暗号資産の貸借取引の会計処理

暗号資産取引を行う場合に、他社から暗号資産を借り入れて売買を行うことがあります。こうした暗号資産の貸借取引の場合にどのような会計処理を行うべきでしょうか。

 

今回は、暗号資産の貸借取引についてまとめてみました。

 

1.有価証券の消費貸借契約取引

暗号資産の貸借取引について理解するうえで参考になるのが、有価証券の貸借取引です。(貸借契約には、有価証券自体を自由に売却・処分できる消費貸借契約と、貸し手の占有権のみが失われる使用貸借契約がありますが、一般的と思われる消費貸借契約の方を今回のコラムでは前提とします。)

 

有価証券の貸借取引により、借り手側は元手となる資金が無くても有価証券の売却により利ざやを稼ぐことができたり、有価証券を担保とすることによって新たに借入などの資金調達を行う事ができたりします。

 

では、実際にどのような仕訳が行われるかみてみましょう。

 

【例 題】

次の取引について仕訳を示しなさい。会計期間は、A社及びB社とも 3 月31日を決算日とする 1 年で
ある。なお、時価評価に関しては切放方式で処理するものとする。また、説明の便宜上、有価証券の貸
借期間を長期に設定している。

① ×5年 3 月 1 日、A社はB社に、売買目的で保有している有価証券(帳簿価額:2,000千円、時価:
2,100千円)を貸し付けた。
② ×5年 3 月31日、当該有価証券の時価は1,900千円であった。
③ ×5年 5 月 1 日、B社は当該有価証券を2,200千円で売却した。
④ ×6年3月31日、当該有価証券の時価は1,950千円であった。
⑤ ×6年 5 月 1 日、B社はA社から借り入れた有価証券を返還するするために、同一銘柄の有価証券を
1,800千円で購入した。
⑥ ×6年 5 月31日、B社はA社から借り入れた有価証券を返還した。

〔解答〕(単位:千円)

A社(貸手の仕訳)

仕訳なし


(借) 有価証券運用損益 100 (貸) 売買目的有価証券 100


仕訳なし


(借) 売買目的有価証券 50 (貸) 有価証券運用損益 50


仕訳なし


仕訳なし

 

所有権はあくまで貸し手にあるため、実質的に株式の移転はないと考え、貸し手側では時価評価差額のみを認識します。

B社(借手の仕訳)

仕訳なし


仕訳なし


(借) 保管有価証券 2,200 (貸) 売却借入有価証券 2,200

(借) 現 金 預 金 2,200 (貸) 保管有価証券 2,200


(借) 売却借入有価証券 250 (貸) 有価証券運用損益 250


(借) 売買目的有価証券 1,800 (貸) 現 金 預 金 1,800


(借) 売却借入有価証券 1,950 (貸) 売買目的有価証券 1,800
(貸)有価証券運用損益 150

 

一方で借り手側は、有価証券を売却したタイミングで、貸株返済義務を売却借入有価証券という科目で認識し、その後は売却借入有価証券を時価評価します。

 

また、返済用の株式を購入した際にこれを売買目的有価証券として認識し(⑤)、借り入れた有価証券を返済した時点で売却有価証券と売買目的有価証券を相殺して差額を有価証券運用損益として認識します。

 

2. 暗号資産の貸借取引に係る経理処理

次に、暗号資産の貸借取引がどのように行われるかについて見ていきます。

 

(1) 利用者との契約日の処理
貸付暗号資産・借入暗号資産に係る経理処理は行いません。契約締結のみでは、どのような資産および負債も発生しないためです。

 

(2) 暗号資産の貸借日の処理

① 利用者に暗号資産を貸し付けたとき
消費貸借契約により貸し付けた暗号資産と同量を、その時点の時価により「貸付暗号資産」として計上します。有価証券と異なり、仕訳上は自己保有暗号資産が清算されたと考え、相手勘定となる自己保有暗号資産を減額します。

 

貸 付 暗 号 資 産 ✕✕✕ 自 己 保 有 暗 号 資 産 ✕✕✕

 

(注)自己保有暗号資産の簿価と時価が異なり取引損益が発生する場合は、その差額を「暗号資産売買等損益」に計上します。

 

② 利用者から暗号資産を借り入れたとき
消費貸借契約により借り入れた暗号資産は分別管理の対象ではないため、その時点の時価により「自己保有暗号資産」として計上します。

なお、借り入れた暗号資産には返済義務があるため、借入暗号資産勘定を用いて両建てで負債計上することに注意しましょう。

自 己 保 有 暗 号 資 産 ✕✕✕ 借 入 暗 号 資 産 ✕✕✕

 

(3) 返済日の処理

① 利用者から貸付暗号資産を回収したとき

回収した暗号資産は、その時点の時価により「自己保有暗号資産」として計上します。仕訳上は、貸付暗号資産を清算し、新たに暗号資産を取得したと考えるとよいです。

自 己 保 有 暗 号 資 産 ✕✕✕ 貸 付 暗 号 資 産 ✕✕✕

 

(注)取引損益が発生する場合は「暗号資産売買等損益」に計上します。

 

② 利用者へ借入暗号資産を返済したとき

借り入れた際の逆仕訳を行い、評価差額に相当する部分は「暗号資産売買等損益」に計上します。

 

借 入 暗 号 資 産 ✕✕✕ 自 己 保 有 暗 号 資 産 ✕✕✕

暗号資産売買損益✕✕✕

 

(4) 毎月末及び期末の処理

毎月末及び期末の貸付暗号資産・借入暗号資産には決算時の暗号資産市場相場による円換算額を付し、洗替えの方法により評価替えを行います。このとき発生した評価損益は、「暗号資産売買等損益」に計上します。

 

処理としては、有価証券を保有する場合と同様になります。

 

ただし、関係会社との貸付暗号資産・借入暗号資産の評価替えで発生した評価損益については区分して営業外損益に計上することに留意してください。(関係会社との取引は、性質が異なるため。)

 

なお、利息については、原則として、日割り計算により期間損益を計算します。