暗号資産交換業者が顧客から預かった暗号資産の期末評価方法について
暗号資産が普及し、一般事業会社が事業ポートフォリオの一角として暗号資産交換業を営むケースが増えてきました。
しかし、暗号資産交換業者が顧客から預かった暗号資産は暗号資産交換業者に帰属するものではなく、分別管理もされるため、自社保有の暗号資産と同様に会計処理すべきか自明ではありません。
今回は、暗号資座交換業者が顧客から暗号資産を預かった場合に、当該暗号資産の期末評価はどのようにすべきかについて解説していきたいと思います。
1. 会計上の取扱いについて
顧客から暗号資産を預かるケースとしては次のようなものが考えられます。
① 顧客から委任を受け交換所で売却することを目的に預かる場合
② 顧客が当社を通じて交換所、販売所で購入した後に預かる場合
③ 顧客から仮想通貨の信用取引、デリバティブ取引の保証金等として預かる場合
①及び②については、暗号資産交換業者としての通常業務の一環として行われていることであるため詳細な解説はしませんが、③については若干の説明が必要かもしれません。
たとえばデリバティブ取引は、差金決済によって行われ想定元本自体は取引されません。そのためレバレッジ率が高率になると支払を滞るリスクが高まるため、金融機関から担保として証拠金を要求されます。
また信用取引は、証券会社から株式等を借りて行う取引であるため、担保となる現金や株式が証拠金として要求されます。
ただいずれにしても、暗号資産交換業者が顧客から預かった暗号資産は、貸借対照表に計上されている資産額と負債額を期末時点の時価によって、評価替えをすることになります。
これは、以下のような理由によります。
顧客から預かった暗号資産については、暗号キー等の保管を通して暗号資産交換業者が管理、処分する権利を有しています。
その意味では、自己の保有する暗号資産と違いがないとも言えます。
帰属主体は異なりますが、それらの違いは勘定科目によって(具体的には『預託暗号資産』勘定などの使用によって)会計上は区別されます。
一方で、資産価値の測定という意味ではそうした帰属主体の違いを考慮するのは合理的ではありません。(誰が保有していようと価値は変わらない。)
したがって、自己保有の暗号資産と同様の会計処理をすべきという結論になります。
そのため、期末の評価方法についても基本的に、自己の固有の暗号資産の取扱いと同様になります。
2.暗号資産会計基準と具体的な仕訳例
暗号資産交換業者が、顧客から預かった暗号資産に係る期末の資産の評価及び負債の貸借対照表価額の会計処理について暗号資産会計基準では、下記のように規定されています。
『暗号資産交換業者は、預託者から預かった暗号資産に係る資産の期末の販簿価額について、暗号資産交換業者が保有する同一種類の暗号資産から簿価分離した上で、活発な市場が存在する暗号資産と活発な市場が存在しない暗号資産の分類に応じて、暗号資産交換業者の保有する暗号資産と同様の方法により評価を行う。
また、暗号資産交換業者は、預託者への返還義務として計上した負債の期末の貸借対照表価額を、対応する預かった暗号資産に係る資産の期末の貸借対照表価額と同額とし、預託者から預かった暗号資産に係る資産及び負債の期末評価からは損益を計上しない。』(仮通会計基準15項)
暗号資産交換業者が預託者から預かった暗号資産の期末評価額については、暗号資産交換業者が自己で保有する暗号資産同様に時価で評価することになりますが、資産、負債に同額を計上しているため、評価替えによる損益は計上されない点に注意が必要です。
この点は、仕訳例を見た方が理解が進むと思いますので、下記に仕訳例を挙げてみました。
【仕訳】
暗号資産交換業者が顧客から預託を受けたビットコインの帳簿価額6,000,000円について期末で時価評価をした結果、5,000,000円になった。
(借)預 り 金 1,000,000 (貸)預託暗号資産 1,000,000
暗号資産交換業者である当社にとっては会計上、顧客が保有する暗号資産(預託暗号資産)が1,000,000円減価する反面、預り金という負債も1,000,000円減少したことになります。
資産の増加分はすべて預り金(負債の)減少によって相殺されるため、評価損益等は生じません。
3.法人税の取扱い
令和元年(2019年)度の法人税法の改正によって、資金決済法に定義する暗号資産は、短期売買商品等(金、プラチナなど短期的な価格の変動を利用して利益を得る目的で取得した資産)に含まれることになりました。
また、その中でも活発な市場が存在するものについては、期末における時価により評価した金額をもって評価額とすることになりました(法法61③)。
上記の法人税法の規定により、暗号資産交換業者が預託者から預かっている暗号資産は、上記の表の活発な市場が存在する自己以外の者の計算において有する暗号資産に区分されるため、時価評価されることになります。
一方でこれらは、申告企業の所得ではないため評価益は課税所得の計算上、益金、損金には算入しません。
結果として、会計上の資産、負債に同額を計上する会計上の処理と同様の考え方となり、法人税の課税所得に影響はしないことになります。
4.消費税法上の取扱い
暗号資産交換業者が預託者から預かっている暗号資産の期末帳簿価額の評価替え処理は、資産、負債を同額で増加もしくは減少させる取引となり、消費税の課税対象外取引になります。
したがって、消費税法上の課税関係は生じません。