収益認識基準~回収可能性についての考察~

前回のコラムでは、回収可能性について事例も含めて解説しました。

 

今回も引き続き、回収可能性について、事例を見ながら解説をしていきたいと思います。

 

1.回収可能性に基づく契約の有無の判定の具体例について

前回のコラムで、回収可能性の判断の対象となる価格は、契約価格そのものではなく取引条件を加味して判断することを解説しました。

まずは、この具体例について紹介します。

 

例)不動産契約を締結、合意したケースにおいて、売手は下記のような要素を考慮して回収可能性を評価し、それに基づき契約の有無を判断した。

 

  1. 買い手の資金調達能力
  2. 買い手の契約に対するコミットメント(買い手の営む事業に対する当該資産の重要性などを勘案)
  3. 類似した状況における過去の経験
  4. 契約上の権利について強制的な条項がある場合の相手方の意図
  5. 支払条件
  6. 売手にとっての債権は、将来劣後債となる条件設定がなされているか
  7.  

これらについては、それぞれ(たとえば)下記のような状況にある場合には回収可能性が高いと結論付けることができなくなると思われます。

 

  1. 買い手の資金調達がうまくいっていない
  2. 買い手が契約にコミットメントする意思が薄い(財務状態が悪く事業を廃業しようとしている)
  3. 過去に正当な理由なく債権を履行しなかった実績がある
  4. 不当な売買を当初から企図し、無条件の返金など、売手に極端に不利な強制条項を盛り込むこと強要する
  5. 法的に有効な支払条件が定められていない
  6. 売手の債権が劣後債となる契約が定められており、またそういった事象が発生する蓋然性が高い
  7.  

こうした場合、回収可能性がなく、したがって『契約の識別』ができないので、不動産の支配を移転させる契約は会計上存在しないという結論となります。

 

この場合の売手の会計処理としては、(対価を受け取っている場合は)契約締結前に現金を回収した場合と同様に考えるものとし、「預り金」を負債に計上することになります。

 

2.回収可能性と価格面の譲歩の区別について

回収可能性を考えるときに、値引きなどによって低価で販売したのか、それとも対価の一部だけを回収できた(すなわち一部が回収不能となった)のか、その区別が困難なケースがあり得ます。

 

これについて、事例を基に考えてみたいと思います。

 

例)C社は顧客D社に対して、100万円の固定価格で1000個の製品を販売している。しかし、D社は支払実績が芳しくなく、注文後にたびたび値引きを求められている。これに対しC社は様々な状況を勘案し、契約金額の70%しか回収できない可能性があると判断して、収益を認識した。

 

【解説】

結論から言えば、C社は黙示的に値引きを提供したと考え、STEP3の『取引価格の決定』において70%の取引価格を設定したと考えます。(この70%の値引きは、変動対価の一種と考えます。)

 

そのため、C社は顧客から固定価格70%の金額を受け取ると予測したうえで、回収可能性の判断については、予測変更後の70%の金額に対して行う必要があります。

 

これは一見2度手間のようにも思えますが、販売価格決定における回収の蓋然性の見積と収益認識における回収の蓋然性の見積が一致するとは限らず、また特に支払サイトが長期にわたる場合には、(たとえ計上時点では両者が一致していたとしても)回収可能性は変化する可能性が高く、これらを別の概念として整理する方が合理的であったのだろうと思われます。

 

したがって、その後の再評価において、70%の金額よりも多く回収できると見込まれるならば、その超過額を追加で収益認識し、逆に少なくしか回収できないと見込まれる場合は、債権の減損の規定にしたがって、不足額を貸倒引当金等の科目を使って引当を行います。

 

また、こういった回収可能性の判断とは別にC社が追加で価格面での譲歩(値引き)を行うならば、この場合は貸倒引当金の計上ではなく、単に収益の減額として処理をすることになります。

 

3.回収可能性の実務上の判断方法(顧客のポートフォリオの利用について)

回収見込額の判断については、過去の顧客データのポートフォリオを参考にするのが実務上は有用です。


特に、小売業のように同種の取引を多数行っている場合にはより適切なアプローチとなります。

 

同種の大量の取引を、回収状況ごとにクラスに分類し、包括的なポートフォリオを構築したうえで債権回収の見積に利用します。

 

例えばですが、小売業者Aが同質的な顧客との取引において平均して請求金額の60%しか回収ができていないならば、価格譲歩の提供を行わない場合には、当該クラスの平均的な顧客との契約については、契約金額の全額について回収可能性が高くないとの評価を行う根拠となります。

 

この場合、『対価の回収可能性が高い』という要件を満たすことが無いので、履行義務の充足と対価の回収が完遂されるまで収益認識はできず、受領した金銭は預り金等の負債勘定により処理をすることになります。

 

逆に、小売業者Aが同質的な顧客との取引において平均して請求金額の90%が回収できている場合には、全額が回収される可能性が高いことの指標になり得ます。

 

とはいえ、回収は90%しかできていない訳ですから、個々の契約からほぼ毎回90%が回収されているというような状況の場合にはむしろ、実質的には10%の価格譲歩を提供している証拠と考え、この10%を一般債権の貸倒引当金とするのではなく、売上収益の値引きとして収益額を減額するという処理も考えられる点に留意が必要です。