暗号資産の取得価額が不明な場合の処理について
暗号資産の取得価額については購入時の価格ということになりますが、これが不明な場合にはどのように取扱うべきでしょうか。
ブームに乗り暗号資産を購入したものの、売却や追加購入等をせずにそのまま放置した結果、購入した金額が思い出せないというようなケースがあるようです。
暗号資産を売却しようとした場合、どのように取得価額を計算すればよいのでしょうか。
他の資産でもそうであるように、購入金額が不明な場合には取得価額を0円として計算し、譲渡価額の全てを売却益として取り扱わなければならないのでしょうか?
1.概要
ビットコイン等の暗号資産を購入した際の購入金額が不明な場合には、取得価額を0円とはせずに、売却金額の100分の5に相当する金額を暗号資産の取得価額として事業所得または雑所得の金額を計算することができます。
2.所得税法上の取扱い
所得税法上、購入した暗号資産の取得価額は、その購入金額に購入にかかる手数料等の付随費用を加算した額となります。
この購入金額等は暗号資産交換業者を通じて購入した場合には、2018年1月1日以後の取引であれば、年間取引報告書で確認することが可能です。
しかし、2017年12月31日以前の取引のうち年間取引報告書が交付されない場合などは、購入金額が不明となってしまうことも考えられます。また、相続等で取得した場合にも購入金額が不明となることも考えられます。
このような場合に、購入金額が不明であるために取得価額を0円として所得の計算をする必要はありません。
収入金額の100分の5に相当する金額を暗号資産の取得価額とすることができる旨が国税庁より法令解釈通達にて公表されました。
具体的には
「仮想通貨を売買した場合における事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は法第37条第1項及び第48条の2の規定に基づいて計算した金額となるのであるが、仮想通貨の売買による収入金額の100分の5に相当する金額を仮想通貨の取得価額として事業所得の金額又は雑所得の金額を計算しているときは、これを認めて差し支えないものとする。」(「所得税基本通達の制定について」の一部改正につきての法令解釈通達48の2-4)
※原文のままであるため『仮想通貨』の文言が使用されています。
これは、次に説明する株式等の譲渡の場合にも関連するものですが、『所得税基本通達38-16』の『収入金額の100分の5に相当する金額を取得費として譲渡所得の金額を計算しているときは、これを認めて差し支えないものとする。』という規定を暗号資産にも適用したものと考えられます。
次に、実際の取得価額がわかっている場合において、この収入金額の100分の5に相当する金額を取得価額として計算した方が有利な場合に、収入金額の100分の5に相当する金額を取得価額として所得計算をすることはできるのでしょうか?
これについては、株式等の譲渡における取得価額が判明している場合の規定も参考になると思います。
というのも株式等の譲渡においては取得価額が不明な場合だけでなく、取得価額がわかっている場合でも以下のような取扱いとなっているからです。
「譲渡した株式等が相続したものであるとか、購入した時期が古いなどのため取得費が分からない場合には、同一銘柄の株式等ごとに、取得費の額を売却代金の5%相当額とすることも認められます。実際の取得が売却代金の5%相当額を下回る場合にも、同様に認められます。」(国税庁タックスアンサーNo1464より抜粋)
この趣旨は、取得原価が不明な場合でさえ5%の取得費が認められるにも関わらず、取得原価が判明している場合にこの規定を用いることができず結果として納税額が増えるのは、納税者側にとって極めて不合理な結果となるからと思われます。
以上のことから考えると、暗号資産の売却についても、実際の取得価額がわかっているような場合であっても、その取得価額が収入金額の100分の5に相当する金額を下回った場合には、収入金額の100分の5に相当する金額を用いて事業所得の金額または雑所得の金額を計算することができる可能性が高いものと思われます。
なお、暗号資産が分裂したことにより取得をした場合には、その取得価額は0円とすることとされています。
この分裂により取得した暗号資産を売却した場合には、取得価額を0円として所得計算を行うのか、または上記のように収入金額の100分の5に相当する金額を用いて所得計算を行うことができるかについても明確になっておりません。
しかし、このような場合においても、上記の国税庁のタックスアンサーの趣旨を鑑みれば、収入金額の100分の5に相当する金額を用いて事業所得の金額または雑所得の金額を計算することができる可能性が高いものと思われます。
3.消費税の取扱い
消費税法の仕入税額控除を適用するためには、消費税部分を区分した証憑の添付が必要となります。
取得価額が不明な場合はこの証憑添付ができず、収入金額の100分の5に相当する金額を取得原価として所得の計算をした場合には、消費税の仕入税額控除の対象とすることはできません。