暗号資産の証拠金取引で売却益がある場合

株式市場が発達した現代においては、証拠金取引(デリバティブ取引)がより一般的になり、給与所得に生計を立てる個人であってもこれらを利用したトレードを行う事が珍しくなくなりました。

他の金融商品と同様、暗号資産についても証拠金取引(デリバティブ)取引は行われており、その課税関係が問題となります。

たとえば個人が暗号資産の暗号資産へ投資しており、取引所を通じた暗号資産の現物取引の他に暗号資産の証拠金取引もしているとします。この場合に、暗号資産の証拠金取引において売却益が出たとして、税務上の取扱いはどうなるのでしょうか。

今回は、暗号資産の証拠金取引の課税関係について解説をしていきたいと思います。

1.暗号資産の証拠金取引について

証拠金取引とは、取引業者へ一定の金額を差し入れることによってレバレッジを効かせ、より大きな取引を行う投資方法です。

証拠金取引には、金や穀物などの商品先物取引や外国為替証拠金取引(FX取引)などがありますが、暗号資産を投資対象とした同様の取引を暗号資産 FX取引といい、国内でも数社の暗号資産交換業者が取り扱っています。


具体的には、通常、次のような取引の流れになります。

  1. 証拠金となる法定通貨または暗号資産を暗号資産取引所へ預け入れます。
  2. レバレッジ(倍率)を設定して、暗号資産取引所から証拠金に応じて暗号資産が取引できる権利を受けます。
  3. 証拠金に応じたレバレッジの範囲で取引を行いますが、暗号資産の現物を売買するのではなく、買いの権利と売りの権利を取引し、その差額を決済します。
  4. 2018年10月より、日本暗号資産交換業協会(JVCEA)が金融庁より認定資金決済事業者協会(自主規制団体)に認定され、自主規制を施行していますが、証拠金取引に関する規定を策定し、暗号資産の証拠金取引における証拠金倍率の上限を4倍に制限する規制を実施しています。

2.所得税の取扱い

暗号資産の取引による所得については、以前のコラムでも解説したように総合課税の雑所得に区分されています。

暗号資産の証拠金取引についても、特別な取扱いはなく、同様に総合課税の雑所得として課税されます。

この趣旨としては、証拠金を使ってレバレッジをかけていたとしても、担税力という意味でも所得の実態という意味でも通常の取引と何ら変わるところはないため、別の規制に基づくことはかえって税の公平負担を阻害すると考えられるからです。


一方で、証拠金取引のうち、外国為替証拠金取引や租税特別措置法第41条の14で限定列挙されている一定の先物取引(商品先物取引等、金融商品先物取引等)については、所得税法において他の所得とは区分して、申告分離課税によって計算されます。

実は、暗号資産の証拠金取引は、この租税特別措置法第41条の14で限定列挙されている一定の先物取引には該当しません。

したがって、申告分離課税の対象とはならず、総合課税の雑所得に区分されることになります。

次に所得を認識する時点についてですが、これは外国為替証拠金取引(FX 取引)の場合と同様、売り、買いの取引について反対取引が行われ、差額決済金額が確定した時点となります。

売り取引もしくは買い取引のみが行われた状態(いわゆる建玉の状態)で年末を迎えた場合は、損益が未確定のため、所得は認識しません。(会計と異なり、課税所得は担税力の観点から原則として実現利益に対してでなければならない。)


また、差金決済により損失が発生した場合には、他の所得との損益通算はできませんが、総合課税の他の雑所得 (公的年金等の雑所得等)があるときには、原則通り暗号資産の証拠金取引による損失と相殺されます。


なお、相殺後に損失が残った場合は、外国為替証拠金取引(FX取引)と異なり、損失の繰越しはできない点には注意が必要です。

3.消費税の取扱い

信用取引の場合においても、資金決済法に定義される暗号資産の売買は消費税の非課税取引となります。

4.金融商品取引法の改正とその影響


2019年5月に金融商品取引法が改正され、2020年に施行されました。

これ以降、金融商品の定義に暗号資産が含まれることになったため、暗号資産デリバティブ取引(証拠金取引)が金融商品取引法に規定する市場デリバティブ取引及び店頭デリバティブ取引に該当することになりました。


この改正により、暗号資産デリバティブ取引(証拠金取引)についても金融商品取引法に基づく取引規制(販売・勧誘等規制)が課されることになりました。


暗号資産デリバティブ取引(証拠金取引)が金融商品取引法に規定する市場デリバティブ取引及び店頭デリバティブ取引に該当することになったことにより、現行の金融税制との関係から、暗号資産デリバティブ取引(証拠金取引)についても、申告分離課税を適用していくかなど、暗号資産事業を営む事業者からも様々な要望が出ており、引き続き今後の税制については注目が必要となっています。

5.結論とまとめ

暗号資産の証拠金取引の個人の税制については、特段、現物の取引と異なるところはなく、年末までに実際に決済された取引に係る所得が雑所得となり、未決済の取引については、実際に決済されるまで所得には反映されません。


また、外国為替証拠金取引(いわゆるFX)や一定の金融商品先物取引に適用される申告分離課税となる先物取引に係る雑所得等の課税の特例は適用されませんので、総合課税として申告する必要がある点には注意が必要です。

また、暗号資産は取引所で所在を判定するのではなく、暗号資産保有者の居住地で判定しますので、国内の取引所・海外の取引所というのは勘案しませんので、居住地における税法にしたがい確定申告等を行ってください。