IFRSにおける暗号資産の位置づけ~資産性~

欧州財務報告諮問グループ『ディスカッション・ペーパー 暗号資産(負債)の会計処理』に基づき、IFRSの観点から見た暗号資産の位置づけについて見ていきたいと思います。

 

1.IFRSから見た暗号資産の資産性

 

一般に資産の保有者は、自己の計算による保有者と他人の計算による保有者(保管業者、仲介業者及び取引所)に分かれていますが、現状、暗号資産の保有者である企業の大部分は、他人の計算による保有者である可能性が高いです。

 

他人の計算による暗号資産の保有者である企業が、こうした資産を財政状態計算書において認識すべきでなのでしょうか?論考をしていきたいと思います。

 

IFRSの概念フレームワークにおいて資産は、『過去の事象の結果として企業が支配していて、そこから将来の経済的便益が期待される現在の経済的資源』と定義されています。

 

暗号資産は、この定義から資産と考えられるかについて考察したいと思います。

 

2.現在の経済的資源

 

現在の経済的資源という観点から、暗号資産は資産性を有すると考えられます。

 

暗号資産をより抽象化して考えると、いずれかの形態において 分散型台帳技術を基盤とした ネットワーク上で創出される、移転及び貯蔵可能な価値又は契約上の権利のデジタル表象ということができると思います。

 

暗号資産は、その表象される形態としては全く新しい技術であるものの、保有者に潜在的な経済的便益を与えることが可能な、将来の経済的便益に対する権利又はアクセスであるという意味で一種の現金同等物または金融賞品と考えらえます。

 

例えば暗号資産には、通貨に類似した経済的属性を有するSuicaや楽天ポイントのような電子マネーもありますし、経済的便益を与える有価証券の類としては貨幣を中心に組成されたETFなどもあります。

 

一方で、それぞれの暗号資産のトークンの経済価値は需要と供給によって決定され、広く金融市場における価格決定を通じて、その現在又は将来のキャッシュ・フロー生成能力を反映した本源的価値または、商品・サービスに参加する権利から期待される経済的効用が表象されると考えられます。

 

つまり、さまざまな暗号資産について「交換価値」と「使用価値」の両方があると考えられますので、この観点からも暗号資産の資産性は肯定されます。

 

3.保有者の支配可能性~違法事例は支配性否定の根拠となるか~

概念フレームワークにおける支配とは、『資産が生み出す経済的便益を獲得し当該便益に対する他者のアクセスを制限するパワー』と定義されます。

 

一般に暗号資産は、排他的所有権が法的に確定でき、財務報告等を行う企業がある資産に対する経済的支配を有しているかどうかを決定することは比較的容易であると考えられますが、適格性に疑問が生じる余地があるという見解もあります。

 

一部の暗号資産(例えば、ユーティリティ・トークン)の権利の強制可能性についての不明確性及び不確実性や、文書化及び契約上の取決めの不十分さ、暗号資産に関連した悪用、、窃盗・ハッキングなど様々な問題があるためです。

 

ハードフォークの際のプログラミングのエラー等により暗号資産が失われたという事例もあり、暗号通貨の取引量の 1.1%が違法取引であるとも言われています。

 

それでも、暗号資産が高リスクの性質を有することや、暗号資産に関連する悪用の事例は、暗号資産の資産としての認識の妨げとはならないと考えられます。

 

4.経済的支配の本質

概念フレームワークの資産の定義が言及しているのは、経済的便益を実現する潜在力であり、価値の安定性や経済的便益の実現の合理的な確実性ではありません。

仮に、暗号資産の保有が高リスクの賭けをすることと同様と解釈できるとしても、そもそも定義上、資産が無価値となる可能性が一定程度存在することが資産性の妨げるものではありませんし、貧弱な統制、不適切な監督及び盗まれる可能性、マネーロンダリングのような不審な取引に使用されたりする可能性の高さも、資産の定義に関する要件の一部ではないからです。

 

また、不正取引への使用のイメージのある暗号資産ですが、法定通貨の紙幣よりも追跡しやすくなる可能性があることや、マネーロンダリング全体の中での暗号資産ロンダリングの比率は、マネーロンダリング全体の 3~4%にすぎない事などを勘案しても、暗号資産は資産性を有すると考えるのが妥当と思わます。

 

なお、同様の観点から、法的な暗号資産の資産性を論じたローテック・パネル意見書においても、暗号資産は財産の指標となる次のような属性を有しているので、財産としての要件を満たすべきであると結論を下しています。

 

a) 定義可能性又は識別可能性

 

b) 排他性及び支配: 複数署名の個人キーと仲介保有者の状況を別にすると、個人キーの保有者は暗号資産に対する排他的な支配を有していること

c) 譲渡可能性: 暗号資産は第三者が引き受けることができること

 

d) 確定性又は永続性: 暗号資産は金融資産と同じくらいに永続的であるように見えること。金融資産は、例えば、解約、償還、返済又は行使が行われる時点までしか存在しない場合がある。