暗号資産交換業者の広告・勧誘規制等②
前回に引き続き、広告・勧誘規制について解説していきたいと思います。
前回も見たように、暗号資産交換業者による過剰な表現を用いた広告・勧誘などにより、投機的取引が助長されると、リスク認識が不十分な顧客に対してもボラティリティの高い暗号資産取引を行わせることになることから、様々な規制が資金決済法を中心にも設けられています。
今回は特に、勧誘規制について解説していきたいと思います。
1.利用者の適切性
取引勧誘に当たっては、利用者の知識、経験、財産の状況、年齢、取引目的やリスク管理判断能力等に応じた取引内容や取引条件を考慮した上で、その利用者の属性に即した適正な勧誘に努めるようにしなければなりません。
また、単に心がけるだけでなく、利用者の属性等及び取引実態を的確に把握し得る利用者管理態勢を構築することが重要です。
具体的には、下記のような施策が有効です。
⑴利用者の取引目的や取引経験等の利用者属性を反映した利用者情報の適切な記録と保存。
⑵利用者属性が変化した場合の随時の更新。
⑶内部管理部門における利用者属性の把握状況及び利用者情報の管理状況の適切な検証。
⑷利用者情報の管理方法の見直しを行う等の実効性を確保するための体制構築。
⑸利用者口座ごとの売買損、評価損、取引回数、手数料等の取引状況を、利用者の取引実態の把握の参考とできる体制構築。
2.不適切な勧誘の禁止
強引な勧誘等により、リスクを十分に認識できない利用者が暗号資産投資によって過度なリスクを負うことがないよう、勧誘行為自体にも禁止行為が定められています。
たとえば、訪問または電話による暗号資産交換契約締結を勧誘する行為は、それを行う前に必ず、勧誘を行ってよいかどうかを利用者に尋ねる必要があります。
勧誘行為についても、暗号資産交換業者は下記のような施策を行う事が重要となります。
⑴勧誘に当たり、当該利用者情報を利用する等の方法で、過去の取引実態等に則した適正な勧誘に努めるよう役職員も含め徹底する。
⑵利用者情報の管理について、守秘義務等の観点から十分に検討を行った上で具体的な取扱方法を定め、役職員にも周知徹底すること。
⑶勧誘の実態等並びに利用者情報の管理の状況を把握するように努め、必要に応じて、適切な勧誘が行われてい
るか等についての検証を行うこと。
⑷営業職員による適正な勧誘を確保するために必要な業務上の指導及び教育を行うこと。
⑸営業職員による適正な勧誘を確保する態勢を構築すること。
⑹経営者、役職員による不公正な行為を防止するために、職業倫理の強化、関係法令や社内規則の周知徹底等、法令遵守意識の強化に向けた取り組みを行うこと。
3.禁止行為
強引な勧誘だけでなく、勧誘時の説明に利用者を誤認させるようなものがあってはなりません。
『暗号資産の性質等についてその相手方を誤認させるような表示』として、例示がなされており、以下のような行為は禁止行為となりますので決して行う事のないよう防止のための内部統制構築が必要です。
⑴ 暗号資産の価格変動を理由に損失が発生するおそれがあるにも関わらず、これを誤認させるような表示
⑵ 暗号資産の仕組み上、一定の期間、移転が制限されるにもかかわらず、これを誤認させるような表示
⑶ 暗号資産の発行者の財務状況や発行者の行う事業の進捗状況等に関して、利用者を誤認させるような表示
本来暗号資産は支払手段なのですが、実態としてはそれ自体が投機性の商品として売買されています。
しかしながら、本来の暗号資産の性質を超えて、専ら利益を図る目的で暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換を行うことを助長するような表示は禁止されています。
具体的には、次のようなものとなります。
⑴暗号資産の価格の推移の実績及び将来予測を特に強調することにより、明示的にあるいは暗にその取引による利益獲得を示唆するような表示
⑵暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換等によって利益を得た者を紹介する等して、支払手段としてではなく射倖性を煽ることによりその取引を推奨する表示
その他、裏付けとなる合理的な根拠のない表示など、利用者保護の観点から望ましくない表示として、下記のようなものが例示されています。
⑴偏った分析結果を利用して、暗号資産の価格の推移を予測する行為
⑵暗号資産交換業者が取り扱う暗号資産であることを理由に、当該暗号資産が安全かつリスクが低い旨の表示を行う行為
⑶暗号資産交換業の登録を受けた者であることを理由に、財務状況等が健全である旨の表示を行う行為
⑷不特定かつ多数の利用者に対し、特定かつ少数の種類の暗号資産の交換等を一定期間継続して一斉にかつ過度に推奨する勧誘行為で、当該暗号資産の価格の形成を損なうおそれがある行為
⑸利用者に対して、現に保有する暗号資産並びにカバー取引及び借入契約の締結その他の当該暗号資産の受渡しを確実にする措置が講じられている暗号資産の合計量を超えて、当該暗号資産の売却又は他の暗号資産と交換する行為
⑹利用者等に対して特別の利益を提供又は保証する行為
⑺取引の勧誘及び受注に際して、偽計を用い、又は暴行若しくは脅迫を行う行為
⑻公序良俗に照らして、不適切な場所等及び時間を利用して広告する行為
⑼あらかじめ利用者の同意を得ずに、利用者の計算により取引を行う行為
4.社会通念上妥当な便益の供与
利用者に対し、手数料等の軽減、景品類の提供、キャッシュバック等を行うことで暗号資産取引を促す営業手法が考えられます。
これらの行為が直ちに禁止される訳ではありませんが、
①条件が一定の基準に基づき設定され不当ではないこと
②同様の取引条件にある利用者に対して同様の取扱いをすること
③過大なものではないこと
など、社会通念上妥当と認められる範囲内にとどまるよう留意する必要があります。