貸手のオペレーティング・リース取引の注意点

貸手のリース取引に関して、基本的には旧基準と同じなのですが、特にオペレーティング・リース取引において旧基準からの変更点があります。

今回は、前回のコラムで解説しきれなかったファイナンス・リース取引における旧基準との相違に加え、メインテーマとして新しい公開草案のリース基準、リース適用指針におけるオペレーティング・リース取引の会計処理の注意点について解説をしていきたいと思います。

1.基準の定義によるファイナンス・リース取引

まずは、リース基準(案)によるファイナンス・リースの会計処理について見ていきます。

リース基準(案)によれば、ファイナンス・リース取引の会計処理として、次のように定めがあります。

貸手は、ファイナンス・リースについて、通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理を行う。貸手は、リース開始日に、通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理により、所有権移転ファイナンス・リースについてはリース債権として、所有権移転外ファイナンス・リースについてはリース投資資産として計上する。貸手における利息相当額の総額は、貸手のリース料及び見積残存価額(貸手のリース期間終了時に見積られる残存価額で残価保証額以外の額)の合計額から、これに対応する原資産の取得価額を控除することによって算定する。当該利息相当額については、貸手のリース期間にわたり、原則として、利息法により配分する。

ポイントは2つで、所有権移転ファイナンス・リースの債権がリース債権であり、所有権移転外ファイナンス・リースのファイナンス・リースの債権はリース投資資産であることと、利息相当額を利息法で各期に配分することです。

前回のコラムで解説したように割賦販売に伴う収益認識基準の改定にあわせて、第2法が廃止されましたので利息相当額の利息法での配分は、第1法または第3法にて行われます。

第1法の売上と原価を計上しますが、第1法においてはリース開始日に貸手のリース料からこれに含まれている利息相当額を控除した金額で売上高を計上するので矛盾はありません。

細かいですが、この第1法においても利息法を適用し、延払いの部分を切り出すことを含めたことは公開草案での改正点の一つになるので注意しましょう。

2.基準の定義によるオペレーティング・リース取引

次に、リース基準(案)によるオペレーティング・リースの会計処理について見ていきます。

リース基準(案)によれば、オペレーティング・リース取引の会計処理として、次のように定めがあります。


貸手は、オペレーティング・リースについて、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行う。(基準第46項)

貸手は、オペレーティング・リースによる貸手のリース料について、貸手のリース期間にわたり原則として定額法で計上する。(適用指針第78項)

新たな公開草案でも、貸手の会計処理の基本は.通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理ということで、ここにj変化はありません。

しかし、旧基準の企業会計基準適用指針第16号ではそもそも、ファイナンス・リース取引の会計処理のみが示され、オペレーティング・リース取引の会計処理は示されていなかったのですが、実はここに多少の実務上の混乱の原因があったようです。

たとえば、以下のような

フリーレント:契約開始当初数か月間賃料が無償となる契約条項

レントホリデー:数年間賃貸借契約を継続する場合に一定期間賃料が無償となるような契約条項

実務上よくある変則的な契約についての会計処理が必ずしも明らかでなく、オペレーティング・リース取引の会計処理の実務が会社ごとで異なってしまっている実態がありました。

これは、同一事象に対しては同一の会計処理が行われるべきところ、同一事象に対して違った会計処理がなされているということで財務諸表の比較可能性が損なわれていることを意味し、望ましい状態ではありません。


そこで、オペレーティング・リースによる貸手のリース料について、貸手のリース期間にわたり原則として定額法による計上を行う事で、リースの会計処理について企業間の比較可能性を高めることを意図し、今回のような内容となりました。

3.オペレーティング・リース取引の会計処理の変更による実務上の影響

これまでは、賃料が無償となるフリーレント期間については、リース料をまったく計上しないか、リース料の総額についてフリーレント期間を含めた賃貸期間で分割して計上するパターンの2つの会計処理が考えられました。

しかし、もし今回の公開草案が採用された場合には、リース料の総額についてフリーレント期間を含めた賃貸期間で分割して計上する方法だけが許容される会計処理となります。


ただし、留意点として、適用初年度の期首に締結された新たなリースとして本公開草案を適用して会計処理することができるとの例外規定があるため、過去に遡及する必要はない点があります。(これは実務上の負担を考慮してのことです。)

今回のオペレーティング・リース取引についての改正は、リースの定義を満たさない経済実態が類似した契約の会計処理との整合性、リース事業を営む企業のリースの収益と、リース事業以外の事業者の主たる営業活動の成果である収益との比較可能性が高まる点でも望ましいといわれています。。

貸手の会計処理は大きく変わるわけではありませんが、リースの貸手としての業務が本業のリース会社や不動産会社については、ファイナンス・リースの第2法が廃止されたりフリーレントを均すことが要求されたりすることで売上の数字に対して直接的な影響があるので、経理担当者や財務諸表利用者は改正前後で注意が必要になります。