投資事業有限責任組合(LPS)と投資先の評価について

投資事業有限責任組合(LPS)とは

投資ファンドを設立する際にはさまざまなスキームがありますが、その中でも有益なパターンの一つとして投資事業有限責任組合(Investment Limited PartnershipLPS)があります。ファンド設立には主に信託型と会社型、組合型がありますが、運営や税法上でのメリットが多いと言われているのが組合型です。そして、組合型の中にもいくつか種類がありますがその中の一つがLPSです。

LPSは組合員である投資家から資金を集め出資先企業に対して出資金として資金を提供します。組合員は無限責任組合員と有限責任組合員で構成されていますが、両者の違いは債務に対する責任の範囲の違いです。

無限責任組合員は文字通り組織の債務に対して際限なく責任を負わされるため、自己資金の投入も必要となり、最悪自己破産するケースもあり得ます。

一方、有限責任組合員の場合は責任の範囲が出資額までのため、万が一組合が負債を出しても出資額以上の負担を負うことはありません。そのため、多大な負債を負うリスクが少なくなり投資家が出資しやすい形態であると言えます。

投資事業有限責任組合のメリット

ファンド設立時には、通常金融商品取引法上の第二種金融商品取引業と投資運用業への登録が必要ですが、この登録には時間がかかる上に金融庁からの検査を受けるための資料作成も求められるため、ある程度のコストがかかります。また、最低でも純資産5000万円が必要であるため、小さいファンドの場合は資金集めに苦戦することもあります。

しかし、特例措置として適格機関投資家等特例業務というものがありこの届出が認められると第二種金融商品取引業と投資運用業の登録は不要になります。そのため、通常は数カ月かかる登録手続きが数週間で済み、書類作成も必要ないため迅速かつ低コストでファンド設立することができます。

適格機関投資家等特例業務の条件は以下の通りであり、投資事業有限責任組合は運用形態がこの条件にマッチするため特例措置の条件をクリアしやすいです。

・適格機関投資家以外の有限責任組合員が一定の資格要件を満たすこと

・1名以上の適格機関投資家の出資

・それ以外の出資者の数を49名以下とする

※適格機関投資家とは投資のプロのことで、証券会社や有限責任事業組合、金融長官に適格機関投資家の届出を行った個人など、個人だけでなく法人や組合でも構いません。特例措置を受けるためにはこのような適格機関投資家から最低1口以上出資してもらう必要があります。

投資事業有限責任組合は適格機関投資家が無限責任組合員になる必要がなく出資を受けやすい点や、一人の無限責任組合員が主導権を持ってファンドの運営を行いやすい点から適格機関投資家等特例業務を利用するベンチャー企業は、投資事業有限責任組合というかたちでファンドを組成することがほとんどです。

また、LPSは法人格を持たないことからパススルー税制の適用を受けることができ、法人税の課税がないこともLPSのメリットです。ファンドが利益を上げたことによる所得に対しては課税されず、出資者に利益を配分する際にはじめて課税を受けることになります。

※パススルー税制とは構成員課税とも呼ばれ、組合や法人などの事業組織の収益については投資家や出資者などの構成員に帰属するものとして、当該組織には課税せず構成員に対してのみ課税する方式のことです。

しかし、LPSは法人税の課税はありませんが会計監査人監査の監査対象のため、解散するまでは毎事業年度において法人と同様に事業年度の財務諸表等を作成したうえで公認会計士または監査法人の監査を受ける必要はあります。ちなみにベンチャーキャピタルにおける会計処理には通常の会計業務とは異なる独自の会計基準があり、代表的なものは株式(投資先企業)の評価額です。

ベンチャーキャピタルにおける投資先の評価

ベンチャーキャピタルは成長性が高いベンチャービジネスに投資し、投資先企業が成長した後IPOやバイアウトによりキャピタルゲインを得ることを主な収益としています。

ベンチャーキャピタルが投資する企業の株は未公開株式のため客観的な時価がないことから、投資先の評価を適切に行うことはとても重要です。しかし、スタートアップ企業やベンチャー企業は上場企業に比べ事業基盤が確立できていないことや収益が安定していないこと、情報開示の体制整備が不十分であることなどから投資先の状況を基に投資の評価を実施することは、見積もりの要素を含む難しい判断となります。

ベンチャーキャピタルが保有する未公開株式は時価を把握することが極めて困難である株式に該当するため、取得原価をもって貸借対照表価額とします。しかし、投資先企業の財政悪化により実質価額が著しく低下した場合には、相当の減額を行い評価差額は当期の損失として減損処理することになります。ちなみに、ベンチャーキャピタルが投資をする際は投資先企業の成長力や超過収益力を加味して金額を決めるため、通常は投資先企業の純資産額よりも高い金額となりエグジットまでの期間は取得価額が純資産額を上回る状況となります。

また、投資先が創業前後やビジネスが軌道にのる前は赤字である場合も多く財政状態のみに着目した形式的な基準による評価では多くの投資先について出資後すぐに実質価額が著しく低下している状況になってしまいます。このような問題に対応するために金融商品会計に関する実務指針では超過収益力を含めた実質価額が毀損しているか否かを減損実施要否の判断基準にするとしています。しかし、当該超過収益力の毀損の有無を判断することは実務的に困難です。そこで、判断をするにあたっての一般的な考え方について解説していきます。

毀損の認識方法と認識後の減損金額の測定

評価時点において、出資する時に見込んでいた超過収益力が毀損しているか否かを判断します。その際に多くの投資先企業において将来予測の要素を加味しての判断となりますが、事業計画の達成度や翌期以降の収益計画の達成確度など総合的に検討していきます。また、業種ごとの特性なども勘案する必要があります。

判断の結果、毀損の認識がされた場合には減損金額を測定する必要があります。実務指針には“相当の減額を行う”という内容の記載があるだけで明確な記載はありません。そのため、他の未公開株式などの場合と同様に評価額の客観性、入手可能性、経済性などの観点から一株あたりの純資産価額での評価が一般的です。また、買取価額が決まっている場合は回収可能価額における評価をすることも考えられます。