評価性引当額に関する注記について

今回のテーマは評価性引当額です。

税効果会計の理解において避けては通れない『評価性引当額』ですが、他の会計基準では全く登場しない税効果会計特有の論点ということもあり、実はあまり良くわかっていないという方もいらっしゃるのではないでしょうか?

今回は、企業会計基準第28号「税効果会計に係る会計基準」の一部改正の主要改正論点の一つでもある評価性引当額の注記の趣旨なども併せて評価性引当額についての解説をしていきたいと思います。

1.評価性引当額とは何か

評価性引当額とは、税効果の適用指針によれば『将来減算一時差異が解消するときに課税所得を減少させ、税金負担額を減額すると認められる範囲でのみ計上されている繰延税金資産について、回収可能性がないことから、その減額範囲を超えると判断されて部分的に繰延税金資産から控除した金額』のことを指します。

前回のコラムでも見たように、繰延税金資産に将来の税金の削減効果あると認められるためには回収可能性があることが必要ですが、十分な課税所得が見込まれる場合には繰延税金資産として計上が認められるものの、十分な課税所得がないことにより回収可能性が認められないような場合があると当然に想定されます。

評価性引当額とはこうしたケースにおいて繰延税金資産とならなかった金額をいいます。

とはいえ回収可能性の見積は毎期行いますので、評価性引当額は状況変化により将来の見込まれる課税所得が増加すれば回収可能性が認められる可能性があります。

したがって現時点で回収不能とされ評価性引当額となっていても、将来的に繰延税金資産として計上することができる可能性があります。

これは、繰延税金資産が同じ金額だけ貸借対照表に計上されていても、評価性引当額があるかないかで将来の税金費用の削減効果のポテンシャルが大きく違ってくるということを意味しています。

評価性引当額の注記について『税効果会計基準一部改正』でいくつかの変更が加えられましたが、上記のような評価性引当額の引当額の性質が大きく関係しているのでこの点はしっかりと理解してください。

2.『税効果会計基準一部改正』前後の税効果基準

改正前の税効果会計基準においては注解8で評価性引当額の注記についての定めが設けられていました。

その注解8では、評価性引当額の注記についての記述として「繰延税金資産の発生原因別の主な内訳を注記するにあたっては、繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)を併せて記載する。」とのみ規定されていました。

一方、『税効果会計基準一部改正』では「繰延税金資産の発生原因別の主な内訳として税務上の繰越欠損金を記載してい る場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるときは、繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)は、税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額と将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額に区分して記載」すべき旨の記載が追加されました。

改正前後の条文の記載のみだとなかなか理解しがたいと思いますので補足をすると、これは改正前は『評価性引当額』全体だけを注記すればよかったものが、繰越欠損金が発生している(そして重要性があるために繰越欠損金が「発生原因別の主な内訳」の構成要素になっている)場合には、

①繰越欠損金に係る評価性引当額

②繰越欠損金とは無関係な通常の将来減算一時差異等に係る評価性引当額

とに区分して記載しなければならなくなったことを意味しています。

3.評価性引当額についての注記の充実化が求められた理由

最後に、なぜ評価性引当額の注記が拡充されたのか、その背景について説明をしていきます。

まず説明の大前提として、そもそもなぜ財務諸表が必要なのかという点を説明する必要があります。

理由は簡単で、財務諸表利用者といわれる会社のステークホルダーたちは、株主なら配当などの分配、債権者であれば利子および返済など会社の利益や財政状態に強い関心と利害を有しています。

そうであるなら会社は、出資者や債権者に対する説明責任として財務諸表による財務数値の報告が必要になりますが、その財務報告は財務諸表利用者にとって十分に有用なものとなっているかを常に検討することもまた会計基準設定主体も考えなければなりません。

さて、ここで税効果会計に関する注記事項は『税効果会計基準一部改正』の前後で財務諸表利用者にとってどのようなものであったかを見ていきます。

一般に財務諸表利用者が税効果会計に関連する注記事項を利用する場合、将来の利益にダイレクトに影響する税金負担額はいくらで繰延税金資産は本当に回収可能なのか、すなわち税負担率の予測の観点及び繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価の観点から分析を行うと考えられます。

そして財務諸表利用者が税負担率の予測の観点から分析を行う場合は一般的に、税率差異の注記を参照して、法定実効税率と税負担率との差異のうちでも一過性の原因により生じたものは除いて考えるのではないかということが改めて議論されるようになりました。

ところが、もし上記のような議論を前提にするなら、従来の発生原因別の注記では評価性引当額の合計額のみが開示されるだけであり、税負担率の予測が十分にできないということになってしまうということになってしまいます。

例えば、記載法定実効税率と税負担率との差異が大きく、かつ、税率差異の注記に「評価性引当額の増減」が記載されているような場合、従来の注記では評価性引当額の増減内容が分からないため、当年度の法定実効税率と税負担率との差異原因も分からず、結果、将来の税負担率に与える影響の予測もできませんでした。

ここで『税効果会計基準一部改正』のように、発生原因別の注記に記載されていた評価性引当額の合計額について、税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額と将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額に区分して記載が行われたとしたらどうでしょうか?


税務上の繰越欠損金が生じたときに将来において課税所得が生じる見込みがないため評価性引当額を計上するケースや、税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額を計上していたときに、課税所得が生じ税務上の繰越欠損金を利用したことにより評価性引当額が減少するケース等、税負担率の実績と予測が大きく乖離する場合の多くのケースに対して、財務諸表利用者は精度の高い予測をすることができるようになります。

(まとめ)
このように、従来の注記では評価性引当額の総額のみ開示される状態であるため、税負担率に影響をもたらしている原因分析が困難であり、これに対処するため『税効果会計基準一部改正』注記が求められたというような背景がありました。