PPAにおけるマネジメント・インタビュー

Purchase Price Allocation(M&Aにおける取得原価の配分。以下、PPAと記載)における無形資産の識別の際にポイントとなるのが、マネジメント・インタビューです。

分離して譲渡可能な無形資産を識別するに当たって、被取得企業としての強みは技術力なのか、ブランド価値なのか、顧客リストや販売チャネルなのか等、M&A当事会社へのインタビューを行う事で、分離して譲渡可能な無形資産の識別と、識別された無形資産の価値の把握が可能となります。

今回は、このマネジメント・インタビューについて解説をしていきたいと思います。

1.マネジメント・インタビューを行う目的とは

PPAを目的としたマネジメント・インタビューを行う場合、まずは算定人が独自に入手した基礎資料や依頼から入手した基礎資料を検討し、具体的な評価作業に入ることになります。

M&A当事会社のマネジメントに対するインタビューは、それぞれ以下のような目的で行われますが、インタビュー自体は、M&A当事会社の経営者だけではなく、事業部長や関連部署の従業員に対しても行われる点には留意が必要です。


⑴事業実体の理解
M&A前の事業実態や、当該無形資産に関連する事業の展望について把握するため行われます。買収時点で当該事業が形骸化していたり、ブランド価値が大きく毀損されていたりするケースがあるため注意が必要です。


⑵事業の今後の展開等
M&A以降の事業の展開や、当該無形資産の事業への積極活用についてインタビューを行います。

また、同時に、当該無形資産の内容、識別の意図、活用実態、利用可能年数予想等について把握することも忘れてはいけません。遊休状態になっており、M&A後に即座に事業に転用できないケースなどもあるため注意が必要です。


⑶事業計画の内容確認
入手した基礎資料の中に事業計画が含まれている場合に、その計画の作成過程や精度の高さ、実現可能性の程度を確認する必要があります。売却価額を高くするため、非現実的な仮定や実態と異なる想定の下で事業計画が策定されているケースもあるため注意が必要です。

また、基本的なことですが、事業計画以外の入手した基礎資料の内容を確認し、基礎資料として利用するのに有用か判断することが大切です。

加えて、そもそも当該無形資産が事業計画に盛り込まれているか、また盛り込まれているとしてもどのように盛り込まれているかも確認する必要があります。

2.マネジメント・インタビューの内容

マネジメント・インタビューに決まった方法はなく、自由にインタビューを行うことになりますが、限られた時間の中で効果的なインタビューとするためには、特に価値形成要因に関連して重要と判断した点について重点的に行うように心がける必要があります。

⑴一般的要因についての内容
ア.社会変化や政治状況がM&A当事会社又は無形資産に与える影響
イ.経済政策や景気動向がM&A当事会社又は無形資産に与える影響
ウ.法令の制定や改正がM&A当事会社又は無形資産に与える影響

⑵ 市場要因
ア.市場のライフサイクルにおけるライフステージの状況とそれがM&A当事会社又は無形資産に与える影響
イ.当該無形資産に関連する事業の市場の現状と将来予想
ウ.当該無形資産の市場における優位性や類似する他の無形資産との比較

⑶企業要因
ア.M&A対象会社であるM&A当事会社の事業環境、事業の優位性、事業リスク、事業への脅威となる事象
イ.同じくM&A当事会社の事業内容、投資、収益性、財政状態など過去の実績
ウ.同じくM&A当事会社の事業計画の概要と実現可能性


⑷特定事業要因
ア.無形資産に関連する事業の特徴やM&A当事会社の期待
イ.無形資産に関連する事業の優位性、リスクや事業への脅威となる事象
ウ.無形資産に関連する事業のライセンス供与、売買、実施の実績と将来性


⑸個別要因
ア.当該無形資産の内容や特徴、類似する他社の無形資産との比較優位性
イ.当該無形資産に対する期待
ウ.当該無形資産の事業への貢献の程度

3.インタビュー時の注意点


✔M&A当事会社から入手した基礎資料とマネジメント・インタビューとの整合性
基礎資料の検討後、マネジメント・インタビューによって、マネジメントの見解と基礎資料の内容が整合することを確認します。

これらが整合しない場合、場合によっては、基礎資料の再検討を行う必要性が生じるため慎重に行いましょう。

✔算定人が独自に入手した基礎資料とマネジメント・インタビューとの整合性
算定人が独自に入手した基礎資料とマネジメントの見解とが整合するかを確認します。整合しない場合には、別の基礎資料の入手やマネジメントの見解の再検討をする必要があります。

また、場合によっては、M&A当事会社の見解の見直しを行う必要があります。


✔計画値の実現可能性の程度
M&A当事会社から入手した計画値がどの程度達成可能性が高いかについての心証を得る必要があります。計画の達成可能性が低い場合、その計画値を使用しない評価法の採用を検討したり、計画値の見直しや、複数の事業シナリオの作成を追加で行う必要があります。

✔マネジメント・リスクや脅威となる事象の検討
無形資産に関して事業等のリスクや脅威となる事業の発生可能性についても確認が必要な場合があります。また、そういったリスクや脅威が基礎資料に反映されているかを検討し、反映されていない場合には資料や事業計画の見直しを依頼する必要があります。

いかがでしたか?

マネジメント・インタビューは、無形資産の識別において極めて重要な手続になりますので、基礎資料の読み込みや事前調査の徹底など万全の準備で臨む必要があります。

実際にマネジメント・インタビューを行う事になった場合は、今回の記事での留意点などをぜひ参考にしてみて下さいね。