収益認識基準と変動対価

収益認識基準の公表により、様々な論点について従来の会計処理との違いが生じますが、その影響範囲が非常に大きい論点の一つに『変動対価』の論点があります。

今回は、この『変動対価』について解説をしていきたいと思います。

1.変動対価とは

収益認識基準によれば、変動対価とは、『顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分』となっています。

具体的には、値引き、リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティー等が代表的です。

収益認識基準では以下のような5ステップで収益を認識していきますが、

STEP1:契約の識別
STEP2:履行義務の識別
STEP3:取引価格の算定
STEP4:取引価格の配分
STEP5:収益の認識

変動対価の論点は、『STEP3:取引価格の算定』に関連する論点で、次回のコラムで解説する『返品権付きの販売』の論点など、他の論点とも密接にかかわってくる重要論点となります。

2.変動対価の見積り

報告主体である企業は、顧客と約束した対価の額について変動対価が含まれる場合は、変動対価も含めて、支払を受ける権利があると見込まれる額を見積る必要があります。

すなわち、変動対価も収益の一部を構成し、対価に変動する部分がない場合には固定対価となります。

そして、変動対価の見積額は、企業が権利を得ることとなる対価の額を、より適切に予測できる方法を用いて見積ります。

具体的には、下記の(a)(b)のどちらかを用いて見積ります。

(a)発生し得ると考えられる最も可能性の高い単一の金額(最頻値)
(b)確率で加重平均した金額の合計値(期待値)

3.最頻値法と期待値法の具体例

最頻値法と期待値法でどのように変動対価を計算するか具体例を見ていきましょう。

【設例】

A社は、卸業者のB社との間で販売価格@10千円の商品Xについて長期の販売契約を締結し、B社はその購入量に応じて下記の表のリベート率に応じたリベートが支払われる。当期の販売数量は1000個であった。

販売個数①リベート率②発生確率①×②(加重平均)
1001個以上10%30%3.0%
501個以上1000個以下5%(最頻値法)50%2.5%
500個以下0%20%0%
合計(加重平均)5.5%(期待値法)

①最頻値法を用いた場合の変動対価の計算

最頻値法を用いた場合、発生確率がもっとも大きな場合のリベート率を用います。この事例では5%を用いるので、A社の売上は以下のような計算になります。

@10×1000個×(1-0.05)=9,500

②期待値法を用いた場合の変動対価の計算

期待値法を用いた場合、想定確率によって加重平均したリベート率を用います。この事例では5.5%を用いるので、A社の売上は以下のような計算になります。

@10×1000個×(1-0.055)=9,450

4.取引価格に含めるべき変動対価

こうして算定された変動対価の見積額についてですが、変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に、解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り、取引価格に含め、判定に当たっては、収益が減額される確率及び減額の程度の両方を考慮します。


例えば、次のような要因がある場合、収益が減額される確率又は減額の程度を増大させる可能性があります。

(1) 対価の額が企業の影響力の及ばない要因(市場の変動性、第三者の判断や行動等)の影響を非常に受けやすい。
(2) 対価の額に関する不確実性が長期間にわたり解消しないと見込まれる。
(3) 類似した種類の契約についての企業の経験が限定的であるか、又は当該経験から予測することが困難である。
(4) 類似の状況における同様の契約において、幅広く価格を引き下げる慣行又は支払条件を変更する慣行がある。
(5) 発生し得ると考えられる対価の額が多く存在し、かつ、その考えられる金額の幅が広い。

5.変動対価の具体例

最後に、変動対価の見積りに関する具体例を見ていきましょう。

①変動対価の見積りが制限されない場合

⑴変動対価の見積り

A社(家電メーカー)は、製品X1,000個を10,000千円(1個当たり10千円)で顧客であるB社(家電量販店)に販売する契約を締結し、製品X1,000個を引き渡すと同時に、B社に10,000千円を請求した。


A社とB社の契約には、B社が消費者に対して一定の期間に販売した製品Xの販売数量に応じた売上リベートが設定されている。


A社は、権利を得ることとなる対価を見積るために、当該対価をより適切に予測できる方法として、期待値による方法を使用することを決定した。

A社には製品Xについて、B社及び他の家電量販店の販売実績に関する観察可能な十分なデータがある。A社は、期待値による方法を使用して、製品X1個当たりのリベートが1千円となる範囲の販売数量になると見込み、取引価格(変動対価の見積りの制限検討前)を9,000千円(=(10千円-1千円)×1,000 個)と見積った。

⑵変動対価の見積りの制限の検討
次に、A社は、取引価格を9,000千円とすることが可能かどうかについて、変動対価の見積りの制限の定めを検討した。


A社は、収益が減額される確率又は減額の程度を増大させる可能性のある諸要因を考慮して、見積りの裏付けとなる製品X及び現在の市場環境についての過去の経験を十分に有していると考えた。さらに、A社の影響力の及ばない範囲で若干の不確実性があるが、現在の市場の見積りに基づいて、当該不確実性は短期間で解消されると予想した。


したがって、A社は、変動対価の額に対する不確実性が事後的に解消される時点までに計上された収益の著しい減額が生じない可能性が高いと判断し、9,000千円の収益を認識した。

以上が変動対価の見積りが制限されない場合の事例です。次に、変動対価の見積りが制限される場合について見ていきましょう。

②変動対価の見積りが制限される場合

⑴変動対価の見積り

C社(家電メーカー)は、製品Y1,000 個を10,000 千円(1 個当たり10 千円)で顧客である D社(家電量販店)に販売する契約を締結し、製品Y1,000 個を引き渡すと同時に、D社に10,000 千円を請求した。


C社は、D社が消費者に対して行う値引販売について、当該値引相当額の一部を負担することをあらかじめ合意している。

C社は、権利を得ることとなる対価を見積るために、当該対価をより適切に予測できる方法として、期待値による方法を使用することを決定した。

C社の取り扱う製品分野は技術革新が著しく、過去にD社がC社からの仕入れ製品を消費者に販売するために行った値引について、販売価格の20%から60%の大きな幅で値引相当額を負担した観察可能なデータがあり、現在の市場環境を勘案すると、製品Yを流通させるためには、販売価格の15%から50%の幅で値引相当額の負担が必要となる可能性がある。


C社は、期待値による方法を使用して、販売価格の40%の負担を行うと見込み、6,000千円(=10千円×(100%-40%)×1,000個)を取引価格(変動対価の見積りの制限検討前)として見積った。

⑵変動対価の見積りの制限の検討
次に、C社は、取引価格を6,000千円とすることが可能かどうかについて、変動対価の見積りの制限の定めを検討した。


C社は、収益が減額される確率又は減額の程度を増大させる可能性のある諸要因を考慮して、変動対価の額はC社の影響力の及ばない要因(すなわち、陳腐化のリスク)の影響を受けやすく、変動対価の不確実性が事後的に解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高いという決断が下せないため、6,000千円を取引価格とすることはできないと判断した。


C社は、過去の類似の取引における実績を踏まえ、現在の市場環境を考慮し、5,000千円(=10千円×(100%-50%)×1,000個)を取引価格として、収益を当該金額で認識する場合には、変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高いと判断し、5,000千円の収益を認識した。

※なお、事例については、JICPAの『Q&A 収益認識の基本論点』より抜粋

①及び②の事例について、⑴までは同じですが、⑵においてはさらに減額があるかどうかという点で違いが生じます。

リベートが経常的に発生している場合、⑵の見積りの制限に関しても収益認識のための内部統制が必要になりますので注意しましょう。