株式上場と税務~資本政策における税務上の留意点~

資本政策とは、必要資金を充足する資金調達、株主利益の適正な実現、株主構成の適正化等の複数の目的を果たすための新株発行・株式移動等の手段を伴う財務計画のことをいい、その主な目的は、資金調達・安定株主対策・株主利益の確保・インセンティブプラン・株式の流動性確保・関係会社の整理です。これらの目的を実現するために、株式移動や増資あるいは関係会社の持合関係の見直しを行うに当たり様々な手法が利用されます。

こうした手法は、実施時期や移動先、引受人の属性によって移動価額等、税務上の取扱いが異なるため、顧問税理士等の専門家のアドバイスを受けながら慎重に行う必要があります。

株式移動に関する留意事項

株式移動には「売買による方法」と「贈与による方法」があります。

留意点は以下の通りです。

・譲渡制限付き株式は取締役の承認が必要(相続は不要)

・親族以外の第三者に贈与または譲渡する場合は配当還元価額による譲渡が可能

・親族に贈与による移転の場合は相続税評価額を採用

・親族に譲渡による移転の場合は、下記の金額を採用

両者が個人:相続税評価額

一方が法人:38%控除しない時価純資産額と類似評価額との併用

 

自社に買い取ってもらう場合の留意点は以下の通りです。

・買取資金は、分配可能額の金額が限度となります。

・含み益はみなし配当となり税率は15%から55%(総合課税)となります。

・相続した株式、相続時精算課税による贈与をうけたものについては相続申告期限から3年以内に買い取ってもらったものを20%の税率で行います。

第三者割当増資に関する留意事項

第三者割当増資によって、特定の者に対して募集株式の割当をする際には、既存株主の利益保護の観点から、適正な価額で割当なければ株主間の不平等を招き、課税の問題が発生します。

有利な価格で募集株式の割当をした場合には、割当を受けた株主については、原則として、個人株主は所得(一時所得あるいは給与所得)、法人株主は受贈益として課税されます。一方、発行会社は資本取引のため税務上の問題は発生しません。

株式の適正な価額について、上場会社は株式市場の客観的時価が存在するのに対し、未上場会社は上場会社のような客観的な時価がないため、財務状況、成長性、株主構成、経営参加の関係、株式の取引実態等によって、複数の株式の評価方法が利用されています。株式の評価方法についてはこちらを参照ください。

株主割当増資に関する留意事項

既存株主に対してその持株割合に応じて募集株式の割当をした際には、発行価額が時価である場合だけでなく、有利な価格である場合でも株主間の価値の移動はないため、募集株式の割当を受けた株主に対する課税の問題は発生しません。

しかし、同族会社の特定の株主が意図的にその全部又は一部を失権して、親族等特別の関係にある者へ持分の一部を移転した場合には、親族等が同族会社の特定の株主から贈与によって取得したものとして取扱われます。

関係会社等の整備に関する留意事項

資本的、人的関係会社がある場合には、役員の公私混同の防止、投資者保護、適正な開示という観点から、財務状況及び取引関係等が厳しく審査されます。

そのため問題となるグループの企業を再編する際には、原則として資産を移転した法人において資産の譲渡損益が計上されます。また株主に対するみなし配当や譲渡損益の問題が発生しますが、一定の税制適格条件に該当する場合には、これらの課税が繰り延べられることになっています。

 

・株式交換・株式移転

株式交換とは、既に存在している会社を完全子会社化するための組織再編手法であり、子会社になる会社の株主が、その保有する株式を親会社になる会社に拠出し、その拠出した株式に見合うだけの親会社株式を取得することをいいます。

一方、株式移転とは、会社の株主が、完全親会社を設立するために、その保有する株式を拠出して、新設完全親会社の株式の割当を受けることをいいます。株式移転は、完全親会社が新設されることになるため、企業グループ内部の再編で用いられることが多く、特に持株会社化を行う際に利用されることが多い手法です。

株式交換・株式移転は、原則的には「株式の譲渡」ととらえ、交換・移転時点で含み損益が実現したものとして課税されますが、一定の要件を満たせば、交換・移転時点では課税損益を認識せず、交換・移転により取得した株式を売却するまで課税が繰り延べることができます。

 

・合併・会社分割に関わる留意点

企業グループ内の合併・会社分割が行われた際は、資産の引継ぎに関しては、原則として時価による移転として譲渡損益を認識すること(時価移転)となります。ただし、税制適格要件に該当する合併・分割においては、移転資産が帳簿価格で引き継がれ、譲渡損益を繰り延べることができます。

また、被合併会社又は分割法人の株主に対するみなし配当(交付株式等の額の合計額が、その法人の資本等の金額のうち交付株式に対応する部分の金額を超える部分)・株式譲渡課税については、下記の通りですが、会社法における子会社分割は物的分割(法人税法の「分社型分割」)に統一され、人的分割(法人税法の「分割型分割」)は「物的分割」と「剰余金の配当」を同時に行うことになりました。

みなし配当(適格) みなし配当(非適格) 株式同の譲渡損益
合併 課税なし 課税 課税
分社型分割 課税なし 課税なし 課税なし