資産除去債務の会計基準の導入理由について

資産除去債務について、皆さんはどの程度ご存知でしょうか?

有形固定資産を購入、建設等して企業が取得した場合に、将来確実に除去や撤去の費用が見込まれるようなケースは多いと思われます。

この時、概念フレームワークの負債の定義を考えると、これらの除去費用は将来企業が負うべき支払義務であり、負債ではないのかという観点から議論が行われたという経緯があります。

今回は、資産除去債務について解説していきたいと思います。

1.資産除去債務基準導入の経緯

資産除去債務の会計基準導入以前の日本基準では、国際的な会計基準で見られるような、資産除去債務を負債として計上するとともに、これに対応する除去費用を有形固定資産に計上する会計処理は行われていませんでした。

※電力業界で原子力発電施設の解体費用について発電実績に応じて解体引当金を計上するといった会計処理はありましたが、あくまで引当金としての処理であって予測される除去費用を見積り、債務として認識するような包括的な会計処理は行われていませんでした。

しかし、財務諸表利用者にとって企業が負うべき将来の除去・撤去費用は避けることのできない将来の費用負担、かつキャッシュ・アウトフローであり、実質的な債務です。

であれば、有形固定資産の除去に関する将来の負担が反映された財務諸表の方が投資情報としては有用と考えられます。

そこで当時の企業会計基準委員会は、コンバージェンス及び資産負債アプローチの観点から、資産除去債務の会計基準を制定することになりました。

2.資産除去債務とは?

次に資産除去債務の会計上の概念にについて見ていきます。

資産除去債務の会計基準によれば「資産除去債務」とは、『有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるもの』となります。

ポイントは法律上の義務またはそれに準ずるものというもので、概念フレームワークの負債概念と対になっている点に留意する必要があります。

また「法律上の義務及びそれに準ずるもの」がいまいちイメージしずらいと思いますが、これは有形固定資産の除去そのものは義務でないような場合でも、有形固定資産に付随する有害物質等が法律等で除去することを要求されているような場合もあり、そうした場合の除去義務を含めるため『準ずるもの』という表現がされています。

重要なのは、資産除去債務の会計処理の本質は、企業が固定資産等を取得した際に『不可避的に』発生する除去費用であるという点です。

概念フレームワークにおける負債の本質は『義務』ですから、引当金のように発生の蓋然性の高い将来の費用を見積るといった種類の会計処理ではなく、法律や契約による『不可避の』将来の費用負担を貸借対照表に計上する会計処理となります。

このように、資産除去債務を固定資産取得時に財務諸表にオンバランスすることで投資家の投資判断に資する情報提供を行うことができます。

3.有形固定資産の除去とは?

ここで有形固定資産の「除去」を基準でどのように定義しているか見ていきましょう。

有形固定資産の「除去」とは、有形固定資産を用役提供から除外することをいいます。

具体的には、売却、廃棄、リサイクル等がありますが、転用や用途変更は除去には含まれませんし、一時的に除外する場合や遊休状態になる場合も除去には該当しません。

有形固定資産の除去が行われた場合、経理上は固定資産台帳から有形固定資産は除外されるというとイメージしやすいでしょうか。

この『除去』のタイミングで発生する除去費用を見積もるのが資産除去債務の会計処理です。

4.資産除去債務の会計処理

最後に現行の資産除去債務の会計処理の妥当性について検討します。

資産除去債務の会計処理に関しての処理は、⑴保守費用と同様の会計処理⑵引当金の会計処理⑶資産除去債務の会計処理という3つの可能性が考えられます。

以下、それぞれの会計処理の内容を解説します。

⑴保守費用と同様の会計処理

保守費用のような通常の費用処理を会計上行う場合、実際の用役の費消があった時点で費用を計上し、費消した金額を負債として認識します。

この考え方で資産除去債務の会計処理を行った場合、有形固定資産の除去などの将来に履行されであろう用役について実際の費消が無く、債務が確定する訳でもないので費用も負債も認識されることはありません。

資産除去債務の会計処理が導入される以前は、上記のような考え方で資産除去債務の認識は行われていませんでした。

⑵引当金の会計処理

次に引当金として会計処理する場合の説明をします。

実は資産除去債務の会計基準制定時の議論においては、引当金処理を推す声もあったようです。

というのは現行基準のような資産負債の両建処理の場合、計上される借方項目は資産としての性格を有していないのではないかという疑問があったためです。

この疑問に対しては、有形固定資産の取得等に付随して不可避的に生じる除去費用を取得原価に含めて有形固定資産への投資について回収すべき額を引き上げることで、実態に即した会計処理を行えているというのが最終回答となり資産負債の両建処理が採用されましたが、引当金処理も有力案の一つであったことは資産除去債務の会計処理を理解するうえで重要です。

もし引当金処理を行った場合は、用役の費消を資産の使用に対応させて各期に費用配分し、それに対応する金額が引当金として負債に計上されます。

有形固定資産に対応する除去費用が使用に応じて各期に費用配分されるという点では、資産負債の両建処理と同じですから、引当金処理を採用した上で、資産除去債務の金額等を注記情報として開示することも検討されました。

しかし、引当金処理の場合の致命的な欠点として、有形固定資産の除去に必要な金額が貸借対照表に計上されず資産除去債務の負債計上が不十分になるという点があります。

⑶資産除去債務の会計処理

資産除去債務の会計処理が想定する法律上の義務に基づく将来の支払等を見積る場合、引当金処理だろうが資産除去債務の処理だろうが、有形固定資産の除去サービスに係る支払いが不可避的に生じる実態に変わりはありません。

であればその支払が後日であっても、債務として負担している金額が合理的に見積られることを条件に、資産除去債務の全額を負債として計上し、同額を有形固定資産の取得原価に反映させる資産負債両建処理を行うことが適切ではないかと考えられます。

結局のところ、有形固定資産に対応する除去費用を減価償却を通じて各期に費用配分しつつ、除去費用の総額を貸借対照表の負債に計上できることから、資産負債の両建処理は、引当金処理を包摂したより優れた会計処理であると位置付けることができ、国際的な会計基準とのコンバージェンスにも資するものであることから、資産負債の両建処理の採用が決まりました。