上場準備企業はどのような機関設計をすればよいのか②
前回に引き続き、上場準備企業の機関設計について解説をしていきたいと思います。
恐らく上場準備会社の多くは、株式譲渡制限会社でありかつ非大会社である企業であると推測されます。
あくまで上場時点で公開会社になっていればよいので、上場準備に入ったらすぐに公開会社にならなければならないという訳ではありません。
しかし、各時期ごとに適切なステップを踏んで機関を徐々に変更していく必要はありますから、今回はどの時期にどういった機関設計をすべきかについて具体的に説明していきたいと思います。
1.直前々期に行うべ機関設計
直前々期の特徴としては、上場審査対象年度に入り、コーポレートガバナンスの状況の審査が開始されるという点です。
コーポレートガバナンスの状況の審査では、取締役会を開催して重要議案を定期的に審議しているかどうかが審査されることから、この時点で最低でも取締役会の設置が必要となります。
また、上場申請にあたり、取締役会及び監査役会の運用期間は最低でも1年以上あることが望ましいと言われますから、その意味でもできるだけ早い段階で運用を開始すべきと思います。
取締役会を組成するには取締役が3名以上必要ですから、2名以上の相応の経験や能力のある人材を確保しなければなりません。
また、会社法上は3か月に1回以上の取締役会の開催で足りますが、上場審査上、取締役会については、コーポレートガバナンスや月次決算の確定等の観点から毎月1回以上、定期的に開催されることが求められます。
これは、定例の取締役会を開催することにより、月次の事業の状況や業績をタイムリーに報告できるだけでなく、取締役会決議事項が発生した場合に迅速な意思決定を行うことができるようになるためです。
実務的には定例の月次の取締役会が毎月10営業日前後に開催できる体制であることが求められますから、決算早期化についての取組も、この時期から継続的に行っていくことになります。
もう一つ行わなければならないこととして、監査役の登用があります。
取締役の職務執行を監査する機関として、監査役の設置が必要となるからです。
取締役会は会社の業務執行の決定機関ですが、一方で株主に対する利益相反行為を行う恐れもあることから、取締役会及び取締役の業務執行に対する監視が必要であり、これを担うのが監査役です。
監査役は取締役会に出席することに加え、監査の方針も含めた監査計画を作成し、監査計画に沿って実質的な監査を行う必要があります。
また、上場審査上、上場申請前の一定期間について、複数の監査役による監査役監査の実績が求められます。
上場準備企業の場合、特に下記のような領域において、上場審査に耐えうるレベルの内部管理体制が整っているかなどについて、監査を行います。
・財務諸表監査
・内部統制報告制度対応
・有価証券報告書等の金商法上の開示制度(いわゆるIR)に関する体制に関する監査
・社内のコンプライアンス体制の構築と運用に関する監査
これらの業務は上場審査を通じて継続的に見られるものですから、会社は、直前々期の時点で監査役の適任者に就任要請の上、登用する必要があります。
特に上場準備企業の監査役は誰でもなれる訳ではなく、会社法をはじめとする法律的な知識や会計、ビジネス、業界への知見、そして、上場準備作業や資本市場の理解などを有する人材でなければなりません。
もちろん、全ての面で完全な人材をと要することは難しいと考えられますので、複数の監査役が、一人は会計の専門家である公認会計士、もう一人は企業法務の専門家といった形で分担するのが望ましいと思います。
さらに、株式上場にあたり、各証券取引所は1名以上の独立役員(一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役又は社外監査役)を確保することを求めていることにも留意する必要があります。
監査役を採用する場合は、少なくとも一人は社外要件を満たす人材が必要です。
なお社外要件は、下記のようなものとなります。
A) その就任の前10年間当該株式会社またはその子会社の取締役、会計参与、もしくは執行役または支配人その他の使用人であったことがないこと
B) その就任の前10年以内のいずれかの時において、当該株式会社またはその子会社の監査役であったことがある者にあっては、当該監査役への就任の前10年間当該株式会社またはその子会社の取締役、会計参与もしくは執行役または支配人その他の使用人であったことがないこと
C) 当該株式会社の親会社等または親会社等の取締役、監査役もしくは執行役もしくは支配人その他の使用人でないこと
D) 当該株式会社の兄弟会社及びその子会社の業務執行取締役等でないこと
E) 当該株式会社の取締役もしくは執行役もしくは支配人その他の重要な使用人または親会社等の配偶者または2親等内の親族ではないこと
しかし上記のような人材は一般的に外部から探して登用するということが難しいことが多いので、どうしても見つからない場合には、社外要件を満たさない人材で直前々期はしのいで、翌年度の上場直前期までに見つけるというやり方もあります。