上場準備企業はどのような機関設計をすればよいのか④

引き続き、上場準備会社の機関設計について解説していきたいと思います。

 

今回は上場申請期の会社の機関設計について解説していきます。

 

上場申請期ともなれば上場後を想定しての運用になりますから、直前期といっても上場後と同様の機関設計を行う必要があります。

 

対応の大半は上場直前期までに終了している状態となりますが、下記のような対応が求められると考えられます。

 

1.公開会社への変更

上場直前々期、上場直前期では企業にとって株主・出資者を選別したいという意向が容認されますので、必ずしも会社法上の公開会社である必要はありませんが、上場ということになれば株式譲渡制限会社ではいられないので、遅くとも上場申請年度には公開会社となる必要があります。

 

留意していただきたい点として、『公開会社』と『上場会社』をときどき混同されているケースがありますが、まったく違う概念であることを強調しておきます。

 

まず「公開会社」とは、会社法で定められた概念で、発行する株式のどれか一部についてであっても定款で譲渡制限を定めていない会社をいいます(会社法2条5号に定めがあります)。

 

これに対して「非公開会社」とは、公開会社の反対概念で、発行する株式全てについて譲渡制限のある会社をいいます。

 

非公開会社は、所有と経営が必ずしも分離しておらず、経営の閉鎖性が認められることから、取締役会の設置が原則任意とされていたり(会社法326条)、株主総会招集通知の発送期限が公開会社の場合よりも短縮されているなど、定款自治が広範に認められ、所有者である株主による経営への関与が柔軟に認められています。

 

公開会社になっていると、株主の一存で反社会的勢力やライバル企業が株主として参加してしまう可能性もあり、上場企業及び上場準備企業以外は非公開会社となっているのが普通です。

 

一方で上場会社とは、金融商品取引所に株式を公開している会社のことをいいます。

公開会社は、定款により発行する株式の一部について譲渡制限を設けていない会社に過ぎませんので、上場会社と公開会社とは全く違う概念になります。

 

とはいえ上場会社であれば必ず公開会社でなければなりませんので、上場直前期には定款を変更し、全ての株式について譲渡制限を撤廃して公開会社となっていなければなりません。

 

2.会計監査人の設置

会計監査人は、株式会社の計算書類およびその付属明細書、臨時計算書類、連結計算書類の監査を行い、会計監査報告の作成職務を行う機関です(会社396条1項)。

 

会計監査人は、公認会計士又は監査法人でなければなりません(法337条1項)。立法趣旨は、外部の会計の専門家を株式会社の会計に深く関与させることで、株式会社の計算に関連する事項の健全化を図ることです。

 

まず上場準備企業が大会社(会社法上の規定では、資本金5億円以上または負債200億円以上の会社)または委員会設置会社である場合には、会計監査人の設置が義務付けられています(327条5項、328条)ので会計監査人を機関として設置する必要があります。

 

(※資本金5億円未満でも「みなし大会社」となり、大会社と同じ法規制を受けることがありますが、大会社の100%子会社であることなど、上場準備企業でこれを満たすことはほぼ無いと考えられるためこのケースについての考察は割愛します。)

 

少し混乱する点かもしれませんが、これはあくまで会社法上の機関設計の話であって、上場準備作業の一環としての監査法人の選任とは別の話となります。

 

当然に監査法人の監査は上場直前期以前から受けている必要がありますが、会社法上の会計監査人として正式に監査法人または公認会計士の選任を行う必要があるという事です。

 

また、上場準備段階で資本金5億円等の要件を満たしておらず、上場準備会社が会社法上の大会社に該当しないケースも多いと思われます。

 

この場合は金融商品取引法の監査だけを受けて会社法の会計監査が不要になるかといえばそうではなく、東証の有価証券上場規定に、『上場会社は、大会社でない場合でも、会計監査人の設置を求められる』旨の記載があるので、やはり会計監査人の設置が必要になります。

 

これらを整理すると以下のようになります。

 

上場直前々期及び上場直前期において大会社でない会社が受けている監査法人の監査は、「金融商品取引法に準じた監査」という位置づけの任意監査となります。

 

一方で、会社法によって会計監査人の監査が義務付けられた後では、上記の「準じた」監査ではなく、義務付けられた法定監査となります。

 

最後に、公開会社において役員の任期は、取締役は2年内に監査役は4年内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとなります。

 

非公開会社の時に任期を10年まで伸長できる特例的な取り扱いを適用していた場合であっても、その特例は適用できませんのでご注意ください。

 

いかがでしたか?

 

長く続いた本シリーズもこれが最後となります。上場準備時の機関設計は、時期により、または会社の状況により様々なパターンが考えられますので、必ず専門家に相談するなどして後から瑕疵に気付くようなことがないようにしましょう。