暗号資産の売買損益の取扱い

ビットコインのような暗号資産の売買により生計を立てている個人事業者について、所得税の計算期間は毎年1~12月とされていますが、 1年間に複数のビットコイン売買を行っているため、年末には売却前のビットコインの残高があるといったケースがあると思います。

この年末に保有しているビットコインのストックが購入時より値上りして含み益や含み損が生じている場合、その年の所得税の計算においてどのように取り扱われるのでしょうか。

今回は、こうしたケースについて解説していきたいと思います。

1.暗号資産の含み益の所得税計算

結論としては、所得税法上、 未実現の評価損益、すなわち売却前の値上りによる含み益や、値下りによる合み損は認識しないことを原則とするため、年末に保有する暗号資産に係る含み益や含み損は、所得税の計算において計上しないものと考えます。

年末に保有する暗号資産について、現行の所得税法には評価差額の取扱いや年末時の換算方法に関する具体的な明文規定はありません。

他方、法人の有する暗号資産については、 令和元年(2019)度税制改正により、活発な市場が存在する仮想通貨に係る期末時価評価の取扱いが法人税法上明記されたものの、所得税法の改正は取得価額や譲渡原価に関するもののみであり、時価差額(時価評価や低価法の適用の可否)ついての改正はありませんでした。

したがって、所得税の基本となるルールや、暗号資産と同じように合み益や含み損が生じる外貨や株式などの取扱いを参考に、どのように取り扱うかを現行は判断することとなります。

所得税の根幹を成す所得税法第36条・第37条、外貨の年末換算、株式の評価差額の取扱いなどから導かれる結論ですが、現行法においては、売却前の評価損益は認識しないと考えられます。

この現行法では評価損益を認識しない論拠について、所得税法の最も重要な規定とされる所得税法第36条・第37条は、『権利確定主義・債務確定主義』がベースとなり、『権利確定主義・債務確定主義』においては評価損益の計上を原則として認めていないからです。

加えて、所得税法上、年末に保有する暗号資産に係る評価損益を認識しないという取扱いは、会社員の副業による雑所得の場合も、暗号資産売買を本業とする個人事業者の事業所得であっても、差は生じないものと考えられるため課税の公平性を毀損する恐れもありません。

なお、計算技術上の問題として、現物取引の計算結果の残高と、実際の取引所やウォレットの残高との差分調整という論点があります。

暗号資産の年末評価額は、直接計算によって算定されますが、『期首残高 +当期購入-期末残高』により間接的に暗号資産の売上原価や譲渡原価を算定することも可能です。

これらの残高が一致すればよいのですが、実際には一致しないことがほとんどなので

現物資産の残高調整:現物取引の計算結果の残高と、実際の取引所やウォレットの残高との差分を調整します。

暗号資産売却時の売上原価や譲渡原価の算定については、 株式や外貨に係る原価算定を参考にすると、総平均法に準ずる方法、 移動平均法、総平均法による算定方法などが考えられますが、 2017年12月に「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」が国税庁より公表され、移動平均法を原則とし、継続適用を要件として総平均法を認めると掲載されました。

その後、令和元年税制改正により、暗号資産の法定評価方法が総平均法に改正され、令和元年(平成31年) 分の計算より、総平均法よる算定を原則(移動平均法の選択には届出が必要)とされました。

2.参考条文について

最後に参考まで、個人に適用される所得税法と法人に適用される法人税法の取扱いの対比を、 下記にまとめます。

<所得税法第36条第1 項>

(収入金額)

第36条 その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、 その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利症をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額) とする。

<所得税法第37 条第1項>

(必要経費)

第37条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びにざか所得の金額のうち第35条3項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、 これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生すべき業務について生じた費用 (償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。) の額とする。