暗号資産で信用取引を行った場合の処理
企業が信用取引を行った場合に会計上、税務上どのような処理を行えばよいのでしょうか。今回の記事では、信用取引の会計・税務上の処理についてまとめてみました。
1.信用取引とは
信用取引は、証券会社に一定以上の担保を預けることで、証券会社から売買に必要な現金や株式を借りて行う取引です。信用取引を行う事で自社で保有する現物以上の数量の取引を行うことができます。
一般的には担保として証拠金を差し入れて、一定の比率(=委託保証金率)でレバレッジを効かせて取引を行います。レバレッジが10倍であれば元本から得られる10倍の利益を狙うことができますが、損失も10倍になるので注意が必要になります。
日本暗号資産交換業協会により2018年10月に施行された自主規制の中に証拠金取引に関する規定が設けられています。当該自主規制によれば、暗号資産の証拠金取引における証拠金倍率の上限は4倍に制限されています。
これは、通常の株式会社においてはダウンサイドリスクが限定されるため(株主有限責任)、経営者が極端なハイリスクハイリターンのポジションを取ることによるモラルハザードの弊害を防ぐためと思われます。
なお、レバレッジを効かせて投資を行う取引として、信用取引のほかにFX取引(外国為替取引を「証拠金」で行う取引)や先物取引(将来の売買についてあらかじめ現時点で約束をする取引)もありますが、暗号取引所によって名称が異なっておりますので、その実態に合わせて理解する必要があります。
2.会計上の取り扱い
暗号資産の信用取引に関する明確な規定はありませんが、実務対応報告第38号等における暗号資産の位置づけなどを考慮すると、有価証券の信用取引と同様の扱いで処理することになると考えます。
以下、具体的な仕訳を考えてみます。
【条件】
差入時、信用買取時レート: 1BTC = 2,000,000円
期末時レート: 1BTC = 2,400,000円
決済時レート: 1 BTC = 2,200,000円
支払手数料:200,000円
支払利息:200,000円
【証拠金差入時】10BTCを証拠金として差し入れた。
差入証拠金 20,000,000円*1 暗号資産勘定 20,000,000円
*1 10 BTC× 2,000,000円= 20,000,000円
【信用買い時】40BTCの信用買いを行った。
信用取引暗号資産 80,000,000円*2 暗号資産信用取引未払金 80,000,000円
*2 40 BTC× 2,000,000円= 80,000,000円
【期末時】
信用取引暗号資産 16,000,000円*3 暗号資産評価益 16,000,000円
*3 40 BT × 2,400,000円= 96,000,000円
*3 96,000,000円− 80,000,000円= 16,000,000円
【翌期首】
暗号資産評価益 16,000,000円 信用取引暗号資産 16,000,000円
【決済時】暗号資産を上記レートで決済した。
暗号資産信用取引未払金 80,000,000円 信用取引暗号資産 80,000,000円
普通預金 7,600,000円*5 暗号資産換算益*4 8,000,000円
支払手数料 200,000円
支払利息 200,000円
*4 40BTC× 2,200,000回= 88,000,000円
*4 88,000,000円 – 80,000,00円 = 8,000,000円
*5 8,000,000円(*4より) – 200,000円 – 200,000円 = 7,600,000円
3.法人税の取り扱い
暗号資産信用取引を行った場合において、業年度終了時に決済されてないものがあるときは、その時において決済したものとみなして算出した利益の額又は損失の額に相当する金額(みなし決済損益額)をその事業年度の益金の額又は損金の額に算入します。
また、益金の額又は損金の額に算入された暗号資産信用取引に係るみなし決済損益額に相当する金額は、翌事業年度に洗替処理し、損金の額又は益金の額に算入することになります。
すなわち、会計の場合と同様に、法人税法上の取り扱いとしても
なお、税法上の「暗号資産信用取引」とは、貸金決済に関する法律第2条第7項に規定する暗号資産交換業者を行う者からの信用の供与を受けて行う暗号資産の売買をいいます。
4.消費税の取り扱い
取引所が保有するビットコインなどの暗号資産を売却する取引は、法律上の位置づけが明確ではないため消費税の課税対象とされておりましたが、2016年6月に公布された資金決済法により、暗号資産が支払手段と位置付けられたことを受けて改正された消費税法施行令により、2017年7月以降は非課税売上となりました。
消費税法施行令第9条第4項によれば暗号資産は、消費の対象ではない紙幣などと同等の「支払手段に類するもの」とされています。消費税法上「支払手段の譲渡」は消費税の税としての性格に馴染まないため非課税取引とされます。
ところで、暗号資産の売却取引について、会計上は売却収入から売却原価を除いた純額での会計処理となります。しかし、消費税法上は総額で処理しなければならないため、購入時は支払対価の額を非課税仕入、売却時に売却収入を非課税売上とします。
なお、暗号資産の譲渡は非課税売上ですが、課税売上割合を計算する上では、支払手段となり分母に含まれないため、総額で処理することによる影響はありません。
ただし、改正消費税法施行令施行日前の2017年6月30日以前に譲渡した仮想通貨の対価については課税売上となり、課税売上割合の分母及び分子のいずれにも含まれますので注意が必要です。