複数の取引所で暗号資産を取引した場合の取得原価の計算
暗号資産を運用する場合、複数の取引所を利用する場合が考えられます。
たとえば、ある1つの取引所では暗号資産の購入及び売却を行い、もう1つの取引所では購入のみ行ったとします。
この場合、取得原価はどのように計算するのでしょうか?
今回は、複数取引所で暗号資産を売買した場合の取得原価について、解説をしていきたいと思います。
1.概要
暗号資産を複数の取引所で購入した場合の取得原価の取扱いは明確になっておりません。
しかし、他の規定などとの整合性を勘案すると、原則として取引所ごとではなく、購入した全ての暗号資産をまとめて計算するものと考えられます。
2.所得税の取り扱い
令和元年(2019年)度税制改正において、法人税及び所得税ともに、暗号資産は棚卸資産及び固定資産から除外されました。
また暗号資産の評価の方法は、その種類ごとに選定しなければならないこととされており、名称の異なる暗号資産は、それぞれ種類の異なる暗号資産として区分して評価方法を選定することになっております。
国内の暗号資産交換業者が提供する、株式の特定口座年間取引報告書と類似した「年間取引報告書」や「お取引レポート」を基に、国税庁は暗号資産の所得を計算できるエクセル資料「暗号資産の計算書」のダウンロードサービスを2018年11月に公開しました。
現状、複数の取引所で暗号資産を取引した場合の取得原価の計算方法は明確になっていませんが、参考となる評価方法としては以下の2つがあり、どちらかによって評価するのが適切と思われます。
⑴短期売買商品等
法人税は合和元年度税制改正において、暗号資産が短期売買商品の条文に組み込まれました。
短期売買商品は所得税法にはなく、法人税法の規定となりますが、取得原価の評価方法の選定単位を検討する上で取り上げます。
短期売買商品等(活発な市場が存在する信号を含む)の1単位当たりの帳簿価額の算出方法は、その法人全体を1つの単位として、その有する短期売買商品等の種類等ごとに選定しなければならない、とされています。
その適用にあたっては、事業所別に選定できることとし、または棚卸資産の区分をさらに細分化して選定できると規定された法人税基本通達5-2-12「評価方法の選定単位の細分」の取扱いを準用する、とされています。
つまり短期売買商品等(活発な市場が存在する暗号資産を含む)について、種類等ごとに、また事業所別になる計算方法の選定を認められることが明記されています。
この通達の種類を暗号資産に置き換えれば、ビットコインやイーサリアムということになります。
また、この通達の事業所というのは、評価の集計単位を述べています。暗号資産に置き換えれば、会社のA事業所の暗号資産は総平均法、B事業所の暗号資産は移動平均法というようになると考えます。このように会社の事業所単位で方法を選定することについては、置き換えができる可能性があります。
ではこの通達の事業所を、ビットフライヤーやコインチェックのような暗号資産交換業者の取引所への置き換えができるかというと、取引所は暗号資産を預け入れている箱にすぎず、この通達の事業所には該当しないので、置き換えはできないと考えます。
したがって、同じ種類の暗号資産は、保管先の取引所が異なっていても、同一の評価方法により評価しなければならないと考えます。
⑵上場株式の特定口座
上場株式を2つ以上の特定口座で運用している場合には、それぞれの特定口座年間取引報告書に記載された年間取引損益の各欄の金額を合計する、とされています。
具体的には、上場株式を2つの特定口座で運用し、A証券口座の特定口座では売却と購入を行い、B証券口座の特定口座では購入しか行わなかったケースにおいては、A証券口座のみが所得の対象となります。
証券口座の特定口座は暗号資産交換所の取引所と類似しています。しかし、⑴で検討したように暗号資産は取引所ごとに損益を集計しないと考えていますから、この点が上場株式の特定口座の損益の計算方法と大きく異なります。
税務上明確になっていませんが、種類を同じくする号資産は、複数の取引所の購入履歴を合算して、取得価額を計算することになると考えます。
仮に、以下の2つの取引所で暗号資産の取引を行った場合について、総平均法で計算した例を記成します。
(A取引所)
・3月1日 購入:1 BTC =800,000円
・5月1日 売却:1 BTC =900,000円
(B取引所)
・12月1日 購入:1BTC =1,200,000円
この場合、A取引所のみの損益は100,000円(900,000円-800,000円=100,000円)の売却益となります。しかし暗号資産の取得価額は、A取引所とB取引所の購入価額を総平均法で計算した@1,000,000円/1BTC((800,000円+1,200,000円)÷2=1,000,000円)となりますので、この年は100,000円(900,000円-1,000,000円=△100,000円)の売却損ということになります。