可】

具体的には、下記のようなものが想定されます。

  • 特定地域において特定の構造の建築物を建設する権利

国や地域によっては、地場の企業に限り入札や施行が許可されるようなケースもあり、この権利を目的として買収が行われる場合もあるので、

【フランチャイズ契約】

具体的には、下記のようなものが想定されます。

  • 特定地域において特定商標等を用いて営業を行うことができる権利


フランチャイジーにて認識されるパターンが一般的です。

また、フランチャイザーの場合には、フランチャイズ契約は顧客資産として認識されます。

【営業許可・放映権】
具体的には、下記のようなものが想定されます。

  • 特定のルールに基づき営業することを認められた権利
  • 業法/通信法により認められた特定帯域を使用することができる権利

民法テレビ局の地上放送のように取得が困難であったり、高額のコストが掛かるような特殊な許認可等を保有している会社を買収した場合は、無形資産としての計上を検討する必要があります。

【利用権】

具体的には、下記のようなものが想定されます。

  • 掘削、水利、空気、鉱業、伐採、道路等の利用権

これらはキャッシュフローの生成に当然寄与しますので、無形資産の計上対象となります。

2.技術関連

技術関連として、下記のようなものが挙げられています。


【特許権を取得した技術】

具体的には、下記のようなものが想定されています。

  • 一定期間、発明品の製造、使用、販売を保護する権利

製造業で、市場競争力の高い製品を有している会社が対象となります。

仮に特許権を取得していない場合でも、技術として無形資産に認識される場合が多い点には注意が必要です。また、いわゆるノウハウについては、抽象的でその内容が不明瞭である場合も多く、分離して譲渡可能ではないとして認識されないことも多く、結果として『のれん』に含まれることが一般的です。

【特許申請中・未申請の技術】

具体的には、下記のようなものが想定されます。

  • 特許により保護されていないが、固有の価値を有する技術体系、ノウハウ

製造業で、市場競争力の高い製品を有している会社が対象となります。

仮に特許権を取得していない場合でも、技術として無形資産に認識される場合が多い点には注意が必要です。また、いわゆるノウハウについては、抽象的でその内容が不明瞭である場合も多く、分離して譲渡可能ではないとして認識されないことも多く、結果として『のれん』に含まれることが一般的です。

【企業秘密(秘密の製法・工程等)】

製造業で、市場競争力の高い製品を有している会社が対象となります。

仮に特許権を取得していない場合でも、技術として無形資産に認識される場合が多い点には注意が必要です。また、いわゆるノウハウについては、抽象的でその内容が不明瞭である場合も多く、分離して譲渡可能ではないとして認識されないことも多く、結果として『のれん』に含まれることが一般的です。

【ソフトウェア・マスクワーク】
具体的には、下記のようなものが想定されます。

  • コンピュータに関連するプログラム、プロシージャ、説明資料等

昨今では、高度にプログラミングされたソフトを目的とした買収も多く、今後ますますPPAの検討対象になることが多くなると思われます。

【データベース】

具体的には、下記のようなものが想定されます。

  • 特定の情報(科学的情報や信用情報等)を含む情報の集積体系

これも、昨今の情報化社会の中で重要性を増している領域で、情報そのものを対象とした買収も今後は増えてくると思われます。

【仕掛中の研究開発】

具体的には、下記のようなものが想定されます。

  • 進行中の研究開発プロジェクトのうち、支配/経済的便益/測定可能性/実在性/未完成の5要件を満たすもの

製薬会社等の研究開発費が多額に計上される業種では認識可能性が高いと思われます。