投資信託における会計

投資信託における会計(=「計理」)の特徴

会計に関する用語で「経理」と「計理」があります。どちらも「けいり」と読みますが、「経理」とは会計・給与に関する事務、またそれを処理することという意味です。「計理」は会計と同じ意味で金銭の収支や財産の変動、損益の発生などを計算し報告する行為のことです。

投資信託の会計では「計理」という言葉が使われ、一般に用いられている経理と区別する意味で”ごんべんけいり”という呼ばれ方もします。投資信託でおける計理は、毎日基準価額を正確に算定することを第一義的な目的としていますので、この点に由来しています。

投資信託には受益者を公平に扱うべきという基本原則があります。これは残存受益者間だけでなく、新規に参入してくる受益者や解約する受益者も含め、すべての受益者を公平に扱わなければならないとするものです。投資信託は追加設定や一部解約によって日々資金の流出入がありますが、その際の受益者が支払うべき追加設定代金又は受取るべき解約代金は、その時点の基準価額に基づいて決定されます。そのため、もしこの基準価額が誤って算定されると、あるべき水準よりも過大又は過小な基準価額となり、その誤った基準価額に基づいて追加・解約が行われることにより、いずれかの受益者が不利益を被ることとなります。したがって、日々基準価額を正確に算定することが非常に重要となります。

このような要請に応えるためには基準価額は現在の価値を常に正しく反映した適正な価額でなければならず、投信計理では主に「約定日基準」、「発生主義」及び「時価評価」の原則が貫かれています。一般の企業会計においてもこれらの原則は同様に求められていますが、投信計理では毎日求められているという点が特徴的です。また、受益者間の公平を図る観点からいくつかの独特な会計処理も行われています。

有価証券の売買の計理処理及び評価

有価証券の売買に関する計理処理及び評価については、投資信託協会の「投資信託財産の評価及び計理等に関する規則」等で定められており、約定日基準での計上及び時価評価を基本としています(このことはデリバティブ取引においても同様です)。

投資信託における組入れ有価証券は、その性質上、原則としてすべて売買目的で保有しているものと考えられます。そのため、売買目的有価証券について時価評価を行い、評価差額を当期の損益に計上することを求めている現行の金融商品会計基準の考え方とも整合しているといえます。

株式

① 売買の計理処理

株式の売買は、約定日基準に従い、買付又は売付約定成立の日(外国株式の場合には、現地約定日の翌営業日)に計上します。通常、受渡日は約定日から起算して4営業日目ですので、買いの場合の相手勘定は未払金、売りの場合は未収入金を計上します。

また、買いの場合、株式売買手数料は株式の帳簿価額に含めます。その後、同一銘柄を買い増した場合には、移動平均法により簿価単価を計算します。

売りの場合は当該株式の帳簿価額と売却価額との差額を有価証券売買等損益として計上します。

② 評価

買付けた株式の時価評価は約定計上日から行います。原則として、国内株式については取引所における計算日の最終相場で評価し、外国株式については海外の取引所における計算時に知りうる直近の日の最終相場で評価します。国内株式・海外株式共に計算日において取引所の最終相場がない場合には、直近の日の最終相場で評価しますが、国内株式の場合、直近の日の最終相場で評価することが適当ではない場合には、気配相場で評価する場合もあります。なお、時価評価に伴う評価損益は当期の損益として計上します。

債券

① 売買の計理処理

債券の売買についても株式と同様に約定日基準で計上します。

買いの場合、約定金額が債券の帳簿価額となります。利付き債の場合は、取得時における経過利息を取得価額には含めず、受渡日に前払費用として計上します。その後、同一銘柄を買い増した際には当初は別銘柄として管理しますが、最初の利払日が到来した日に帳簿価額が合算されます。その後、移動平均法により簿価単価は計算されます。

売りの場合の計理処理は株式と基本的には同様です。

② 評価

債券の時価評価についても約定計上日から行う点、また、評価損益は当期の損益として計上する点は株式と同様です。しかし、債券の場合には非上場銘柄である場合が多いため、以下のいずれかの価額で評価します。

  • 日本証券業協会が発表する売買参考統計値(平均値)
  • 金融商品取引業者、銀行等の提示する価額(売気配相場を除く。)
  • 価格情報会社の提供する価額

なお、委託会社が評価額の入手のため、忠実義務に従って十分な努力を行ったにもかかわらず、評価額を入手できなかった場合や入手した評価額が時価と認定できない事由を認めた場合は、委託会社は忠実義務に基づき合理的事由をもって時価と認める評価額により評価するか、受託者と協議のうえ合理的事由をもって時価と認める評価額により評価します。