所得税の暗号資産の評価方法の届出手続

前回のコラムにおいて、個人事業主が暗号資産によって収益を得ている場合において、税務上の含み益や含み損の取扱がどうであるかに解説しました。

結論から言えば、所得税法上、 未実現の評価損益(売却時の値上りによる含み益や、値下りによる合み損)は認識しないことを原則とし、年末に保有する暗号資産に係る含み益や含み損は、所得税の計算において計上しないものと考えるというものでしたが、一方で、譲渡原価の算定を行う必要性などから、『期首残高 +当期購入-期末残高』により間接的に計算された暗号資産の売上原価や譲渡原価についての検討すべき論点もありました。

今回のコラムでは、上記に関わる論点として、譲渡原価の算定方法の違いによって譲渡原価の金額が異なる可能性があるため、その届け出が必要であり、また、その届け出の具体的な方法についての解説をしていきたいと思います。

1.所得税の暗号資産の評価方法の届出手続

暗号資産を取得した場合に総平均法及び移動平均法のうち、選定した評価方法を所轄税務署に対して届出をする必要があります。

具体的な提出時期ですが、暗号資産を新たに取得した日又は従来取得している暗号資産と種類が異なる暗号資産を取得した日の属する年分の確定申告期限までに提出する必要があり、提出期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となります。

2.届出書の書き方

上記の届出書は、有価証券又は暗号資産について選定した評価方法の届出をする場合に提出するものです。

従来の評価方法(評価方法の届け出がなかったため、法定の評価方法によるべきこととされた場合を含みます。)を変更する場合には、この届出書ではなく「有価証券(暗号資産)の評価方法の変更承認申請書」により変更の申請をする必要がありますので、間違えないようにしましょう。

次に、この届出書は、 有価証券については、事業所得の基因となる有価証券を新たにした日又は従来取得している有価証券と種類が異なる有価証券を取得した日の属する年分の確定申告期限までに提出していただく必要があります。

暗号資産については、暗号資産を新たに取得した日(※)又は従来取得している暗号資産と種類が異なる暗号資産を取得した日の属する年分の確定申告期限までに提出してください。

なお、暗号資産の取得には、暗号資産を購入し、若しくは売却し、又は種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に一時的に必要なこれらの暗号資産以外の暗号資産を取得する場合における取得は含まれません。

また、この届出書の標題及び本文の中の「有価証券(暗号資産)」は、申請の内容に応じて不要な文字を抹消していただく必要があります。

3.評価方法の選定の個所の書き方について

評価方法の選定は、 有価証券又は暗号資産の種類ごとに行うことになっていますのでその種類ごとに評価方法を定めて、次のように記載してください。

  • 「区分」欄には、 有価証券について記載する場合は「有価証券」 を、暗号資産について記載する場合は「暗号資産」 を○で囲んでください。
  • 「種類」欄には、新たに取得した有価証券又は仮想通貨の種類を記載します。
  • 有価証券の種類は、おおむね金融商品取引法第2条第1項第1号から第21号まで (第17号を除きます。)の各号の区分によります。この場合、外国又は外国法人の発行するもので同項第1号から第9号まで及び第12号から第16号までの性質を有するものはこれに準じて区分します。 したがって、例えば、国債証券、地方債証券、社債券(相互会社の社債券を含みます。)、株券(新株予約権を表示する証券を含みます。)、証券投資信託の受益証券、 貸付信託の受益証券などは、 それぞれ種類の異なる有価証券として区分することができます。

また、新株引受権付社債は、 それ以外の社債とはそれぞれ種類の異なる有価証券として区分し、外貨建ての有価証券と円貨建ての有価証券又は外国若しくは外国法人の発行する有価証券と国若しくは内国法人の発行する有価証券は、それぞれ種類の異なる有価証券として区分することができます。

暗号資産の種類は、暗号資産の呼称等(ビットコインなど)を記載します。

「評価方法」欄には、総平均法又は移動平均法のうち、選定した評価方法を記載します。「新たに取得した年月日」欄には、有価証券又は仮想通貨を取得した年月日を記載します。

なお、この場合の「新たに取得した年月日」欄には、実際に仮想通貨を取得した年月日を記載します。

これらの手続は確定申告の計算期間が終了するまでに行っていないと、適法に申請したとみなされない可能性がありますので、必ず所轄税務署に問い合わせた上で提出期限の確認もしましょう。

また、本ブログにおける記載については、事実関係を調査し記載しているものの、改正や通達の内容を適時にフォローしているものではなく、記載内容に基づいて行った処理によって被った損失について責任を負うものではありません。

届出の際には、必ず顧問税理士または税務署などに問い合わせを行ったうえで行っていただくようお願いいたします。