内部統制の意義・目的の考察

会計不正が後を絶たない昨今の情勢において、適切な内部統制の構築の必要性がますます盛んに取り上げられるようになりました。

会計監査が、限られたリソースと制約の中で、会社の協力の下にサンプル抽出を中心とした手続で行われる現状では、内部統制の有効性は適正な監査、ひいては適正な有価証券報告書の作成という観点でも非常に重要であることは明らかです。

今回は、この内部統制を題材として監査・保証実務委員会報告第 82 号『財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い』に基づきながら、改めて内部統制の意義や目的について考えていきたいと思います。

1.内部統制の目的

内部統制を構築するには、企業側としても多くのリソースの投入が必要となります。

専門性をもった人材の採用、会計システムをはじめとする業務システムへの投資、運用を徹底することに伴う現場への負担とその対処など、枚挙にいとまがありません。

こうした負担を追ってなお、なぜ内部統制の構築を志向する必要があるのか?

これについて、企業会計審議会が公表した意見書の前文では、第一義的にはディスクロージャーの信頼性を確保すること、そして、そのために開示企業における内部統制の充実を図る方策が真剣に検討されるべきであることが理由として記載されています。

現代の企業が内部統制に頼ることなく開示数値を正確に作成することは実質的に不可能ですから、改めて適正開示と財務報告の信頼性を内部統制の意義として確認することは非常に意味のあることだと思われます。

2.内部統制監査とその保証水準

内部統制に係る公認会計士等による検証は、信頼し得る財務諸表作成の前提であると同時に、効果的かつ効率的な財務諸表監査の実施を支える経営者による内部統制の有効性の評価について検証を行うものと考えられます。(これには、下記の内部統制監査だけでなく、財務諸表監査の中で行われる内部統制の検証も含まれます。)

であるなら、経営者による財務報告に係る内部統制の有効性の評価結果に対する財務諸表監査の監査人による監査(いわゆる「内部統制監査」)は、ディスクロージャーの信頼性を確保するために、開示企業における財務報告に係る内部統制の有効性に関する経営者の評価に対する公認会計士等による保証を付与することを目的としていると考えられます。

この監査人による検証は、財務諸表監査の深度ある効率的実施を担保するためにも財務諸表の監査と一体となって行われるのが一般的です。

それであるなら、同一の監査人が財務諸表監査と異なる水準の保証を得るために異なる手続や証拠の収集等を行うことは適当ではありません。

さらに実務的な問題点として、同一の監査証拠を利用する際に保証の水準の違いから異なる判断が導き出されたとすれば、監査手続が煩雑となるだけでなく、整合性のある結論が出せないことにもなりかねません。

こうした事情があり、公認会計士等による内部統制の有効性の評価についての検証は、「監査」の水準と同水準で行われる点について注意する必要があります。

3.監査アプローチの特性

内部統制監査基準によれば、内部統制監査の監査対象は経営者が作成した内部統制報告書であり、これが、一般に公正妥当と認められる内部統制の評価の基準に準拠して、内部統制の有効性の評価結果をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人自らが入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明することになるとされています。

内部統制報告書が適正である旨の監査人の意見は、重要な虚偽の表示がないということについて、合理的な保証を得たとの監査人の判断を含んでいるという意味であり、絶対的な保証を与えたわけではない点については注意が必要です。

この「合理的な保証」とは、監査人が意見を表明するために十分かつ適切な証拠を入手したことを意味すると定義されており、限られた監査資源と制度的・時間的制約の中で意見表明が求められる以上、絶対的な水準の保証まで求めることはできない点は、財務諸表監査と同様です。


また意見書の前文では、内部統制の評価及び監査に係るコスト負担が過大なものとならないよう、先行して制度が導入された米国における運用の状況等も検証し、具体的に種々の方策が講じられています。

その方策として一つ例示すると、「ダイレクト・レポーティング」の不採用というものがあります。

「ダイレクト・レポーティング」とは、直接報告業務と呼ばれ、開示企業の財務報告に係る内部統制そのものの有効性について意見を表明するタイプの保証です。

「ダイレクト・レポーティング」は、会社が行った内部統制の評価結果を用いることができず、監査人による直接的な内部統制の検証が行われるため監査人側の負担が非常に大きくなるのが特徴です。

なお、内部統制監査の実践において、意見書がダイレクト・レポーティングを採用しないとしながらも、「内部統制の有効性の評価結果をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについて、監査人自らが入手した監査証拠に基づいて判断した結果を意見として表明すること」を求めていることには留意が必要です。

すなわち、監査人は、基本的には自ら適切な監査証拠を入手して行う一方で、経営者が抽出したサンプルの妥当性の検討や経営者による作業結果の一部について検討を行った上で、経営者が評価において選択したサンプル及びその作業結果を自らの監査証拠として利用することができるということです。

ダイレクト・レポーティングを否定しているからといって、監査人の検証が一切不要ということでは決してない点は重々注意しておきましょう。