PPAにおける無形資産の評価①

Purchase Price Allocation(M&Aにおける取得原価の配分。以下、PPAと記載)を行う際に識別と並んでもっとも論点になるのが、無形資産の評価です。

今回は、数回のシリーズにわたりこの無形資産の評価について考察していきたいと思います。

1.無形資産の認識要件を満たさない場合


企業結合会計適用指針によれば、無形資産の認識要件を満たさない例として下記の事例が挙げられています。


⑴被取得企業の法律上の権利等による裏付けのない超過収益力
⑵被取得企業の事業に存在する労働力の相乗効果(リーダーシップやチームワーク)

⑴として具体的な事例を挙げるとすれば、社風や企業風土といったものがあると思われます。例えばキーエンスという会社は、効率的な業務遂行を会社全体として心がけることで企業価値を向上させ続けていますし、リクルートという会社は創業以来の起業家精神を大切にすることにより、企業全体として新規事業の創出に圧倒的な強みを有しています。

トヨタ自動車、ソニー、任天堂など独特の企業風土や伝統が企業価値を高めているケースは多く、恐らくこれらの会社の時価総額にはこうした価値を生み出す企業風土が含まれていますが、こういった法律上の権利等の裏付けのない超過収益力は、無形資産の認識要件を満たさない識別不能な資産として『のれん(又は負ののれんの減少)』に含まれることになります。


また、無形資産の議論を行う際に『ブランド』の取り扱いも問題となります。

現行の企業結合会計適用指針の考え方においてはまずブランドを、プロダクト・ブランドとコーポレート・ブランド(企業又は企業の事業全体のブランド)に分けて考えます。

そのどちらについても商標権又は商号として、ともに法律上の権利の要件を満たす場合が多いと考えられます。

そして、もう一つの無形資産としての認識要件である『独立した価額を合理的に算定できなければならない』という企業結合会計適用指針の規定については、プロダクト・ブランドについては充足するケースもあると思われます。

したがって、プロダクト・ブランドのうち独立価額を合理的に算定できるものについては、無形資産として計上されると思われます。


一方で、コーポレート・ブランドについては、企業又は事業と密接不可分であるため、無形資産として計上することは通常困難であると考えられます。

仮にコーポレート・ブランドを識別可能な無形資産として取扱う場合には、事業から独立したコーポレート・ブランドの合理的な価額が算定でき、かつ、分離可能性があるかどうかについて検討を行う必要があります。

2.基礎となる考え方

ここでは、無形資産の評価を行うための基礎となる考え方について解説していきたいと思います。

まずは、『公正価値』について解説をします。

この公正価値の概念は、PPAにかかる無形資産価値評価において基礎となる非常に重要な概念で、無形資産はこの公正価値の概念に基づき測定されます。


IFRSでは、今回のようなPPAを行う場合の無形資産の評価以外にも、株式の評価や年金資産の評価などのさまざまな場面で『公正価値』が用いられます。

公正価値とは、合理的な市場価格が利用できる場合は市場価値と同義と考えられますが、市場価格がない場合においても、可能な場合は合理的な計算方法によって算出することを求めるものであり、この点で市場価値とは概念を異にするものと言われています。

公正価値の測定方法や表示・開示方法についてはIFRS第13号「公正価値測定」において包括的に規定されています。


IFRS13号によれば、公正価値とは「測定日時点で、市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るであろう価格又は負債を移転するために支払うであろう価格」とされています。

IFRSの「公正価値」は日本基準の「時価」に相当する概念ですが、IFRSでは公正価値測定の算定方法が体系的に整理されており、開示面でも現行の日本基準より詳細な情報が求められるという特徴があります。

この意味するところは、無形資産の評価は、恣意的なものであってはならず一般的な市場参加者の見地に立って行わなければならないというものです。

一方、日本基準においても、IFRS13をベースとした企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」等(以下、時価算定基準等)が、2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されています。

時価算定基準等はIFRS13の定めを基本的に全て取り入れて開発され、統一的な算定方法を用いることにより、国内外の企業間における財務諸表の比較可能性を向上させることを目的に導入されました。

なお、日本基準における時価とは「算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格」(時価算定基準第5項)と定義されています。

IFRSと日本基準で若干の表現の相違はあるものの実質的には同義であると考えて構いません。※

※ただし、IFRS13は一部の項目を除いて全ての公正価値測定に適用されるのに対し、日本の時価算定基準等は、市場価格のない株式等を除く金融商品等にのみ適用されるため、適用範囲はIFRSのほうが広くなっている点はご留意ください。

合理的に算定された価額は、一般に、コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチなどの見積方法を採用することが考えられます。

そして、資産の特性等により、これらのアプローチを併用又は選択して算定することとなります。この点について、IFRSと日本基準の基本的な考え方に差異はないものと考えられます。