上場準備企業はどのような機関設計をすればよいのか③

引き続き、上場準備企業の機関設計について解説していきたいと思います。

 

今回は、上場直前期の機関設計について解説をしていきます。

 

上場直前期に入ると、企業側も証券会社側も上場を現実的なものとして考えるフェーズに入ってきます。

 

それに応じ、機関設計も適切に整えていかなければならない時期であり、上場審査においては特に企業の機関が適切に運営されていることが要件とされているため、上場企業と同様の機関設計を行い、かつその下で運営が行われていることが求められます。

 

このように上場直前期は、上場を成功させるうえでもっとも重要な期間と言えるでしょう。

 

1.取締役会における社外取締役の登用

2021年の改正会社法施行を機に社外取締役の登用が義務付けられることとなりました。

 

資本市場の成長に伴い、東芝やオリンパス、最近ではグレイステクノロジーといった会社の不適正会計など、企業不祥事に対する投資家及び社会の厳しい視線は、年々強くなってきています。

 

このような時代背景の中でコーポレートガバナンスの強化が求められ、その中核として社外取締役を据えることがこの法改正の背景にあると考えられます。

 

社外取締役が義務付けられる会社は、

 

・監査役会設置会社かつ公開会社
・大会社
・有価証券報告書を提出している

 

の全てを満たしている企業ですが、上場企業と概ね等しいと考えていただいて構いません。

 

※もっとも2015年に出されたコーポレート・ガバナンスコードにおいて社外取締役2名以上の登用が既に要求されていましたから、上場企業においては対応済である企業がほとんどで、既存の上場企業についてはあくまで会社法の改正で改めて明文化されたというに過ぎません。

 

上場審査では、上場企業と同様の機関設計を行われ、運営されているかどうかの審査がなされますので、上場準備企業もこの会社法改正によって、取締役会のメンバーのうち少なくとも2名は社外取締役であることが必要となりました。(したがって、どちらかと言えば本改正は、上場準備企業に対する影響の方が多かったかもしれません。)

 

次に社外取締役の定義について見ていきたいと思います。

 

社外取締役とは、社内から昇格した取締役とは異なる取引や資本関係のない社外から迎える取締役のことです。

なぜ社外取締役が義務付けられるかと言えば、社外取締役はその会社の業務執行に従事せず、社内の利害関係にとらわれない立場であるため、株主の視点を持って経営を監視し、外部の目によるチェックで経営の透明性を高めたり企業統治を強化したり、といった役割を期待できるからです。

 

社外取締役は法律上も明確に定義され、上記の制度趣旨に合致するよう以下の要件に全て該当しない取締役が社外取締役となります。

 

(1) 当該会社の代表取締役、業務執行取締役、執行役及び支配人その他使用人
(2) 過去10年間において当該会社の業務執行者等であったことがある者
(3) 過去10年間において当該会社の取締役・会計参与・監査役であったことがある者の場合は、その取締役・会計参与・監査役への就任の前10年間において業務執行者等であった者
(4) 子会社の業務執行者等
(5) 過去10年間において子会社の業務執行者等であった者
(6) 過去10年間において子会社の取締役・会計参与・監査役であったことがある者の場合は、その取締役・会計参与・監査役への就任の前10年間において業務執行者等であった者
(7) 親会社の取締役、執行役及び支配人その他使用人
(8) 兄弟会社の業務執行者等
(9) 当該会社の取締役、執行役、支配人その他使用人の配偶者及びその二親等以内の親族

 

直前期には社外取締役2名以上の候補者を擁立する必要があります。

 

社外取締役はこのように非常に厳格な要件が定められており、会社の取締役として迎え入れるだけの能力や実績をもった社外取締役要件を満たす人材の採用は非常に困難であるため、かなり早期から準備をしておかなければなりません。

 

2.監査役会の設置

上場審査では、上場企業と同様の機関設計を行われ、運営されているかどうかの審査がなされますので、社外取締役と同様、上場直前期には監査役会の設置も必要不可欠となります。

 

監査役会は監査役3名以上で構成され、その職務は常勤監査役の選任または解職、監査方針の決定、監査報告の作成などを行う会社法上の機関です。

 

監査役会の要件として、1名以上の常勤監査役を選任するとともに、半数以上を社外監査役としなければなりません。従って直前々期に社外監査役を登用できなかった会社においては2名以上の社外監査役を選任する必要があります。

 

また、監査役会設置会社ではなく、指名委員会等設置会社又は監査等委員会設置会社とする選択肢もあります。

 

指名委員会等設置会社は、指名委員会、監査委員会、報酬委員会の3つの委員会で構成されます。

それぞれの委員会は取締役で構成されますが、このうち監査委員会においては監査役会の場合と同様に3名以上で構成し、かつ半数以上を社外取締役とする必要があります。

 

コーポレートガバナンスの観点からいうと、もっとも望ましい機関設計ですが、半数以上が社外取締役で構成される報酬委員会によって報酬決定がされてしまう点がネックとなり、実務上この機関設計を採用する上場準備会社はかなり少ないのが現状です。

 

監査等委員会設置会社では、監査役会を設置する代わりに監査等委員会が設置されます。

 

監査等委員会は監査等委員となる取締役3名以上で構成され、その半数以上が社外取締役でなければなりません。

 

また、監査等委員は業務執行取締役をチェックする役割に限定されているため、監査役会設置会社と比べ役割が明確になっています。

 

指名委員会等設置会社と比べると、社外取締役が半数以上とされるのが監査等委員に限られる点で採用しやすく、監査等委員会設置会社が機関設計として選択されることも今後は増加していくと考えられます。