下請法の禁止行為について②
前回のコラムに引き続き、下請法の禁止行為について解説をしていきたいと思います。
1.受領拒否の禁止(4条1項1号)の趣旨について
下請法4条1項1号には以下のように、下請業者に瑕疵や過失がないのに親事業者が正当な理由なく下請業者からの納品物や役務提供を拒んではならないと規定されています。
第4条第1項第1号
親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第1号及び第4号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。
(1)下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと。
この第4条第1項第1号の趣旨としては、顧客から受領拒否をされれば下請業者としてはあてにしていたキャッシュも入らず、作成した物品が不良在庫として滞留しかねないというものですが、特に以下のようなケースが歴史上多くあったことがその理由になっています。
製造業などでよくあるケースですが、サプライチェーン全体としての役割分担として、大手メーカーの親事業者が中小企業である下請事業者に対して、ある特定製品にしか使用できない特殊部品の委託しているようなケースがあります。
このような場合、親事業者は他社の模倣戦略を防ぐ目的から、他社の製品には流用できなような自社の指定する仕様に基づくユニークな特殊部品を納品させていることがよくあります。
しかしこれは、下請業者からすると万が一親事業者に受領を拒否された場合は他社への転売が困難となってしまうため、 まさに不良在庫が積み上がり特殊部品製造のために費やしたコストの支払いだけが債務として残るという極めて厳しい状況に置かれることになります。
こうした状況下では、下請事業者の資金繰りは一気に悪化し倒産も見えてくるような状況となるため下請業者の正当な利益保護の観点から第4条第1項が定められています。
2.受領拒否の定義について
下請法第4条第1項第1号において『受領を拒む』(以下、『受領拒否』とする)という文言がありますが、これについても明確に定義が決まっています。
具体的には、『受領拒否』とは、「下請事業者の給付の全部又は一部を納期に受け取らないこと」と定義され、次のような行為を行った場合も『受領拒否』となって下請法違反となります。
①発注を取り消すこと(契約の解除)により、下請事業者の給付の全部又は一部を発注時に定められた納期に受け取らないこと
このようなケースでは、外形上は『契約解除』という手続を取ることにより一見適法であるかのように見えてしまいますが、実質的には納品物の受領を拒否しているのと同じであり、下請法の潜脱行為となるため『受領拒否』の類型に含まれます。
逆に親事業者側から言えば、親事業者の都合で一度発注したものを簡単に取り下げることはできないので、『いくつ必要か分からないからとりあえず大量に発注しておこう』といった動きは非常にリスクが高いということは覚えておきましょう。
②納期を延期することにより、下請事業者の給付の全部又は一部を発注時に定められた納期に受け取らないこと
このようなケースも①と同様で、外形上は『納期の延期』という契約変更に見えますが、延期をし続けることで事実上受け取りを拒否できるので、実質的な『受領拒否』の類型に含まれています。
①と同様に、独禁法の潜脱行為としてこうした事象が実務上散見されたことから、『受領拒否』の一類型として定義されることとなりました。
延期については、下請法の知識がそもそも無いと知らず知らずやってしまうようなケースもあると思われますので重々注意してください。
3.下請事業者の責に帰すべき理由
このように下請法は、親事業者に厳しい義務が課されている訳ですが、無条件にこれが適用されてしまうと、逆に下請事業者の立場を悪用した事業者が指定された成果物を納品していないにもかかわらず下請法をたてに代金だけは請求し、親事業者がそれを拒否できないというような不合理が生じかねません。
下請法においても、無条件に下請事業者が保護されると考えている訳ではなく、「下請事業者の責に帰すべき理由」がある場合には、下請事業者の給付の受領を拒むことができるとされています。
とはいえ、親事業者がこの『責に帰すべき理由』を悪用する場合も当然考えられますから、「下請事業者の責に帰すべき理由」を適用できるのは次の2つの場合に限っています。
①下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なる場合又は下請事業者の給付に瑕疵等がある場合
後に説明しますが、3条書面により親事業者は下請事業者に対し委託したい内容を定め、発注を行います。
例えば、3条書面で明記したうえで契約も締結し親事業者が5mmのネジを発注したにもかかわらず、8mmのネジが納品されたといった場合には明らかに下請事業者側に瑕疵がありますし、親事業者としてもこれに対価を支払わされては親事業者側の利益を著しく害することになるので、こうしたケースでは明確に「下請事業者の責に帰すべき理由」として『受領拒否』ができます。
②下請事業者の給付が、3条書面に明記された納期までに行われなかったため、そのものが不要になった場合
例えば、花火大会用に花火を発注した場合に、花火大会後に納品されても当初の目的を果たすことができません。
3条書面では納期を設定するので、その納期が守られないことにより物品そのものが不要となった場合は、親事業者としても過失なく損害だけを負わされる結果となって、親事業者が一方的に不利益を被る不合理な結果となるのでこうした場合も「下請事業者の責に帰すべき理由」として『受領拒否』ができます。
どちらのケースにおいても3条書面による記載が前提となりますので、3条書面を交わさず上記のような主張を親事業者がしても認められないことがほとんどであると思われますので注意しましょう。
4.違反事例について
最後に具体的な違反事例について見ていきましょう。
どちらも親事業者が下請法違反とされた事例です。
①製造委託、修理委託における違反行為事例
親事業者A社は下請事業者に計測器等の部品の製造を委託していました。
発注された下請事業者Bは受注部品を完成させましたが、親事業者A社は、下請事業者Bが既に受注部品を完成させているにもかかわらず、自社の生産計画を変更したという理由で下請事業者に納期の延期を一方的に通知し、当初の納期に受領しませんでした。
典型的な『延期』の場合の受領拒否のパターンで、こうした行為は下請法違反となりペナルティが課されることになるので絶対に行ってはなりません。
②情報成果物作成委託における違反行為事例
親事業者C社は下請事業者Dに対して設計図面の作成を委託していました。
ところが、自社製品の製造計画が変更になったとして、親事業者C社は下請事業者Dの作成した設計図面を受領しませんでした。
これも同様に受領拒否の典型的な事例で、情報成果物作成委託であっても同様に受領拒否のルールが厳格に適用されますので注意しましょう。
次回のコラムでも引き続き、禁止行為の具体例を見ていきたいと思います。
※今回のコラムでは一部法律問題を扱っておりますが、一般論も含め正確な記載をこころがけているものの、執筆当時の状況でもあり、また必ずしも公正取引委員会等の公式見解でもない点についてはご留意ください。
また、下請法全般について網羅的に記載している訳ではありませんので、ここに記載がないからといって適法性が保証される訳でもありません。
実際の実務において当コラムの内容を適用する際には、事前に必ず公正取引委員会や顧問弁護士等に問合せを行い、十分な検討を社内で行っていただくようお願い申し上げます。