上場準備企業はどのような機関設計をすればよいのか①

株式上場を行う場合、会社法上の公開会社となりますから相応の機関設計が必要となります。

 

一方で、多くの上場準備、特にN-3期以前の企業は、株式の譲渡制限会社(非公開会社)ですので、どこかのタイミングで機関設計の変更が必要となります。

 

また、会社法においては、公開会社であるか、または大会社であるかによって様々な規制が課されており、どのタイミングでどのような機関設計を行うべきかは、非常に重要な意思決定となります。

 

今回は、上場準備企業の機関設計について、解説をしていきたいと思います。

 

1. どのような会社でも必須となる機関設計

機関設計とは、会社法に抵触しない範囲で、会社の経営目的反った最適な「機関」の組み合わせを設計することをいいます。

 

会社法で定められている機関としては、株主総会、取締役、取締役会、指名委員会、監査委員会、報酬委員会のサン委員会、監査等委員会、監査役、監査役会、会計監査人、会計参与があります。

 

会社法では、『機関設計自由の原則』により、会社法の定めに反しない限りにおいて自由な機関設計が認められています。

 

ただし、どのような株式会社でも下記の2つの機関については必ず設置しなければならないとされています。

 

①株主総会

会社法295条『すべての株式会社には株主総会を設置しなければならない。』とあるように、株主総会は会社法上、決して欠くことのできない機関となります。

 

株主総会は、すべての株主から構成される、会社の最高意思決定機関ですが、取締役会設置会社においては、その権限の大部分が取締役会へ移譲されます。

 

いずれにしても、株主総会は、会社の所有者たる株主にとって、唯一かつ最高の意思決定機関ですから、これを欠く株式会社というのは定義上存在しえないため、会社法上必ず設置しなければならないとされています。

 

②取締役

会社法326条1項『株式会社には、一人又は二人以上の取締役を置かなければならない。』とあるように取締役も会社法上、必ず設置しなければならない機関となります。

 

取締役は、最高意思決定機関である株主総会の決定にしたがって実際に業務執行等を行う機関であり、取締役を欠く株式会社は事実上業務執行ができないことになるため、必ず設置しなければならないと規定されています。

 

2.上場準備企業が機関設計を行う際の望ましい設計方針

株式会社においては上記で述べた最低限度の機関を備えていればどのような機関設計を採用するのも自由です。

 

取締役会を設置すれば3人以上の取締役が必要になりますし、監査役や会計参与を設置すれば相応の人材を採用しなければなりません。

 

したがって、上場を考えない中小企業の中には一人株主かつ一人取締役で株式会社を運営しているところが多数あります。

 

とはいえ、会社法の範囲において組み合わせができる機関設計のパターンは全部で40通りあるので、自社の状況に最適な機関設計を行うのが良いと思われます。

 

上場準備企業の場合、まだ売上などが1億円に満たない創業期の段階であれば、取締役会や監査役・監査役会、会計監査人などの機関の設置により経営にブレーキがかかるデメリットが大きく、また投資家やベンチャーキャピタルもそれほど多く入っていないと思いますので、会社法の要求する最低限度の期間設計で足りることが多いのではないかと思います。

 

一方、既に主幹事証券や監査法人を選定し、本格的な上場準備に入った段階の企業においては、既に外部の投資家から多額の資金調達などを行っているケースも多く、内部牽制や監視が有効に機能できる一定レベル以上の機関設計を行う必要があります。

 

 

3.上場準備会社の機関設計

上場準備会社の機関設計について考える際に

 

⑴公開会社であるかどうか

⑵大会社であるかどうか

 

という2つの視点が重要になります。

 

会社法は、発行済株式のすべてに譲渡制限を付している会社を株式譲渡制限会社(非公開会社)、それ以外の会社(全て又は一部の株式に譲渡制限を付けていない会社)を公開会社としており、上場会社は当然のように公開会社となります。(公開会社は会社法上の概念であり、必ずしも公開会社=上場会社でないことは注意してください。)

 

上場時には一部でも株式譲渡制限を付けることはできないので、上場時には公開会社である必要があります。

 

そういった事情がありますから、上場準備企業の機関設計のゴールを考える際には公開会社であることが前提となります。

 

そして、次に考えるべきなのが大会社であるか否かについてです。

 

会社法の大会社とは、資本金5億円以上または負債総額200億円以上のいずれかに該当する企業のことをいいますが、上場準備企業の場合、これに該当する場合も、該当しない場合もどちらもあり得ます。

 

したがって、公開会社かつ大会社であるかによって、機関設計には次のような選択肢があります。

 

【非大会社である場合の機関設計】
⑴取締役会+監査役
⑵取締役会+監査役会
⑶取締役会+監査役+会計監査人
⑷取締役会+監査役会+会計監査人
⑸取締役会+三委員会+会計監査人
⑹取締役会+監査等委員会+会計監査人

 

【大会社である場合の機関設計】
⑴取締役会+監査役会+会計監査人
⑵取締役会+三委員会+会計監査人
⑶取締役会+監査等委員会+会計監査人

 

大会社であるか否かに関わらず、公開会社は必ず取締役会と監査役、監査役会、三委員会又は監査等委員会といった監視機関を設置しなければなりません。

公開会社というのは少なくとも一部の株式に関して、取締役会や株主総会での承認なく自由に自社株式を売買できる企業であり、広く株式が流通する可能性があります。

 

したがって、閉鎖的な非公開会社と異なり、取締役の職務執行行為を監視する機関を設けなくてはならないということとなります。

次に公開会社かつ大会社である場合で、三委員会又は監査等委員会を設置した場合には、会計監査人の設置が義務となります。

会計監査人は計算書類などの会計監査を行う機関で、これに就任できるのは公認会計士または監査法人のみとなります。