PPAにおける手続と作業スケジュールについて
国際分業がますます盛んになる昨今、我が国の企業もグローバルな活動が盛んになり、またこれに伴う企業間の競争激化から、国内外を問わずM&Aが非常に活発に行われるようになっています。
また、IFRSの浸透にともなって、このM&A時に行われる買収価格の有形・無形固定資産への配分手続(Purchase Price Allocation、以下PPAと略します。)が必要な案件も多くなっています。
今回は、PPAをテーマに、特にPPAの具体的な手続について解説をしていきたいと思います。
1.PPA手続理解の必要性
以前と異なり、監査の厳格化を背景に監査法人からPPAを求められるケースは非常に多く、企業側でもPPAを避けて通れないケースが多くなってきました。
企業側でPPAに精通した人材がいれば問題ありませんが、多くの企業においてはPPAに対応できる人材まで確保できているケースは少なく、公認会計士をはじめとする専門家にPPAの依頼を行うことが多いと思います。
その際、PPA自体は社内で行えなくとも、PPAの大まかなスケジュールを理解していれば依頼やその後の進行が非常にスムーズになると思われます。
2.具体的な作業スケジュール
無形資産の評価で実施する手続きは、大きく分けて、無形資産の「識別」と「測定」の二つに分けられれます。「識別」は評価対象会社の保有する無形資産を把握する作業で、「測定」は把握された無形資産の金額を算定する作業です。
評価対象会社の対応状況、金額的な重要性等は個々の案件ごとに異なりますが、無形資産評価の作業スケジュールは、一般的には以下のようになります。
- 評価対象会社等の情報収集
- インタビュー等を通じた無形資産の識別
- 資料の分析と無形資産の測定
- 算定書の作成
- 会計監査人によるレビューとそのフォロー
留意点としては、2.~3.の無形資産の評価作業はM&Aのクロージング後に行われます。
これは、企業の取得日(クロージング日)後でなければ、資産負債、すなわち貸借対照表の確定ができないためです。
3.評価対象会社に関する情報収集
算定人が無形資産の評価を実施するに当たり、まずは事前に買収案件の目的や背景、買収スキーム等を理解します。
加えて、評価対象会社の事業内容、財務内容、評価対象会社が属している市場環境の状況等についても理解を進めます。
これらを行うためには、事前に社内外から資料を収集する必要があります。
ただし、必ずしも評価対象会社であるM&A当事会社が必要な資料やデータを保有しておらず、情報の収集が困難な場合もあります。
そうケースにおいては、評価対象会社に別途資料を作成してもらったり、評価対象会社へのインタビューを行ったりします。
また、代替のデータを用いて一定の仮定の下に各種の数値を推定することもあります。(例えば、事業部別の詳細なP/Lがない場合でも、同業他社の一般的な粗利率や事業規模などを勘案して簡易的な事業部別P/Lを作成する等)
、追加的又は代替的な方法を実施することも少なくない。
4.無形資産の識別
続いて、法律上の権利などの分離して譲渡可能な無形資産を識別します。
分離して譲渡可能な無形資産を識別するに当たって特に重要になるのが、買い手は被取得企業の何の価値に魅力を感じて買収したか、又は被取得企業としてどこに強みがあるのか、収益やキャッシュ・フロー等の価値源泉は何かという点です。
なぜなら、財務諸表とは『経営者の主張』であり、買い手が価値を認識した無形の価値(会計上は将来キャッシュフロー)を財務諸表に反映させる手続がPPAに他ならないからです。
買い手が認識した価値源泉は、技術力なのか、ブランド価値なのか、顧客リストや販売チャネルなのか等、取得企業や被取得企業といったM&A当事会社へのインタビューや入手した情報に基づき、分離して譲渡可能な無形資産を識別し、識別された無形資産の価値が何なのかを把握します。
5.無形資産の測定
無形資産の識別が完了したら、識別した無形資産について一定の評価法や前提条件等に基づき、金額の測定を行います。
ただし、識別された無形資産の種類により、測定のための評価法は異なってくる点に留意が必要です。
評価方法が異なるということは、測定に当たって必要な情報も異なってきます。
測定に当たり、適当なデータが全て入手できればよいのですが、必ずしも全ての情報が入手できるとは限らないため、入手可能なデータから代替可能性を検討しなければらない場合もあります。
したがって、取得企業又は評価対象会社へのインタビューの際には、認識された無形資産の測定に当たって必要となる資料やデータの入手可能性についても考慮しながら作業を進めることが必要となります。
6.会計監査人によるレビュー
識別、測定された無形資産は財務諸表に計上されることになりますから、当然に財務諸表監査を担当する会計監査人の監査対象となります。
したがって、無形資産の識別や測定のプロセス、算定結果等につき、監査手続の一環として会計監査人から質問を受けることになるでしょう。
無形資産の評価は会計目的の評価であるため、厳しい言い方ですが、算定結果が監査人に受け入れられなければ意味のないものとなってしまいます。
会計監査人からの指摘事項があればそれについてフォローを実施するのはもちろん、最終的には監査人が無限定適正意見を表明できるだけの心証を得られるよう、情報的提供等の協力をしなければなりません。
PPAを実施するに当たっては、会計監査人とあらかじめ論点となりうる点を共有し、早い段階から協議しながら進めていくことが望ましいでしょう。