株式上場と税務~株式売買・株式評価~

株式売買の税務

譲渡税率

株式上場時には大株主等が株式を一部売却するケースが多いです。これは、上場基準を充足するため、上場時の初値を円滑に形成するため、創業者利潤をもたらすため等様々な目的のために行われます。

個人が株式を譲渡した場合には、申告分離方式によって課税され、株式の譲渡対価からその取得原価を控除して求めた株式売却益に20%(所得税率15%、住民税率5%)の課税が発生します。(復興特別所得税を除く)

※贈与税率については、個人から個人へ株式等を贈与した場合には、受贈者側に贈与税が課されます。

注:贈与額=贈与された財産の価額-基礎控除額110万円

ストックオプションに関する留意点

ストックオプションの権利行使を行い、権利行使時の株価(時価)より安い価格で新株を取得した場合には、その経済的利益(時価と行使価額の差)については給与所得等とされ、累進税率による所得税が課されることになります。

ただし、一定の基準を満たすストックオプションについては、権利行使時点では所得税を課税せず、当該株式を売却した時点で株式譲渡益として課税し、所得税の申告分離課税を適用するという優遇措置を受けることができます。この優遇措置によって課税時期が繰り延べられる結果、納税資金捻出のために権利行使と同時に株を売らなければならないといった心配はありません。

※特例(税制適格)の要件(措法29条の2)

課税繰延の要件に該当するストックオプションとは、「新株予約権の有利発行の決議」に基づき無償発行された新株予約権で、下記の要件をすべて満たすものをいいます(措法29の2①)。

① 行使期間は、付与決議の日後2年を経過した日から10年を経過する日までの間
② 行使価額の年間の合計額が、1,200万円を超えないこと
③ 行使価額は、契約締結時における時価以上であること
④ 新株予約権は、譲渡禁止であること
⑤ 権利行使に係る株式の譲渡または新株の発行が、付与決議がされた会社法に定める事項(取締役等の氏名を除く)に反しないで行われること
⑥ 行使により取得した株式は、発行法人と証券会社または金融機関との間で管理等信託契約を締結し、保管の委託等がなされること

なお、付与対象者は、発行会社(50/100超の子会社を含む)の取締役または使用人である個人及びその相続人のうち、付与決議日において発行済株式総数の1/3(上場会社等は1/10)超の株式を有する大口株主に該当しないこと(租措令19条の3②③④)となっているため、取締役等が権利行使時の経済的利益について非課税措置を受ける場合には、権利行使をする際に、その付与会社の大株主に該当しないことを誓約し、かつ、他の新株予約権等の行使等を記載した書面を、その付与会社に提出する必要があります(措法29の2②)。

自己株式の取得

・ 取得法人

自己株式の購入時・消却時・処分時には原則として課税関係は生じません。

 

・売却株主

売却株主は売買時にその売却方法(市場買付・公開買付・相対取引)によって下記の通り課税されます。

法人株主・個人株主
公開株式(市場買付) 譲渡益課税(みなし配当課税なし)
公開株式(TOB) みなし配当+譲渡益課税
非公開株式(相対取引) みなし配当+譲渡益課税

みなし配当:
1株当たりの交付金銭等の額が1株当たりの取得資本金等の金額を超える場合の、その超える部分の金額

譲渡損益:
1株当たりの取得資本金等の金額が帳簿価額を超える場合→譲渡益を計上
1株当たりの取得資本金等の金額が帳簿価額に満たない場合→譲渡損を計上

株式の評価

資本政策で用いられる株価の算定方式は、上場申請会社の財務状況、成長性、株式の取引実態、株主構成、経営参加の関係、によって異なります。

純資産方式

純資産方式は、貸借対照表の純資産額を用いて企業価値を評価し、これを発行済み株式数で除して1株当たり純資産額を算定し、企業の評価額とする方法です。

① 純資産を帳簿価額で評価する「簿価純資産法」
② 純資産を再調達時価で評価する「再調達時価純資産法」
③ 純資産を清算処分時価で評価する「清算処分時価純資産法」

収益方式

収益方式は、企業のフローとしての収益または利益に着目して、企業の価値及び株価を算定評価する方法で、この方式によって算出された株価は組織体としての企業の動的価値を表し、継続企業を評価する場合において理論的に最も優れた方法です。

① 収益を利益として展開する「収益(または利益)還元法」
② 収益を資金上の収入として展開する「DCF 法(ディスカウント・キャッシュ・フロー・メソッド)」

配当還元方式

配当還元方式は、非上場企業の株価を評価する方法で、同族会社や同族株主がいる会社の少数株主が保有する株価を評価する際などに主に用います。過去の配当額から将来の配当額を予想し、そこから企業の株式価値を求めます。具体的には、過去2年間の配当金額を利率10%で還元し、元本である株式の価額を算出します。

① 配当に実際に行われる配当予想金額を用いる「実際配当還元法」
② 配当に経営者の配当政策に左右されない一般に妥当とされる配当額を用いる「標準配当還元法」
③ 企業が獲得した利益のうち、配当にまわされなかった内部留保額は再投資によって将来利益を生み、配当の増加を期待できるものとして、株価を評価する「ゴードンモデル法」

比準方式

比準方式は、評価対象会社と、上場会社のうち業種・規模等が類似する会社(類似会社)もしくは業種の平均の株価と比較して、対象会社の株価を算出する方式です。

この方式は、比準する株価により、以下に分類されます。

① 評価対象会社とa.事業内容、b.企業規模、c.利益の状況等が比較的類似すると見られる複数の会社の株価と比較する「類似会社比準方式」
② 評価対象会社と類似する業種の平均株価と比較する「類似業種比準方式」
③ 評価対象会社の株式に実際に取引事例がある場合に、その取引価格を基にして株価等を算出する「取引事例法」

併用方式

各種方式を組み合わせて株価を算出する方法です。

 

株式上場と相続税

納税資金対策

未上場株式は相続税を計算するにあたり、その財産価値を認識していかなければなりませんが、未上場株式自体は換金性に乏しく、資金繰りに苦労している相続人が多く見受けられます。

一方、上場株式はいつでも証券市場又は取引所を通じて売買が可能であり、株式の換金性が増大しますので、株式上場は相続税の納税資金対策という観点では有効な手段であるといえます。

 課税価格の増加

上場後の株価は、会社の業績や環境等により変化するため、相続開始時の株価が未上場時の株価に比して高くなるか低くなるかの判断は非常に困難ですが、一般的には上場直後の株価は未上場時の株価よりも高くなることが予想されます。また、自社株式の株価上昇に伴い財産価値が増大し、相続税の負担が増加することも考えられますが、上場時の売却益によって確保した納税資金で相続税を納めても、未上場時より株価がかなり高いことを背景に、納税後に残る資金と保有株式の財産価値が結果として多額となるケースが多いです。