上場企業における機関設計の留意点について①

上場企業においては、数々の期間設計が考えられます。

今回のコラムでは、上場企業の機関設計全般について解説していきたいと思います。

1.株主総会

会社の最高意思決定機関であり、会社法上いかなる会社においても設置が義務付けられる必要不可欠な期間です。

上場後には多くの一般株主が議決権の行使をできる環境の整備が求められますので、その適切かつ円滑な運営のため、会社としてナレッジとノウハウを蓄積しておく必要があります。


上場準備会社が株主総会を運営するに当たっては様々な変化が要求されることが多いです。

下記は、特に上場準備の初期に上場準備会社が対応を求められることが多いものを列挙しています。

⑴株主総会の実施

上場を考えていない非上場の会社では、株主総会は書面決議でしか行っていなかったような会社も多いと思います。

昨今は電子メールやZoomをはじめ、遠隔地のコミュニケーションも大変ハードルが低くなりましたから、実際の形式ばった株主総会の開催は非上場企業においては必要性が感じられないのも無理はありません。

しかし、上場に向けてはこうした書面決議の多用は避けるのが無難です。

上場後は、当然に株主総会を開催し、投資家に対する質疑応答や決議の機会を与えることが必須となりますから、その適法かつ円滑な開催ができるのかは当然に上場準備会社に対する審査要件にもなります。


⑵議事録の整備(日付、体裁などは特に注意)

上場準備にとりかかった段階の企業では、きちんと株主総会議事録(やそれに伴う取締役会議事録)が保管されていなかったり、作成自体されていなかったりするケースも多いと思われます。

しかしながら、(これは株主総会議事録に限りませんが)上場企業においては、重要な決定や会議は必ず書面で記録を残すのが基本です。

これらができていないと上場審査で大きなマイナスポイントになるだけでなく、そもそも全社的内部統制の重要な不備になり得ます。

日付や体裁面など細部にも気を配り、どういった形式で作成すべきか等、調査したうえで、株主総会の開催ごとに確実に議事録が作成できるよう内部統制のフローに組み込むことが必要です。


⑶登記事項の確認

商業登記の制度は、債権者など会社のステークホルダーと会社の間の情報の非対称性を解消することを目的に行われる情報公示の制度です。

一方で、非上場会社では、登記が細心の状況を反映していなかったり、中には誤った情報が登記されているケースもあるようです。

上場会社として登記事項が漏れたり、誤りがあることは問題外ですので、漏れなく、適時に登記される体制をすぐにでも整える必要があります。

⑷委任状の徴収

株主総会には全ての株主が出席できるわけではなく、また定足数や決議要件を満たしていれば株主総会の決議は有効になりますが、一方で出席できない株主にも当然議決権行使の機会を与えなければなりません。

委任状は、これを充足する手段であり、これらを出席できない株主に配布した上で、議決権を行使したい株主からは確実に回収する必要があります。

この⑴~⑷はあくまで一般論であって、上記を満たさない場合に即上場が不可能となるわけではありませんが、これらが充足されない事は内部統制上の不備にもつながり得るので、上場準備会社においてもし株主総会開催にあたり上記を行えていないようであれば、早急に対応する必要があると思われます。

2.取締役会

取締役及び監査役により構成される意思決定機関が取締役会です。

取締役会は、株主より経営を委任された立場である取締役を構成メンバーとする合議制の意思決定機関です。

上場会社及び上場準備会社では原則月1回以上の開催が必要となり、経営計画の進捗、開示予算と実績の差異分析等を踏まえて経営の主たる意思決定が行われます。

取締役会の開催に当たっても以下のような点に注意する必要があります。

⑴(原則)毎月10営業日前後の開催

上場企業はタイムリーに業績の進捗管理を行うことが求められますから、原則として毎月10営業日前後の取締役会の開催が求められます。

この要件は、多くの上場準備会社にとっての鬼門で、当然にその前に月次決算を締め、差異分析を含めた月次報告を行う必要がありますから、ほとんどの企業において大幅な決算早期化が必要となります。

経理業務の人員増強やシステムの導入等、かなり多額の先行投資が必要な場合が多いので、それも含めて上場可能な利益を獲得できるような事業計画も必要となります。


⑵議事録の整備

株主総会同様、議事録を正しく整備することが必要です。議論の状況を残すことが重要ですが、必ずしも議論の状況は直接議事録に残す必要はありません。

⑶原則として事後決議は行わないこと

非上場の時代は、代表取締役の決定を事後決議によって追認するような取締役会も多くあったかもしれませんが、上場後は業務執行を行う取締役、特に創業者を兼ねた代表取締役へのけん制として取締役会が存在意義がありますので、事後決議は特殊なケースを除いて認められません。

⑷形骸化しない取締役会運営

特に下記のような点に注意し、取締役会が形骸化しないように運営することが必要です。


・職務権限にしたがい、漏れなく意思決定がなされていること。名ばかりの取締役を設置し、実質的に代表取締役が全てを決定しているというようなあり方は上場企業では許容されません。


・原則として全役員が出席すること。出席しなければ適切な管理監督が行えないと思われますので、原則として取締役会は全員の出席が必要で、開催日ははじめから全員が出席可能な日程とするべきです。

・必要に応じて臨時取締役会を開催し、取締役会の有効性とスピーディーな意思決定を行う事が重要です。増資などを行う場合、当然に取締役会の決議が必要ですが、定時の取締役会では期日に間に合わないといったケースも多いので


・書面決議を多用しないこと。これは株主総会と同様の趣旨です。

・常勤の取締役が3名以上選任されていることが望ましいです。取締役会は業務執行の監督機関ですので、非常勤では十分な監督が難しいと思われるからです。

また、3名である理由は、取締役会の最低構成人数が3名ですので、これとの兼ね合いでこのように記載しています。

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