収益認識基準~契約の結合~

収益認識基準の導入は、これまでの日本の会計基準の中で明確な取り決めのなかった収益認識の領域に参照すべき絶対的な規範ができたという意味で非常に意義のあることでした。

一方で、抽象的かつ包括的な基準であるため実務への応用について調整が必要な面も多々ありました。

契約の識別について、基本は契約ベースにおいて行われるという話を前回までのコラムでしていましたが、実務上契約ベースに忠実に行えないケースもあり、例外的なケースについての定めが設けられています。

この例外事例の一つで非常に重要な概念が『契約の結合』で、今回のテーマとなります。

それでは解説をしていきたいと思います。

1.契約の結合

これまで紹介した事例では、契約の中に複数の履行義務が含まれている等していることから、別個の履行義務または契約として認識するような事例が多かったと思います。

しかし、会計処理上の懸念としては、別個の複数取引を単一の取引として認識してしまうリスクだけでなく、単一取引として認識すべき取引を別個の複数取引として認識してしまうリスクもあります。

『契約の結合』は、こうした単一取引として認識すべき別個の複数取引として認識してしまわないよう、外形上は複数の契約であっても実質的に単一の契約とみなし、会計上『契約の結合』を行うべき場合がどんな場合であるのかについて、定められた概念です。

通常、企業は、顧客と取引ごとに契約を締結します。

一方で実務上は、同一の顧客と同時に複数の契約を締結すること考えられます。

良く取り上げられる事例としては、商品の販売契約と保守サービス契約を同時に締結するような場合が挙げられます。

基準第27項では、顧客の関連当事者を含む同一の顧客と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約について、複数の契約を結合すべき場合を示しています。したがって、これらの要件を充足した場合には単一の契約とみなして処理する必要があります。

  1. 当該複数の契約が同一の商業的目的を有するものとして交渉されたこと
  2. 一つの契約において支払われる対価の額が、他の契約の価格又は履行により影響を受けること
  3. 当該複数の契約において約束した財又はサービスが単一の履行義務となること

このような要件を満たす場合の契約は、実質的には単一の契約となるためその実態を反映して契約の結合を行わなければなりません。

2.契約の結合に関する論点整理

契約の結合について、2つほど論点があるのでここで紹介します。

まず、『同時又はほぼ同時』という規定について、どこまでを『同時』と考えるのかという論点があります。

これは、基準においてもIFRS第15号においても明記されていませんが、おそらく作成者は敢えて明記しなかったと思われます。

なぜなら、実務上は様々なケースが想定されるため、これを明記することで必ず何か不合理な状況が現れることが予想されるからです。

複数契約の開きがどの程度の期間であれば『ほぼ同時』であるのか判断するには、企業及び監査人は会社のビジネス慣行などを理解することが必要となります。

そもそもmこの『ほぼ同時』という文言が設けられた趣旨は、(この文言が無いと)企業側が敢えて契約を1日ずらす事で容易に契約の結合を意図的に回避、または意図的に適用することができてしまうからであると思われます。

そうであるなら、判断は個別的に行うほかはなく、なぜ取り決めが別個の契約として締結されたのか、交渉過程はどうであったのか、交渉担当者は同一であったのか別であったのか等を基準に総合的に検討していくことになります。

また、当然ですが、これらを判断するために必要な内部統制を企業は用意する必要があり、同一顧客に対して行われた複数の契約が契約の結合を行うべきものであるかを適時に判断するための体制作りは欠かせません。

次に、同一の顧客がどこまでを含むかという問題があります。

実はこれについても明文規定はないのですが、この判断を行う上で、契約の結合の検討が行われている複数契約の交渉担当者が同一当事者であるのか、または異なる部署なのかというのは判断上の大きなポイントです。

当事者の部署が異なる二つの契約は、単一の商業目的に向けたパッケージ化された契約で、単一の履行義務であると判断される可能性は低い点に留意しましょう。

3. 契約の結合に関する適用指針の例外規定

1. 契約の結合で記載した通り、一定の場合における複数の契約は結合することが原則です。

ただし、適用指針101~103項には次のような例外事項が儲けられています。

このいずれも満たす場合には、複数契約を結合せず、個々の契約において定められている財又はサービスの内容を履行義務とみなし、個々の契約で定められた金額で収益を認識することができます。

  1. 顧客との個々の契約が当事者間で合意された取引の実態を反映する実質的な取引の単位であると認められる
  2. 顧客との個々の契約における財又はサービスの金額が合理的に定められていることにより、当該金額が独立販売価格と著しく異ならないと認められる

契約の結合は、網羅性の担保のため、例外なくいかなる場合においても検討されることを原則としていますが、上記を満たすような場合にまでそれを求めるのはあまりに過重であることからこのような規定が儲けられていると考えられます。

また、工事契約及び受注制作のソフトウェアにおける複数の契約について、収益認識の時期及び金額の差異に重要性が乏しい場合には、当該複数の契約を結合して単一の履行義務として識別することができるとされています。

また、これについても同様で、極めて少額の受注契約にまで契約の結合に関する検討を行わせることは、実務上の負担があまりに大きいと考えられ、重要性の観点からこのような規定になったと思われます。