中間的な貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合の処理について

サブリースの原則的な会計処理やその変則的な形態である転リースの会計処理についてここまで見てきました。

繰り返しになりますが、サブリースの原則的な会計処理では、中間的な貸手は、ヘッドリースについては借手のポジションとして、サブリースについては借手のポジションとしてそれぞれ原則的な会計処理を行います。

また、転リースの処理においては、貸借対照表上はリース資産とリース債務を両建てするものの、損益計算書においては、貸手として受け取るリース料と借手として支払うリースの手数料を相殺して純額で算定しました。

今回は、転リースに加えてもう一つの例外的な会計処理である「中間的な貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合」の会計処理について学んでいきます。

今回の例外的な会計処理では、サブリースでありながら、実態はサブリースというよりはヘッドリースとサブリースが一体化した一つのリース取引とみなせるような場合であり、損益計算書上は両建て処理、貸借対照表上は資産負債の計上は行わないというものです。

転リースの会計処理で学んだ考え方が生きると思いますので、転リースの処理の復習もしつつセットで理解するのが学習効率が高いと思います。

1.中間的な貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合の具体例

サブリース取引の形式をとる取引パターンの1つに実務上、以下のような取引があります。

まず、不動産会社は不動産の所有者から第三者への転貸前提でマスターリースなどで不動産を借り上げるとします。

これだけでは単なるサブリースで、実務上よくあるのが不動産オーナーに対し満室である場合の賃料の80%~90%程度を保証するという特約で、オーナー側は空室リスクが大きく低減するためサブリース物件に応募しやすくなります。

一方で、不動産会社側が空室リスクを負うので、不動産会社としては本来はこのような契約はリスク管理上あまり望ましくありません。

そこで、不動産会社側としてはリスクヘッジのため、一部の物件で空室リスクをオーナー側に負担してもらうよう、ヘッドリースのリース料とサブリースのリース料を連動させて、サブリースの借手からの賃料が払われない限り、不動産の所有者に賃料を支払わないという条件を付すようなケースがあります。

今回のコラムで取り上げる「中間的な貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合」は、上記のようなケースでの会計処理です。

2.中間的な貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合の会計処理

まずは、企業会計基準適用指針公開草案第 73 号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」の記載を見てみましょう。

適用指針では、サブリース取引のうち、次の要件を全て満たす取引について、中間的な貸手は、サブリースにおいて受け取るリース料の発生時又は当該リース料の受領時のいずれか遅い時点で、貸手として受け取るリース料と借手として支払うリース料の差額を損益に計上することができるとあります。


(1) 中間的な貸手は、サブリースの借手からリース料の支払を受けない限り、ヘッドリースの貸手に対してリース料を支払う義務を負わない。
(2) 中間的な貸手のヘッドリースにおける支払額は、サブリースにおいて受け取る金額にあらかじめ定められた料率を乗じた金額である。
(3) 中間的な貸手は、次のいずれを決定する権利も有さない。
① サブリースの契約条件(サブリースにおける借手の決定を含む。)
② サブリースの借手が存在しない期間における原資産の使用方法

これは、中間的な貸し手(ヘッドリースの借り手であり、サブリースの貸し手である主体)においては、ヘッドリースとサブリースが一体的であるという解釈から求められる会計処理ですが、この理論的背景については解説が必要と思われますので、改めて以下で確認してみます。

3.中間的な貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合の会計処理の理論的背景

まず重要な点が、前章2.で紹介した会計処理は、(一見そうは見えませんが)貸借対照表と損益計算書の両方についての定めであるということです。

具体的には、⑴と⑵が主に損益計算書についての規程、⑶が主に貸借対照表についての規程となります。

それではまず、⑴⑵の損益計算書の規程から見ていくことにしましょう。

不動産取引の中には前章までで説明したような特殊な付帯条項等が多く、法的にはサブリースの要件を満たしてヘッドリースとサブリースがそれぞれ存在する場合でも、実態としては一つの取引スキームとして捉える方が適切なケースがあります。

その場合、中間的な貸手がヘッドリースとサブリースを 2 つの別個の契約として借手と貸手の両方の会計処理を行って、貸借対照表において資産及び負債を計上してしまうと会計処理が取引の実態を反映しなくなってしまうという懸念があります。


今回紹介した⑴~⑶のようなケースでは、実態として一取引と考えた方がより適切な会計処理になると考え、適用指針はサブリースの会計処理の例外的な取扱いと位置付けています。


(1)及び(2)の要件は、結論からいうと純額処理を要求しています。

というのは中間的な貸手は、ヘッドリースにおける支払条件として、サブリースの借手からリース料の支払を受けない限りヘッドリースの貸手に対してリース料を支払う義務を負わず、権利義務の観点からいうと別個の収益と見ることができません。

加えて、サブリースにおいて受け取る金額にあらかじめ定められた料率を乗じた金額とされるのであれば、空室などの実質的なリスクはサブリースの借手に移転しており、この場合は純額処理が適切です。

次に、貸借対照表を見てみましょう。

中間的な貸手のヘッドリースへの支払義務は、サブリースからの支払を受けた場合にのみ発生します。

その一定割合の金額についてリース料支払が生じるので、中間的な貸手はヘッドリースに対する一切のリスクを負っていません。

したがって定義上その本質が支払義務であるヘッドリースのリース負債は、計上されないというのが論理的な帰結です。


(3)の要件については、文言が非常に難解なのですが、次のように考えれば分かりやすいです。

今回想定するようなサブリース取引は、中間的な貸手である不動産会社がリスクを限定したいという目的でサブリースの借手にリスクを移転するような契約を締結した場合を前提としています。

だとすると、サブリースの条件についての最終決定権をヘッドリースの貸手が有しているような場合は、中間的な貸手は結局リスクを負うことになるので、貸借対照表に負債を計上しないという処理が正当化されません。

ヘッドリースの契約が存在している期間において、中間的な貸手がサブリースの対象となる原資産の使用方法を自由に決定できるような場合、サブリースの借手はその使用が実質できないためそもそもリースではなく、変則的な担保設定のような取引スキームと考えられます。

すなわち中間的な貸手が、サブリースの契約条件及びサブリースの借手が存在しない期間における原資産の使用方法を決定する権利を有さないとする要件を設けることで、中間的な貸手のヘッドリースに対する権利が限定的であり、貸借対照表において使用権資産を計上しないことが適切である取引のみを特定した結果が⑶の要件です。

いずれにしても、上記のような理由で、⑴~⑶を充足するようなサブリース取引については、使用権資産を計上しないことが財務諸表利用者にとっての有用な情報提供になると思われます。

↓未更新

最後に収益認識のタイミングについて見ていきます。


中間的な貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合、別個の契約とはみなされないため資産・負債を計上しないことができるとされます。

一方、損益計算書の観点では、収益認識の代理人のような立場となるため純額表示となります。

収益・費用の認識時点は発生時となるのが原則ですが、この例外的な会計処理の要件は「サブリースの借手からリース料の支払を受けない限り、中間的な貸手がヘッドリースの貸手にリース料を支払う義務を負わない」となるので、収益費用の発生は、サブリースにおいて受け取るリース料の発生時とリース料の受領時のうちのいずれか遅い時点でとなります。