広告業における代理人取引等③

今回も前回に引き続き、広告業における代理人取引について解説していきたいと思います。

前回は、新しい収益認識基準においては本人取引と代理人取引とに分類する必要があり、本人取引の場合は総額表示、代理人取引の場合は総額表示となるという説明をしました。

これは、本人取引に該当する場合には、企業が財サービスの提供者そのものになるので通常の売上などと同様に収益認識は総額表示となりますが、一方で代理人に該当する場合は、企業自身が付加価値の創出に直接寄与している訳ではなく、仲介的な立場によって取引の成立を補助しているに過ぎないため経済的な実質をより適切に描写するには、このように取引の純額表示をすることが適切ということになります。

広告業においては、特にこの区別が重要であるためコラムで解説をしております。


なお、自ら財を製造する場合又はサービスを提供する企業が当該財又はサービスに対する支配を顧客に移転する場合には、広告業か否かにかかわらず当該企業は本人であり、本人と代理人の区分を判定しません。

今回はこれらの議論を踏まえ、履行義務が「本人」に該当するのか、「代理人」に該当するのかその判断基準について解説をしていきたいと思います。

1.適用指針における本人取引と代理人取引の判断基準について

本人取引と代理人取引の区別は、適用指針に基づき行うこととなります。

適用指針によれば、顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している場合は、財又はサービスが顧客に提供される前に企業が当該財又はサービスを支配しているときに、その企業が本人に該当します。

一方で他の当事者が提供する財又はサービスが顧客に提供される前に企業が当該財又はサービスを支配していないときは、企業は代理人に該当します。

企業が本人に該当することの評価に際して、企業が財又はサービスを顧客に提供する前に支配しているかどうかを判定するにあたっては、(1)から(3)の指標を考慮することになります。


(1) 企業が当該財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有していること。これには、通常、財又はサービスの受入可能性に対する責任(例えば、財又はサービスが顧客の仕様を満たしていることについての主たる責任)が含まれる。
企業が財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有している場合には、当該財又はサービスの提供に関与する他の当事者が代理人として行動していることを示す可能性がある。

(2) 当該財又はサービスが顧客に提供される前、あるいは当該財又はサービスに対する支配が顧客に移転した後(例えば、顧客が返品権を有している場合)において、企業が在庫リスクを有していること
顧客との契約を獲得する前に、企業が財又はサービスを獲得する場合あるいは獲得することを約束する場合には、当該財又はサービスが顧客に提供される前に、企業が当該財又はサービスの使用を指図し、当該財又はサービスからの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有していることを示す可能性がある。


(3) 当該財又はサービスの価格の設定において企業が裁量権を有していること財又はサービスに対して顧客が支払う価格を企業が設定している場合には、企業が当該財又はサービスの使用を指図し、当該財又はサービスからの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有していることを示す可能性がある。
ただし、代理人が価格の設定における裁量権を有している場合もある。例えば、代理人は、財又はサービスが他の当事者によって提供されるように手配するサービスから追加的な収益を生み出すために、価格の設定について一定の裁量権を有している場合がある。

2.広告業における代理人取引

広告業における代理人取引の判定は、実務指針などを踏まえると次の手順で決定することになります。


①顧客に提供する財又はサービスを識別
②財サービスが広告出稿主に提供される前段階で企業が支配しているかどうかを評価

また、この②の支配要件については、以下の3点を考慮して判断します。

ただし広告業といってもその提供している業務内容は多岐にわたるため、財又はサービスの性質、契約条件を個別に見た上で、個々の業務レベルにまで落とし込んで前述の三つの指標に照らして、支配しているかの判断を行ってください。

①企業が顧客に対する契約の履行について、主たる責任を有しているかどうか
②企業が在庫リスクを有している
③企業が財又はサービスの価格の設定において、裁量権を有している

【留意点】

三つの指標はあくまで例示ですから、この3つの要件のみによって支配の評価が行われるわけではないという点に留意しましょう。

3.実務における判断

実務上はどう判断されるでしょうか。

広告代理店のビジネスモデルの特徴として、

  • 広告代理店が広告主に対して直接広告枠を提供している
  • 広告主からの要望に応じて代理店側が広告枠を確保している
  • 代理手数料という形で料金を収受している
  • 一般的に広告枠の手数料について代理店は価格設定において高い裁量権がない

といったことがあります。

そのため広告代理店の手数料ビジネスは代理人に該当すると判断される取引が多く、純額表示で開示されるケースが多々あるので注意しましょう。