ファイナンス・リース判定における現行基準との差異について
ここまでサブリースに関する原則的な会計処理および転リースの会計処理について見てきました。
サブリースの会計処理では、中間的な貸手が貸手のポジションとなりファイナンス・リース取引の判定が必要になるケースがありますが、今回はその判定指標が現行基準と新基準でどう違ってくるのかについて見ていきたいと思います。
なお、定義等は、企業会計基準委員会より公表された企業会計基準公開草案第 73 号「リースに関する会計基準(案)」等及び企業会計基準適用指針公開草案第 73 号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」に関するサブリース関連の項の記載を参照し、適宜省略及び意訳を行っている点はご了承ください。
1.ファイナンス・リースの判定における記載上の変化
サブリースの会計処理について適用指針の公開草案では、中間的な貸手のヘッドリースについてはリースの借手の会計処理を、中間的な貸手のサブリースについてはリースの貸手の会計処理を行うことが提言されています。
また、貸手の会計処理については従来通りのファイナンス・リース取引・オペレーティング・リース取引の区分が継続するので、貸手であるサブリース側の会計処理は下記の現在価値と経済的耐用年数基準により、ファイナンス・リースかどうかの判定を行うことになります。
(1) 現在価値基準
サブリースにおける貸手のリース料の現在価値が、独立第三者間取引における使用権資産のリース料の概ね 90 パーセント以上であること
(2) 経済的耐用年数基準
サブリースにおける貸手のリース期間が、ヘッドリースにおける借手のリース期間の残存期間の概ね 75 パーセント以上であること
基準で示されるパーセンテージ等の基本的な設計は現行基準から変化していませんが、その文言が実は少し変化しています。
具体的には、⑴の「独立第三者間取引における使用権資産のリース料」と⑵「ヘッドリースにおける借手のリース期間」の部分です。
一見ほとんど変化がないように見えますが、実務上も影響を与えるポイントがあると予想されるので次章以降でこれを見ていきます。
【参考】
参考までに現行基準におけるファイナンス・リース取引の判定を下記に記載します。
太字の部分がサブリースの記載との相違点になります。
(i) 現在価値基準
解約不能のリース期間中のリース料総額の現在価値が、当該リース物件を借手が現金で購入するものと仮定した場合の合理的見積金額のおおむね90%以上である場合
(ii) 経済的耐用年数基準
解約不能のリース期間が、当該リース物件の経済的耐用年数のおおむね75%以上である場合
2.独立第三者間取引における使用権資産のリース料の意味
新たな適用指針のサブリースにおけるファイナンス・リース取引の判定における記載上のポイントが「独立第三者間取引における使用権資産のリース料」という抽象的な言葉です。
これを読み解くヒントとなるのが、適用指針86項の文言です。
具体的には、リース料の現在価値の算定を行う場合に、次の(1)の金額が(2)の金額と等しくなるような利率を用いることが求められとされています。
(1) サブリースにおける貸手のリース料の現在価値と使用権資産の見積残存価額の現在価値の合計額
(2) 使用権資産に係るサブリースのリース開始日に現金で全額が支払われるものと仮定した場合のリース料。このとき、当該リース料は、サブリースを実行するために必要な知識を持つ自発的な独立第三者の当事者が行うと想定した場合のリース料(独立第三者間取引における使用権資産のリース料)とします。(当該利率の算出が容易でない場合、ヘッドリースに用いた割引率を用いることができます。)
この文言から、独立第三者間取引における使用権資産のリース料≒使用権資産の時価相当の金額と考えることができます。
これは少し複雑なロジックなので以下、説明をします。
まず使用権資産の時価の価値は、本質的にはサブリースによって獲得できる将来キャッシュフローです。
そして、そのキャッシュフローは、年度ごとに利子率で割り引かないと現在におけるキャッシュフローと等価になりません。(このキャッシュフローに当たるのが上記の⑴になります。)
この⑴を利子率によって割り引いたキャッシュフローの現在価値合計は、定義上使用権資産の購入価値と等価にならないといけません。(文言上は、この購入価値の部分が⑵となります。)
なぜなら、これが等価でない場合、購入または利用のどちらかの期待値が上回ってしまうため市場取引が成立しなくなるからです。(このため基準の文言上では、⑴と⑵が一致する利率とされています。)
次はいよいよ現行基準と新基準の違いを見ていきますが、独立第三者間取引における使用権資産のリース料=使用権資産の時価相当の金額としてこれを読んでみましょう。
3.現行基準から新基準へ移行した場合の実務上の予想される影響
現行基準と新基準の違いとして現行基準では、サブリースのリース分類をどのように行うかが明確にされていませんでした。
そのため現行基準下の実務では、ヘッドリースにおける原資産に対して(現行基準における定義の)現在価値基準、経済的耐用年数基準を適用していました。
これによる実務上の影響について、現在価値基準、経済的耐用年数基準のそれぞれについて見ていきます。
まず現在価値基準ですが、式の分子は一緒、分母が現行基準と新基準でそれぞれ違うという構造になります。
具体的には、現行基準は借手の見積り現金購入価額であるのに対し、新基準は前章で見たように、独立第三者間取引における使用権資産のリース料=使用権資産の時価相当の金額となります。
この両者を比較した場合、現行基準は所有権を前提としたリース物件(物品)の価値であるのに対し、新基準は使用権資産の価値であるので所有権を前提とする現行基準の方が数字が大きくなるだろうと推測できます。
次に、耐用年数基準について見ていきます。
耐用年数基準は、現行基準が耐用年数であるのに対し、新基準はヘッドリースにおける借手のリース期間です。
一般に保有資産の耐用年数を超えてリースを行うことはないと考えられるため、新基準の分母の数値は現行基準の分母の数値以下であろうと推測できます。
このことから分かるのは、現在価値基準、経済的耐用年数基準のどちらにおいても、基本的には現行基準に比べて新基準は分母が小さくなるという影響があるということです。
そうであれば、判定上現行基準ではファイナンス・リース取引と判定されなかった取引がファイナンス・リース取引と判定される可能性が出てきたということで、サブリースがファイナンス・リースに該当するケースが今後は多くなるのではないかと予想されます。