収益認識基準~顧客との契約の識別についての解説②~

前回は、契約の識別の5要件やそれに該当しないときの識別要件、そして、IFRS第15号の基本的な考え方について見てきました。

今回は、IFRS第15号をベースとして、具体的にどのように契約を識別していくか、また、契約の識別の5要件のうち、特に問題となりやすい『回収可能性』の論点についても解説をしていきたいと思います。

1.契約の識別の具体例

前回のコラムにおいても見たように、IFRS第15号では必ずしも契約の有無について文書の存在を前提とはしていませんでした。

これについて、IFRS第15号では『契約の有無の評価文書によらない販売の契約』として下記のような事例を挙げています。

【前提条件】

⑴製造会社Sは、当事業年度末日前に顧客に対して出荷可能な製品を保有している。

⑵販売店Tは、その製品を注文した。

⑶製造会社Sは、当該商品を事業年度末日において発送した。

⑷製造会社Sは、販売店Tと同規模の顧客に対しては販売契約を文書によって合意しており、合意の際には双方の代表者の署名が必要とされる。

ところが、当期末の上記の販売について、下記のような問題が生じています。

【問題点】

⑴製造会社Sは、販売の合意書を用意し、自社については代表者の署名が完了している。

⑵販売店Tは、事業年度末日までに代表者の署名を行う事ができなかった。

⑶ただし、販売店Tの仕入れ部門と製造会社Sとの間では口頭での合意が行われ、販売店Tから製造会社Sに対し、良く事業年度の第1週目に合意書に署名する可能性が高い旨の通知がなされている。

形式的に考えるならば、販売契約の合意書に対する双方の署名が完了していないため、上記の取引は当事業年度の収益として認識することはできないという結論になりますが、果たしてそれが妥当でしょうか?

【結論】

製造会社Sは、弁護士に相談して上記に関する法的意見を問い合わせた上で、法律、判例等から判断したところ、仮に販売店Tが合意書に署名をしていなくとも、既に製品が発送され、その合意書の署名も間をおかず行われる蓋然性が高いことから、販売店Tは製造会社Sに対し事業年度末時点において対価を支払う義務を負うとの見解を得た。

前回見たようにIFRS第15号では、必ずしも文書による記録を『契約の識別』の有無の判断の一義的な基準とは定めていませんでした。

それは今回のようなケースがあるためです。

弁護士のような専門家による法的見解の裏付けがある以上、会計基準を形式的に当てはめることによって画一的に判断すれば、かえって正しい損益をゆがめることになると思われます。

したがって、下記のような結論が導き出されます。

【結論】

販売店Tに対する製造会社Sの販売契約は存在し、当事業年度の末日において左記の合意に基づいて行われた販売に対して収益認識基準を適用し、5ステップにしたがって履行義務の認識と対価の配分を行うことになる。

2.『回収可能性』についての考察

収益認識基準の『契約の識別』についての第5要件「⑸顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと」については、様々なケースが想定されます。

この「回収可能性」というのは、単に、対価を回収する可能性の方が回収できない可能性よりも高いというのではなく、契約の締結可否を判断する際の回収可能性の検討において、かなりの高い確率で回収が見込まれるという意味で、「可能性が高い」という表現を用いております。

回収可能性の要件は、顧客に対して移転される財またはサービスと交換に権利を得ると見込まれる金額を対象とします。

注意点としては、必ずしも契約価格とは限らず下記のような要素を含めて判断することになります。

  • 企業の法的な権利
  • 過去の実績
  • 契約期間の信用リスクのヘッジ等の様態
  • 顧客の支払能力・意思

もう一つの注意点としては、回収可能性の評価対象は、解約不能期間に帰属するサービス対価に限定されるという点です。

これはたとえば、契約期間2年のうち最初の1年だけが解約不能の期間で、残りの期間についてはペナルティなしで双方のどちらかが解約可能あれば、最初の一年分だけが回収可能性の評価対象となるということです。(※)

(※)これについては、少し解説が必要かもしれません。

まず、解約不能期間についてですが、これは財・サービスの売手にとっては1年間の履行義務を負ったと考えられます。そして、顧客側はこれについて解約する権利がありませんので、顧客が契約対価の支払能力を有しているならば(そして、通常は与信管理などによって支払能力のある顧客のみに売手は販売する)『契約の識別』を行う事が可能ということになります。

一方で、ペナルティなしで解約可能であれば、実質的にはこの期間の顧客の『支払意思』は確認できないことになります。このように考えていくと、解約不能期間の1年間だけに限って『回収可能性』の評価をすべきであるということになります。

とはいえ、通常の企業であればほとんどの契約に対して『回収可能性』は満たされると考えられます。あくまで、この回収可能性は、資金回収に明らかに問題がある案件について収益認識をしてしまい、収益認識と同時に、または間もなく減損損失を計上するような事態を回避するために設けられたものです。

したがって、回収可能性の検討はかなり特殊なケースであるという点には留意が必要です。

次回も引き続き、回収可能性の論点について事例を見ながら解説をしていきたいと思います。