暗号資産の交換損益の税法上の取扱いについて

暗号資産を保有している個人が、別の暗号資産を保有するようなケースも多いと思います。

暗号資産を日本円のような法定通貨と交換した結果出た譲渡益については、株式などの金融商品などと基本的には一緒です。

しかしながら、暗号資産同士の取引ではどうなるのでしょうか?

以下、モデルケースを参照しつつ、税法上の取り扱いについて考えてみたいと思います。

1.モデルケース

暗号資産の売買で生計を立てている個人が、暗号資産を他の暗号資産と交換した場合について考えてみます。モデルケースは、以下のような状況を想定します。

ビットコイン売買により生計を立てている個人事業者がいます。この事業者はこれまで、暗号資産の売買はビットコインによってのみ行ってきましたが、このたびビットコイン以外の暗号資産であるイーサリアムの売買も始めることにしました。始めるにあたって購入したイーサリアムの決済は、保有するビットコインにより支払いました。

今回のように、暗号資産から他の暗号資産に交換した場合、交換時に課税関係は生じるのでしょうか?

まずは、所得税法上の取り扱いから見てみましょう。

2. 所得税法上の取扱い

保有している暗号資産から他の暗号資産への交換は、種類は違いますが暗号資産を保有し続けていると捉える考え方も成り立ちます。(この場合、保有が継続するので譲渡益も譲渡損も認識しません。)

しかしながら、現行の税法上は、交換取引を『譲渡と取得による複合取引』として取り扱います。事例でいえば、一度ビットコインを日本円に交換し、交換した日本円でイーサリアムを購入したと会計処理上は仮装するということです。

交換のケースでは複数の暗号資産が登場するので、次の具体例により解説します。

まずはビットコインを1.0BTC 購入し、その後、その購入したビットコイン1.0BTC をイーサリアム10ETH と交換した場合の例です。なお、この例における暗号資産のレートは次のとおりとします。

1.0BTC:500,000円(購入時)

1.0BTC:600,000円(交換時)

1.0ETH:60,000円(交換時)

取引を順に追っていくと、まず500,000円でビットコインを1.0BTC購入します。次に、500,000円で購入したビットコインとイーサリアムを交換し10ETH を取得していますが、取得したイーサリアムの購入対価は600,000円ではなく1.0BTC により支払いをしています。

ここで、ビットコインとイーサリアムの交換時に着目し、交換の取引を分解します。分解すると、ビットコイン1.0BTC を600,000円で売却した取引と、600,000円でイーサリアムを10ETH 購入した取引となります。

この交換取引ですが、500,000円で購入したビットコインを600,000円で売却し、直ちにイーサリアムを購入した場合と同一の結果であり、同じ経済的効果が生じています。

つまり、交換取引とは、“売却(譲渡)取引”と“購入(取得) 取引”による“2つの複合取引”と見ることができるのです。

よって、所得税の所得計算ですが、500,000円で購入したビットコインを600,000円で売却したケースと同様に、600,000円と500,000円の差額である100,000円の売却益を、交換時において所得として認識し計算され、また、イーサリアムの取得価額は600,000円となります。

なお、別のコラムでも述べていますが、暗号資産取引により生じた損益は、邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益と認められますので、原則として、雑所得に区分されます。


ただし、その年の暗号資産取引に係る収入金額が 300 万円を超える場合には、次の所得に区
分されます。
・ 暗号資産取引に係る帳簿書類の保存がある場合・・・原則として、事業所得
・ 暗号資産取引に係る帳簿書類の保存がない場合・・・原則として、雑所得(業務に係る雑
所得)


なお、「暗号資産取引が事業所得等の基因となる行為に付随したものである場合」、例えば、
事業所得者が、事業用資産として暗号資産を保有し、棚卸資産等の購入の際の決済手段として
暗号資産を使用した場合は、事業所得に区分されます。

3.消費税法上の取扱い

次に消費税法上の取り扱いについて見ていきましょう。

消費税の取扱いについては、交換時にビットコインの譲渡(売却)を認識しますが、2017年7月以後の暗号資産の譲渡は非課税取引となり、課税売上割合の計算上、分母に計上しないものとされました。

4.結論

まとめると、このようなケースにおいては、以下のような結論になります。

保有していた暗号資産を他の暗号資産と交換した場合、交換時に交換前の暗号資産を一度売却し、あらたに他の暗号資産を購入した場合と同様の効果が生じることから、交換時において交換前の暗号資産の売却損益を認識します。

消費税法上は、非課税取引となります。