企業が暗号資産で役員給与を定期同額支給した場合の取り扱いについて
本記事では、企業が定時株主総会において取締役への報酬額を暗号資産で定額支給した場合の処理について考察します。
1.会計上の取り扱い
2018年11月に国税庁が公表した「 仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」によれば、 給与を暗号資産で支給する場合、現金以外の現物支給として取 り扱われるため、その現物給与については経済的利益を評価する必要があります。暗号資産の評価については、換算レートが存在することから、 支給時の価格で評価することになります。
※会計上の取り扱いについては、原則として従業員給与の場合と同様なので、詳細は給与の前回の記事『企業が暗号資産で給与を支払った場合の取り扱いについて』を参照してください。
2.法人税法上の役員給与の損金算入要件
法人税法では、会社役員に支給する給与のうち、
3.法人税の取り扱い
法人税法において、会社役員に支給する給与は、 定期同額給与、事前確定届出給与、 業績連動給与のいずれかに該当し、かつ、不 相当に高額な部分を除いた金額が損金の額に算入されます。 このうち定期同額給与は、 一般的な株主総会から次の株主総会までの役員給与定額とすること が、損金算入要件とされています。
ここで問題となるのは、現物給与とされる暗号資産について円換算が必要となる点です。
ビットコインやイーサリアム、リップルなどの暗号資産は常時価格変動するものであるため、 円換算後の給与額で見れば必然的に毎月変動してしまいます。少なくとも所得税においては、収入金額の計算上及び源泉徴収事務の関係上、上記の経済的利益の評価を避けることはできません。
そうなると、暗号資産による役員給与は定額支給にならないのではないかという疑問が生じます。
この点について、 法人税の取り扱いをより詳細に見てみると、現物給与は経済的利益に含められており、「 継続的に共有される経済的な利益のうち、 その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの」 とされています。(法令69①二、法基通9-2-11)。
この「経済的な利益のうち、その供与される額が毎月一定」 という条件を満たせば定期同額給与となり、損金算入が認められると考えられます。明文規定がないため、現時点では税務上の取り扱いは明確になってはいませんが、定期同額給与の趣旨である法人の恣意性の排除及び利益操作の防止ということを鑑みるに、所得税で給与課税された金額で判定することや、円換算後の支給額が毎月一定であることまで求められているとは思えません。
したがって、暗号資産の現物給付の支給額自体を毎月定期同額支給して、 その円換算額が毎月概ね一定であれば、 定期同額給与として取り扱われることになると思われます。ただし、その額が毎月著しく変 動する場合は、「経済的な利益のうち、その供与される額が毎月一定」という要件を充足することができず、定期同額給与から外れ、損金不算入となる可能性がある点には留意が必要となります。
4.消費税の取り扱い
消費税の課税仕入れの要件のうち、 所得税法に規定する給与の役務提供は課税仕入から除外されていま す。したがって、会社が役員に支給する給与に対する消費税は、 課税対象外となります。
一方、暗号資産の購入日と支給日に生じる円貨換算差額は、会計上は純額処理、消費税法上は売買取引として総額処理となります。
すなわち、暗号資産による役員給与の支払いに関しては、支払対価の額が非課税仕入となり、 給与支給時に給与支給額相当額が非課税売上となります。
※消費税の取り扱いについては、原則として従業員給与の場合と同様なので、詳細は給与の前回の記事『企業が暗号資産で給与を支払った場合の取り扱いについて』を参照してください。
いかがでしたか?
暗号資産で役員給与を支給することは、立法趣旨に抵触しない形態で行う限りは原則的には定期同額給与として認められ、損金算入されると考えられますが、暗号資産の大幅な価格変動により毎月の円建ての支給額が大きく変動した場合には、結果として定期同額給与として認められないリスクもはらんでいます。
上記のようなリスクの問題もあるため、現行実務において暗号資産による役員給与の支払いは非常に稀であると考えられます。